第19話 ダンジョン探索の安全性配慮
「それならよかったよ。俺自身、ダンジョンに潜るのは十年ぶりだからな」
俺の現状では、リルをフォローするどころか足手まといになるだろう。
足の悪い剣士と、未熟な魔導師の組み合わせなら、容易に全滅してしまいかねない。
「心配無用だよ。ほかにも安全のための措置は講じているし」
「その措置ってのは具体的にはなんだ?」
「魔物が逃げないギリギリの位置にオンディーヌを配置する予定だ」
「そこまでしてくれるのか? ありがたいがオンディーヌは了承したのか?」
ヴィリはシルヴェストルを使って連絡を取っているのかも知れない。
だが、オンディーヌは今は不良青年を正直者にするのに忙しいはずだ。
「了承していないというか、まだ話してもいないけど」
「だめじゃないか」
「いや、大丈夫だよ。オンディーヌは絶対了承する」
なぜそんな確信があるのかはわからない。
だが、契約主で相棒であるヴィリがそういうならそうなのだろう。
「それに、オンディーヌが嫌がれば、シルヴェストルについて貰うし」
「そうか、シルヴェストルそのときは頼む」
俺は近くに居るかもしれないシルヴェストルに声を掛けた。
再び優しい風が吹く。
どうやら、シルヴェストルは了承してくれているようだ。
「本当はシルヴェストルの方が適任なんだけど……オンディーヌが絶対譲らないと思うからね」
「オンディーヌはジュジュを可愛がってくれているしな」
昨日から、オンディーヌは何度もジュジュのためにやってきてくれている。
とてもありがたいことだ。俺自身も非常に助かっている。
「ジュジュのためもあるけど、それより…………いや、まあいいけどね」
「なにがだ?」
「いや、なんでもない。とにかく僕もオンディーヌたちも、今回のダンジョン探索においては、ジュジュの安全を第一に考えているからね」
「じゅ……」
ジュジュはお腹がいっぱいになったらしく眠そうだ。
それでも、ジュジュは小さな手に蜜柑を一房つかんで、ヴィリに向けて差し出していた。
「食べて欲しいみたいだぞ。ジュジュのお礼の気持ちだ」
「ありがとう。ジュジュ。美味しいよ」
「じゅぅ」
ヴィリが蜜柑を口にしたのをみて、ジュジュは嬉しそうに尻尾を振った。
「ジュジュ。眠っていいぞ」
そう言いながら、俺はジュジュの背中をポンポンと優しく叩く。
しばらくそうしていると、ジュジュは眠りについた。
ジュジュが眠ったので、ヴィリとの話の続きだ。
「オンディーヌが近くに居てくれるなら心強いが……」
俺がジュジュを起こさないよう静かに語りかけると、
「でしょ? いざとなれば助けてくれるから安心して欲しい」
ヴィリも静かに返事をしてくれた。
「たとえ魔物に逃げられることになっても、ジュジュの命が最優先だからな」
「そうだね」
ジュジュの呪いを解くために魔物を倒すのだ。
だから、魔物に逃げられないよう精霊王たちは近づけない。
あくまでも精霊王たちが近づかないのは、ジュジュを助けるため。
魔物に逃げられることより、ジュジュが殺されないことの方が重要だ。
「俺自身、どれだけ戦力になれるかわからないし、本当にありがたいんだが……。オンディーヌは右腕だろう? いいのか?」
シルヴェストルが大賢者の目と耳なら、オンディーヌは大賢者の手足だ。
だというのに、昨日からオンディーヌはジュジュのためにかなりの時間を割いてくれている。
右腕であるオンディーヌがジュジュにかかりっきりになっていいのだろうか。
「確かに僕は忙しいし、それをオンディーヌは助けてくれているね」
「だったら――」
「でも、知ってのとおり僕は権力者だからね。忙しさの調節ぐらいはできるよ」
「そうなのか? なんかこうヴィリの判断が必要なことが大量にあったりするんじゃないのか?」
「それも、調節できるよ。任せるといえばいいだけだし」
「だが、沢山称号やら役職があるし、そう簡単にはいかないんじゃないか?」
ヴィリは色んな称号みたいなものを持っている。
国王から与えられたのは「国王の友人」という身分と、「国王の相談役」という役職。
国家から与えられたのは「大賢者」の称号と「大公」の爵位、そして「国家最高顧問」という役職。
魔法省から与えられたのは「魔法王」の称号と「魔法省最高顧問」の役職。
魔導師ギルドから与えられたのは「魔術を極めし者」という称号と「名誉ギルド長」という役職だ。
「色んな称号や役職は持っているけど、実務が伴う役職は国家魔導学院の学院長だけだから」
「へー。そんなものなのか。だが、人に任せたら失脚とかしないのか?」
「人事権さえがっちりにぎっておけば大丈夫。というかその人事権も公的には僕のものではないんだけど」
「ちなみに公的には持ってもいない人事権を行使するってどうやるんだ?」
「ん? この人はどうかと思うなっていうだけだよ。そうすれば、違う人になる。なんなら誰がいいかお伺いをたててくるよ」
「凄まじいな」
「意に沿わぬことがあったら、偉い人を呼びつけて、こういうのは好きじゃないなぁと一言いえば、その通りになる」
「ヴィリ。……大丈夫か?」
「心配してくれたのはグレンが初めてだよ」
真剣な表情をしながらも、どこかヴィリは嬉しそうだった。
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