第四章:闇の龍

第一話:遺跡への道

 翌朝。

 俺達は宿の一階でテーブルを囲み。共に食事を取った。

 目の前にあるのは、温かなスープとパンにサラダという質素な朝食。


「やっぱ寒い土地でのスープって、堪らないよなぁ」

「そうじゃな。身体の芯まで温まるわい」


 それを本当に美味しそうにスープを口にするミコラに、ルッテも大きく頷く。


「野菜の甘みと塩気が合わさって、本当に美味しいわね」

「そうだな。パンとの相性も最高だな」


 フィリーネの感想に相槌を打ちつつ、俺がパンにスープを浸して放り込むと。


「お主、はしたなくないかの?」


 ルッテがマナーを咎めるかのような言葉を口にした。


「えー。めっちゃ美味そうな食べ方じゃん。俺もやってみよーっと」


 呆れる彼女とは対照的に、ミコラが面白げに真似をして食べてみると。


「うわっ。これもいけるじゃん!」


 耳をピンっとたてて、至福の表情でひたひたのパンを頬張っている。


「まったく。ミコラ。カズトの真似なんてはしたないから止めておきなさい」

「おいおい酷いな。こういう美味い食べ方もありなんだよ」

「そうかもしれないけど、王宮での食事でそんな事したら、皆から白い目で見られるわよ」


 呆れた物言いのフィリーネの言葉を聞いてはっと思い出す。

 そうか。彼女はもう宮廷魔術師だもんな。


「そういやフィリーネは王宮住まいだよな。やっぱりLランクって凄いよな」

「そんな事ないわ。元々呪いで動けないロミナと一緒に居たくて、マーガレスの厚意で住まわせて貰っているだけよ。流石に何もしないのは嫌だから、一応宮廷魔術師として後身の指導にあたってはいるけど。まあでも、中々住み心地も良いし、このまま生活するのも悪くないかもしれないわね」

「俺だっておんなじだぜ。あそこは飯もうまいし強い奴も多いし最高だぜ。そうだ! カズト。戻ったらお前も一緒に住もうぜ」

「それはいいわね。どう? いい話だと思うけど」


 ミコラは目をキラキラさせ。フィリーネも片肘を突きながら、期待の眼差しでじっとこちらを見る。

 ったく。何を期待してるんだよ。


「お前ら簡単に言うなって。大体俺はそういう生活は似合わないんだよ。Cランクとしてだらだら冒険してるほうが性に合ってるし、パス」

「なんだよー。つまんねーなー」

「ほんと、面白くないわね」


 俺の返事に不平不満を口にする二人。

 だがそれを聞き、嬉々とした表情をしたのはルッテだった。


「ならば我と何処かに旅に出るか? 世界を見て回るのも楽しいぞ?」

「それもパス。有名人と一緒だと色々目立つしな」

「つれないのう」

「ははっ。悪いな」


 朝からこうやって、互いに和やかに話しているけれど。

 当面こんな和やかな日常は過ごせそうにないし、下手に気負ってるよりよっぽど良いだろ。


 こうして、決戦前の最後の朝餐ちょうさんを終えた俺達は、そのまま一度部屋を別れ、旅の準備を始めた。

 ……ま。勿論、最後にする気はないけどな。


   § § § § §


 結局その日も天気は晴れ。

 宿屋の主人の話じゃ、一週間以上晴れが続いているらしいが、こんなのはここ何十年となかったんだとか。


 まあそのお陰というべきか。

 俺達の目的地、フォズ遺跡までの道中は雪がかなり少なく、早馬車で移動することができたんだけど。

 早馬車に乗り込み移動を始めた後。


「……これは間違いなく、師匠の仕業じゃ」


 馬車の中で、ルッテが少し緊張した表情でそう語った。


「ちょっと待て。ってことは何か? 俺達が来るのを知ってるってのか?」

「じゃろうな」

「でも、私達が王都を出て十日。幾らなんでも早過ぎよ」

「……あの遺跡は特殊じゃ。あそこを動かずとも、師匠なら世界について知る事もできる」

「そ、そう言ったってよー。俺達の事をピンポイントに知るなんて、流石に無理じゃねーのか?」

「きっとロミナの受けし呪いじゃな。あれは魔王の残した強大な力。それを監視している内に、我等の動きに気づいたのやもしれん」


 王都ロデムからここまで、それなりに離れているはずなのに、そこまでの事ができるとか、どんだけだよ……。

 お陰で馬車の空気が一気に悪くなったじゃないか。


 まあ、仕方ない。

 遅かれ早かれ緊張感は必要だ。


「さて。じゃあ敵のやばさも分かった事だし。そろそろ作戦の話でもするか」


 三人が緊張感ありありの顔を向けるのを見て、俺はひとりだけにやりとすると、今日の作戦について話して聞かせた。

 俺の話に耳を傾けながら、時に驚き。時に神妙な顔をした三人だったけど。


「ま。俺は別に構わないぜ」

「貴方が私達の為に考えてくれたのでしょう。指示に従うわ」


 迷わずそう応えてくれたミコラやフィリーネに対し。


「ふっ。我らと共に戦ってもおらんのに、もうリーダー面とは」


 少し小馬鹿にしたような口調で、ルッテが悪戯っぽく笑う。


「お主。連携はてんでダメなどと言っておった癖に、ようこれだけ作戦を思いつくのう。あの話も嘘じゃったのか?」

「あのなぁ。俺がCランクなのも、ソロばかりだったのも本当だって。だから連携に自信がないんだよ」

「どうじゃか。しかし、今の作戦は我らのパーティーの話しかしておらんではないか。お主はどうする気なんじゃ?」


 ルッテが突如、凛とした表情でじっと俺を見る。

 確かに。俺が話したのは作戦とそれに合わせた三人への行動指針だけ。扱いとしては別パーティーの俺の話は敢えてしていない。

 それでも俺を信じ、何も突っ込まず受け入れたミコラとフィリーネも中々に凄いけど、しっかりそこを突くルッテも流石だよ。


「……俺は、やれるだけの事をする。勿論、必要に応じて指示もするだろうけど、いいか?」


 曖昧な言い回しだったが、それを聞きルッテは優しく笑う。


「構わん。お主に付いて行くと決めた日から、我はお主を信じておるわ」

「俺もカズトを信じてるぞ」

「ま。信じてあげるわ。だから、私達を勝たせなさい」

「ああ。勝って、ロミナを助けよう」


 釣られて笑顔を向けた彼女達に、俺も笑い返すと、馬車の外をじっと見つめる。

 さて。

 最古龍ディア。待ってろよ。

 覚悟を決めた俺達の力、見せてやるからな。

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