第21話 二日目の朝
ヴィリが帰って行った後、俺はジュジュと一緒に眠りについた。
二日目の夜。
ジュジュは粗相をしなかった。お腹の調子が戻ったようだ。
だが、当然お腹が空いたとは泣く。
それは健康の証拠なので、良いことだ。
いや、呪われているから健康も何もないかもしれない。
俺は、朝までに三回起きて、ジュジュにご飯を食べさせたのだった。
そして、早朝。
「じゅっじゅぎゅー」
「おはよ」
俺の腹の上で騒いでいるジュジュに起こされた。
夜中に三回起きたので眠たい。
「ジュジュは元気だなぁ」
「じゅ~」
「お腹空いたのか。よし、ご飯を食べような」
そう言ってベッドから出ると、
「うおっ、びっくりした」
「じゅっぎゅー」
オンディーヌが椅子に黙って座っていた。
ジュジュは驚いていないので、オンディーヌに気づいていたのだろう。
「グレンは入っていいって言った」
「もちろん、構わないよ。……ただ、気づけなかったからな」
「どういうこと?」
「じゅ?」
オンディーヌは首をかしげる。
同時にジュジュも首をかしげていた。
「いや、なに。昔なら誰かが部屋に入ってきたら気づいたからさ」
「私は精霊だから」
「それでも実体化しているんだから、気づけないとまずいだろう」
普段から姿を消しているシルヴェストルやサラマンディルに気づけないのは仕方がない。
気づくためには魔力の流れとか、そういうのを察知しなければならないのだ。
だが、オンディーヌは人の姿で入ってきたのだ。
扉を開けて、床をきしませ、椅子に座ったのだ。
その事実の前に人間であるか精霊であるかの差などない。
「衰えたな。ダンジョン探索も不安になってきた」
「大丈夫。私がいる」
「もしもの時はジュジュだけでも頼む」
「……気持ちはわかる。でもジュジュだけだと生きていけない」
「呪いの効果か?」
「そう」
魔力的に相性のいい俺といることで、ジュジュの呪いは緩和されていると言うことだった。
「だから、グレンも絶対死んだらだめ」
「ぎゅっじゅぷい」
ジュジュも俺を心配してくれているようだ。
自分の方が呪われて死にそうだというのに、本当に心優しい。
「ありがとう。わかったよ。俺も死なないようにする」
「じゅぎゅ」
俺は満足げに鳴くジュジュの頭を優しく撫でた。
そんなことをしていると、オンディーヌは立ち上がって、キッチンへ向かった。
そしてすぐに戻ってくる。
「グレン、ジュジュのご飯、用意した」
「おお、助かるよ」
「ぎゅるるぅ」
昨日と同じ美味しそうな朝ご飯だ。
パンをベースにミルクやチーズを入れたお粥である。
ジュジュのテンションも上がっているようだ。
夜中の食事はつい手早く食べさせられることを重視してしまう。
果物を切ったものか、ゆで卵になる。
だから、ジュジュも嬉しいのかもしれない。
「ぎゅっぎゅっぎゅ」
「はいはい、少し待っておくれ」
「早く早く」と要求するジュジュを抱えて椅子に座る。
そして、早食いにならないように、ゆっくりスプーンで一口一口食べさせた。
「本当に美味しそうに食べるなぁ」
「グレンの分もある」
「おお、ありがとう」
昨日と同じように美味しいサンドイッチを食べながら、ジュジュに朝ご飯を食べさせていると扉がノックされた。
俺が返答するより前に、オンディーヌが反応した。
「今は忙しい。あとにして」
「そう言わないでよ」
扉を開けて入ってきたのはヴィリだった。
「あ、勝手に入ってくるな」
「僕もグレンから、いつでも自由に入って良いっていわれているからね」
「……そうなの?」
「そうだぞ。よく来てくれたな。ヴィリ」
「ちっ」
オンディーヌが舌打ちするところは初めて見た。
「邪魔するつもりはないんだよ。今日はグレンのために色々持って来る必要があるから特別なんだ」
「ああ、昨日頼んでいたダンジョン攻略の装備だな」
「そうだよ。ジュジュの食事をさせながらでも聞いておくれ」
そういって、ヴィリはダンジョン攻略のための道具をテーブルに一つずつのせていく。
「これは携帯魔法ランプ。まあ使い方はわかるよね」
「ああ。それより大きいが、この小屋にもあるからな。使い方は一緒だろう?」
「基本的には同じだよ」
携帯魔法ランプはちょうど握りやすい太さと長さの筒のような形状だ。
「これは持って使うんだ。両手を使いたいときは、このアタッチメントを使って肩に取り付けることもできるよ」
「便利だな」
「じゅむ!」
ジュジュは携帯魔法ランプに興味があるらしい。
「ご飯を食べ終わったら、触らせてあげるからね」
「じゅっ!」
ジュジュはとても聞き分けが良い。赤子とは思えないほどだ。
「次は
そう言ってヴィリが取りだしたのは手のひらより少し大きく、とても薄い板だ。
「なんだそれは?」
「機能は単純さ。ダンジョンの入り口で作動させて中に入ると、自動的に地図を作ってくれる」
「…………どういう原理だ?」
「えっとね、これは――」
「いや、すまない。やはり原理を聞いてもわからないだろうからいい」
「そうかい。残念だよ」
止めなければ一時間ぐらい、難しい理論について語られていただろう。
危なかった。
「それは魔導師ではない俺でも使えるのか?」
「もちろんだよ。基本的に魔道具は非魔導師が魔法を使えるようにするためのものだからね」
そういって、ヴィリは楽しそうに笑った。
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