第23話 大賢者の剣
俺は刀身をみて、少し戸惑った。
「おお? これは?」
一般的に剣に使われている鋼ではない。というか金属ですらない。
刀身は薄い水色の半透明でとても美しい。
まるでガラス細工のようだ。
「じゅっぎゅっ」
ジュジュは綺麗なものが好きなのか、目を輝かせている。
ジュジュの関心が、自動地図装置から剣に移ったようだ。
それを目敏く見つけたオンディーヌがさっと自動地図装置をジュジュから取り上げた。
ジュジュは取られたことも気付かず、剣を見つめている。
「どうかな?」
ヴィリもジュジュと同じように目を輝かせて聞いてくる。
見た感じ、どうみても脆そうだ。
たまに剣を知らない魔導師などが装飾性を重視して、実用性に欠ける剣を作ることがある。
だが、ヴィリは、俺と一緒に多くのダンジョンを踏破し、数多の魔物を倒してきたのだ。
幼少時から、剣対魔法の手合わせも数えきれないほどやってきている。
剣聖の剣を最も間近で見続けたのがヴィリなのだ。
剣のことは、そこらの剣士より知っている。
だから、この剣も見た目通りではないのは間違いない。
「……これまで俺が持ったことのないタイプの剣だな」
「でしょ?」
ヴィリはどや顔している。
よほど剣の品質に自信があるようだ。
俺は剣を軽く振ってみる。
「じゅっじゅ!」
「触ったらダメだよ」
ジュジュを抱っこしたまま剣を振るのにも慣れなければなるまい。
「うむ。いい感じのバランスだ。扱いやすい」
剣は手に馴染み、扱いやすい長さでなければならない。
重さ自体も大切だが、重量バランスが肝要だ。
長さとバランスは非常にしっくりきた。
「軽すぎないかな?」
「確かに軽い。まるで羽を持っているかのようだが」
「扱いにくい?」
「いや、俺は軽い方が好みだ」
剣の重さは、剣士によっても好みが分かれる。
ある程度重みがあったほうが、遠心力を使えるからいいという剣士もいる。
俺は軽い方が振りも速くなるし、戻しも素早くなるのでよいという考えだ。
元々俺の流派の戦い方は足運びと速さを重視している。
その戦い方に非常にあっていた。
「長さ、重量バランス、持った感じは、非常に素晴らしい。扱いやすいことこの上ない」
「それは良かったよ」
それらが良くなければ、剣士が本当の実力を発揮するのは難しい。
だから、俺が使う剣は全てオーダーメイドで作っていた。
昔は、俺もそれなりにいい生活をしていたのだ。
それらの剣と、ヴィリの剣は同じぐらい振りやすく握りやすかった。
いや、軽い分、扱いやすいかもしれない。
「どうやったんだ? まるでオーダーメイドしたみたいだ」
「長さと重量バランスは昔グレンが使っていた剣を基準にしているからね」
「ほう? どの剣だ?」
基本的に剣は消耗品。
いくら高級な剣だろうと、硬い魔物を斬れば刃こぼれする。
剣聖と言われた俺の腕前でも、それは避けられない。
だから、俺が実戦で使った剣は、千振りはくだらない。
「どの剣って、僕がもらった剣全部だよ」
「あれ、全部か」
大量の魔物と連続で戦うときは、途中で剣を交換しながら戦ったものだ。
そうして破棄される予定の剣を、ヴィリが欲しいと言うのであげていた。
恐らく数十振りはあげたと思う。
「素材の研究とか言っていたけど……」
「そう。その研究の成果がまさにそれだよ」
そういって、ヴィリは俺の持つ剣を指さした。
「そう言われると、凄くいい剣に見えてきたな」
有史以来の天才と名高いヴィリが研究した結果ならば、悪いことはあるまい、とは思う。
「だが、剣は剣士が使ってみないと、本質はわからんからな」
「うん、確かめてきてよ」
「ちなみに、従来の剣とどういう点が違うんだ?」
「耐久性が著しく向上しているよ」
耐久性は、俺が剣に求める最重要の要素の一つだ。
「そうなのか? 綺麗で……なんというかガラス細工みたいで……」
「脆そうに見える?」
「ああ。見た感じだが。軽いしな」
耐久力を考えると、やはり主材料は鋼になる。
だが、鋼は重い。
昔から俺は剣を軽くしたかった。
だが、軽くするには刀身を薄くする必要がある。
薄くしたら当然折れやすくなる。
耐久力を維持したまま軽くしたいとはずっと思っていたのだ。
「ちなみに材料は?」
「ミスリルとオリハルコン。それに精製した魔石だよ」
「……なんと。高かったんじゃないか?」
「研究の産物だから。試作品みたいなものだから気にしないで。それにさっきも言ったけど、実際に使ったデータが欲しいからね」
「そうか、それなら遠慮なく……」
「うん、そうして」
ミスリルとオリハルコンは非常に高価な金属だ。
伝承では、ミスリルもオリハルコンも精霊の神が地上にこぼした物質と言われている。
真偽のほどはわからないが、魔力との親和性が高いのは事実だ。
剣の素材にミスリルとオリハルコンを用いるときは、鋼の添加物としてほんの少し混ぜる。
そうして作られた鋼は特殊鋼とよばれ、剣の素材として最適とされている。
特殊鋼でつくられた剣は、ただの鋼でつくられた剣と比べて耐久力や切れ味が跳ねあがるのだ。
「それにしても、刀身が金属には見えないが……」
「ガラスか鉱石みたいに見えるかもしれないけど、金属光沢がない以外は金属の性質を持っているよ」
「不思議な物体もあるものだな」
「うん。耐久度は、グレンの昔の剣に使われていた特殊鋼の数万倍ある」
「それは、もはや、剣というより魔道具といった方がいいかもしれないな」
「もちろん。当然魔道具だよ?」
そう言ってヴィリは笑った。
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