第1章:オートスコピーの声 - Prologue

 あなたは、「人魚姫」に登場する王子様の名前を知っていますか?

 実は、ハンス・クリスチャン・アンデルセン原作の「人魚姫」の王子様には、名前が無いと言います。そもそも、童話に登場する王子様には、名前が与えられていないことが多いようです。

 何故なら、童話に登場する王子様は"王子様"という記号としてキャラクターが存在すれば良いからです。

 王子様というと、何を想像するでしょう?キラキラと綺麗でかっこよくて、お姫様を守ってくれる強い素敵な存在。そういった、として存在すればいいのです。

 そこに、”個"がある必要性は無いのです。


 ─オレは、そんな王子様に憧れた。

 王子様という記号さえあれば、勝手に皆かっこいい、綺麗だなどといった想像をかきたてられる、ということだ。名前なんかなくたって、勝手にそういう想像をするのだ。


 オレは、そんな記号でありたかった。

 名前などという個に縛られず、ただの記号としての、曖昧な存在であれれば良かったのに。



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