現代童話
漂本
開幕 少女と少年
「あるところにアリスというきんぱつのかわいらしいしょうじょがいました。アリスはあねにつれられ、いっしょにほんをよんでいました。しかし、つまらなくなったアリスはそとのけしきをながめていました。すると、にほんのあしでかけるしろいウサギをみつけたのです。アリスはきになって、そのうさぎのあとをおいかけました─────こうして『不思議の国のアリス』の物語は始まる。」
誰もいない場所。
どこでもない場所。
たくさんの本が山積みになった場所で、少年と、少女の声が聞こえる。
少年と少女の周りには、いくつものキラキラと光る球体が浮かんでいた。
彼らは、その球体に優しく語りかける。
「あなたたちが遺した物語は、こんなものだったかしら?」
「君たちが遺した物語は、年月が立ち、都合が良いように脚色されてしまった。」
「これでは、あなたたちも心残りがあるでしょう?」
「だから再び紡ごう、君たちの物語を。」
「登場人物になりうる材料は、山ほど散らばっている。」
「その材料たちを利用して、君たちの物語を再構築するんだ。」
「さぁ、お行きなさい。再び物語を紡ぐために。」
キラキラと光る球体たちが、少女の声に呼応するように瞬くと、ふわりとどこかへと飛んで行く。
二人はそれを、静かに見守る。
全ての球体たちがこの場からいなくなると、二人はくすくすと、笑い始めた。
「綴られてしまった悲劇。」
「後世に、残り続ける物語。」
「僕たちはそれを許さない。」
「わたしたちはそれを消滅させる。」
「穢して、汚して、」
「語り継がれるのが嫌なほど、悍ましいものに仕立て上げて、」
「「この世界に残された物語たちを、消しましょう。」」
誰もいない場所。
どこでもない場所。
たくさんの本が山積みになった場所で、少年と少女の笑い声が、静かに響いた。
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