第22話 探索への準備
「自動地図装置の使い方を教えるね」
ヴィリは自動地図装置を手に、俺とジュジュの真横にやってくる。
「まずここに手を触れて」
「うん。触れたぞ」
「それで起動は完了」
「え、それだけでいいのか?」
「もちろん。全体を表示したいときはこうやって、拡大表示したいときはこうすればいいよ」
「……すごいな」
「じゅ~ぅ」
あまりに凄くて語彙力が乏しくなってしまう。
スプーンをくわえたジュジュも目を輝かせて自動地図装置を見つめていた。
そこにオンディーヌが割り込んできた。
「ヴィリ近い。説明は私がやる。向こうへ行け」
「わかったよ。仕方ないな」
苦笑いしてヴィリが離れる。
すると、オンディーヌが最初から丁寧に使い方を教えてくれた。
一通り、使い方を教えてもらい、お礼を言ってテーブルに自動地図装置を置いた。
「じゅっじゅっ!」
するとちょうどご飯を食べ終わったジュジュが、自動地図装置に向かって手を伸ばす。
抱っこ紐から落ちそうな勢いだ。
「じゅーっじゅーっ」
「もう、仕方ないな」
「じゅ!」
仕方ないので、ジュジュに自動地図装置を持たせた。
起動させたり、停止させたり、拡大表示させたり楽しそうにいじりはじめた。
「子供がいじったぐらいでは、壊れないから安心していいよ」
ヴィリはそう言って、テーブルの向こうで微笑んでいた。
ジュジュが自動地図装置で遊んでいる間にも、装備の説明は続く。
「次は魔道具のロープ。ここに魔石が入っていて、スイッチ一つで巻き取りもできるよ」
「ほうほう、便利だな」
「これは魔法で加工された雨具。内側から汗は蒸発するけど、外から水は通さないんだよね」
そんな調子で、冒険道具をどんどん紹介してくれた。
ヴィリの持ってきた冒険道具は、どれも非常に便利そうなものばかりだ。
この十年での技術進歩に改めて驚かされる。
魔道具ではない道具も使いやすくなったり、軽くなったりしている。
十年前よりも、安全に、探索を進めることができるだろう。
「なんというか、目をみはるものがあるな。十年前にこれらの道具があったら、相当楽できたぞ」
「もちろん。そういう意図で作ったからね」
「ヴィリは、自分でもダンジョン探索するつもりだったのか?」
「その予定は無いけど、したいなーとは思っていたよ」
「ヴィリがダンジョン探索が好きだとは知らなかった」
「やっぱりグレンとのダンジョン探索が僕の青春だからねぇ」
遠い目をするヴィリの近くで、オンディーヌが、
「調子にのるな」
とぼそっと言った。
「ごめんごめん。煽るつもりなんてないさ。単に事実を言っただけで」
ヴィリは本当に楽しそうだ。
「ヴィリはそのまま過去に縛られているといい。私はグレンと未来を作る」
「何の話しだ?」
オンディーヌは時々わけのわからないことを言う。
ヴィリは慣れたもので、オンディーヌを気にせず、荷物から何かを取りだした。
「そして、これが最後の道具だよ」
それは棒状で、布の袋に包まれた紐でぐるぐる巻かれていた。
「グレン。開けてみて」
「ああ、わかった」
「気に入るといいんだけど」
ヴィリは今までとは様子が違う。
まるで誕生日のプレゼントのようなテンションだ。
「ヴィリもしかして……」
「うん。その推測は当たっているよ」
「そっか」
オンディーヌにも布の中身がわかっているらしい。
そして、なんとなく俺にも推測できた。
「長さと重さ的に、剣か?」
「そうだよ」
「剣を持つのも久しぶりな気がするよ」
俺は紐をほどいていく。
「毎日鍛錬してたでしょ? 剣持ってないの?」
「よく知ってるな」
オンディーヌはともかくヴィリと会ったのは昨日の前は一年以上前だ。
その一年前の出会いも数分だった。
「シルヴェストルがいるし。それに僕の学院長室からこの小屋はみえるからね」
「ほう、そうだったのか」
それなら納得である。
「ただまあ、あれは鍛錬というほどのものじゃない」
「そうなの?」
「足に負担を掛けないようにして動くための練習。まあリハビリみたいなもんだ。振るっていたのも剣じゃ無くて棒だし」
「へー、そうだったんだ。凄く集中してたし、特訓してるんだと思ってたよ」
確かに、暇な夜、小屋の外で重い金属の棒を素振りしていた。
夜はほぼ毎日暇だったので、ほぼ毎日素振りはしていた。
「剣というのは、足運びがとても大事だからね。足を使えない時点で剣術ではないかも。少なくとも俺の流派ではね」
「グレンは足運びがすごかったもんね」
王の剣術指南役だった父からも、とことん足運びを叩き込まれたものだ。
そして、布の袋の中から剣が現われる。
「おお。外見はシンプルでいい剣だな」
鞘にも柄にも鍔にも飾りはない。シンプルな黒だ。
「そうでしょ。グレンは昔から黒が好きだったでしょ?」
「ありがたいよ。だが、黒は好みではあるが、夜目立たないという利点があって選んでいたわけでだな」
柄は滑りにくい材質で、握りやすい。
鍔もしっかりとしていて、敵の斬撃を受け止めることもできそうだ。
「うん、いい感じだ」
「刀身も確かめてよ」
「ああ、もちろんだ」
そして、俺は剣を鞘から抜いた。
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