第24話 魔道具にして剣

「魔道具なのか? 剣じゃなくて?」

「剣であり、魔道具でもあるって感じかな」


 俺とヴィリが話し合っていると、ジュジュの剣への興味が高まったらしい。


「じゅっじゅぷ!」

「危ないからだめ」


 刃物を子供に触らせるのはとても危ない。

 ジュジュは子供というより赤ちゃんなのだ。

 刃物を触らせるなど、とんでもないことである。


「ぎゅぎゅ!」

「だめ」


 ジュジュは不満らしく手足をバタバタさせている。

 それでも、剣を持たせたりさせるわけにはいかない。

 触れても危険のない自動地図装置とは違うのだ。


「ヴィリ。すまない。話が途切れた」

「いや、全然いいよ。ジュジュは昨日より大分元気になったね」

「オンディーヌやサラマンディルが魔力を分けてくれたのが大きいかも。それにオンディーヌはご飯もくれたし」

「予断は許さない」

「うん。それでも、ありがとう、オンディーヌ。本当に助かっているよ」

「…………ふへふへへ」


 どうやらオンディーヌは照れているらしい。

 頬を赤くしながら、ジュジュの頭を撫でまくっている。


「じゅ?」


 バタバタ暴れていたジュジュも、撫でられまくってきょとんとする。

 話を進めるなら今のうちだ。


「で、ヴィリ。魔道具っていうのはどういう?」

「まず基本性能、剣としての単純な性能から説明するね」

「頼む」

「貸してみて」

「ほい」


 俺が剣を渡すと、ヴィリは冒険道具を入れてきた袋から金属のインゴットを取り出す。


「それは?」

「鋼にオリハルコンとミスリルを混ぜた、特殊鋼のインゴット」

「剣によく使われる奴だな、配合次第では強靭で硬くなりうる」

「もちろん。当代一の名工の手による、このうえなく強靭で硬い素材だよ」

「で、それをどうするんだ?」

「まあ、見ててよ」


 ヴィリは無造作にそのインゴットに剣を振り下ろす。


「お、おい! えっ?」


 耐久性に優れていると言えど、特殊鋼に斬りつけたら刃こぼれしてしまう。

 そう思ってあわてたのだが、音もなくインゴットは切断された。

 机も切り取られ、そのまま床を傷つけたところで止まる。

 止まったのは斬れなくて止まったのではなく、ヴィリが止めただけだ。


「…………じゅぅ」


 ジュジュもぽかんとして、切断されたインゴットを見つめている。


「ごめん、勢い余って机まで斬ってしまった」

「それは気にするな。まだまだ使える」


 ヴィリは特殊鋼のインゴットを机の端に置いていてくれたので、斬れたのは机の端っこだけ。

 今後の使用に大した問題はない。


「それより、すごいな」

「斬れるだけじゃなくて刃こぼれもないよ。見て」


 ヴィリから剣を受け取って、刀身を確かめてみた。

 確かに刃こぼれ一つしていない。


「この剣を使えば、素人でも特殊鋼が斬れる。そのぐらい切れ味が良くて頑丈ってことさ」

「こんな剣はみたことない。素晴らしいぞ」


 斬れすぎたら逆に扱いにくい。そう考える剣士もいるだろう。

 だが、俺は剣は斬れたら斬れるだけいいと考えている。

 なぜなら、剣は斬るためのものだからだ。

 最終的に何を斬って何を斬らないか決めるのは俺の意思と俺の腕なのだ。

 剣が耐えられないから斬りたくても斬れないとなるよりも、斬れすぎるほうがいい。


「この剣は、世界中でグレンにしか扱えないよ。でもグレンが持てば最強の剣になる」

「最強にはなれないと思うが、最高の剣だよ」


 俺がそう言うと、ヴィリは嬉しそうにほほ笑みながら照れていた。


「喜んでもらえて良かったよ。ちなみにそれ、自己修復機能もあるんだ。ひびや刃こぼれ程度なら二、三日で治るよ」

「……なんと」

「さっきも言ったけど、それは、剣であると同時に魔道具だからね」

「じゅっじゅぅ~」


 俺が剣の性能について驚き、ヴィリが照れている間、ジュジュは特殊鋼を掴んで大喜びだ。

 ヴィリの剣で斬られた特殊鋼の破片を、オンディーヌが渡してあげたのだ。

 とりあえず、ジュジュの興味が剣から移ったようでよかった。


「本当に素晴らしい剣だよ。ありがとう」

「実はそれだけじゃないんだ。その剣は魔力を吸い取ることもできるんだよ」

「ほう? なるほど? ……つまり、どういうことだ?」


「なるほど」と言っては見たものの、俺はさっぱりわかっていなかった。


「飛んできた魔法を斬れるようになる」

「ん? 精霊と契約する前の魔導師が放つ魔法なら、今でも斬れるが……」

「あんなしょぼい魔法だけじゃなく、僕やオンディーヌの放った魔法でも斬れるようになるよ」

「俄には信じがたいが、仮にこの剣なら斬れるとしてもだな。俺の目と身体がついていかないぞ」


 契約前の魔導師の魔法ならば矢と大差ない。

 目で見て斬ることは出来る。

 だが、ヴィリの魔法など感知すらできない。

 放たれたと同時に俺の身体に穴が開くレベルだ。


 聞いたところによると、ヴィリの魔法は音の速度を超えるという。

 道理で音が遅れて届いたような気がしたはずである。


「大丈夫。グレンなら斬れるよ」

「そうはいうがなぁ」

「そもそも、グレンは魔力回路の認識について、大きな間違いをしているからね」


 ヴィリがそういうとオンディーヌもうんうんと頷いていた。

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