第18話 ダンジョン攻略の必然性

 突然話を振られたリルは驚いたようだ。


「わ、私ですか?」

「駄目かい?」

「いえ、喜んで参加させていただきますわ!」

「ならよかった」


 ヴィリとリルで話がまとまってしまった。

 そして、俺は話についていけていない。


「ちょっと待て。どうしてペリシエさんなんだ?」

「優秀だからだよ。さきほど天才だっていったよね」

「だが、危険があるんだろう? それならオンディーヌとかでもいいのでは?」


 いくら優秀な魔導師とはいえ、まだ生徒なのだ。

 ダンジョン探索にはまだ早い。経験が足りない。

 多少魔力が低くても経験豊富な魔導師か、もっといえばオンディーヌ辺りがついてきてくれると心強い。


「グレンの疑問はもっともだね」

「そうだろう。普通はそう思うぞ」

「ちゃんと理由があるから、安心して欲しいな」

「ああ、そうだろうな。それは信用している」

「まずダンジョンの通路が狭くて、少数精鋭で入らないと攻略が難しい」


 狭いダンジョンに大人数で入ったら、攻略難度が上がってしまう。

 遠隔魔法が得意な者が多い魔導師は狭い場所での集団戦が得意では無いのだ。


「それに倒すべき魔物が非常に臆病で、魔力を察知する感覚が鋭敏なんだ。オンディーヌぐらい魔力が高い精霊が近づけば、ダンジョンに入るまえに逃げ出すだろうね」

「精霊王がだめなら、ヴィリはどうだ? 忙しいかも知れないが」

「僕もできることならそうしたいし、ジュジュのためなら予定は全部キャンセルするさ」

「ということは、できないってことか」

「そうだね。僕がダンジョンに入ったら、魔力を察知して逃げるだろうね」


 単体でほどほどに強い魔導師として、リルが丁度良かったのだろう。

 なんとなく事情がわかってきたが、まだ気になることがある。


「そういえば、オンディーヌはダンジョンについて何も言ってなかったが」

「オンディーヌは知らないよ? 今はなにか難しい魔法を使っているみたいだから。終わり次第教えるけど」


 恐らくだが、オンディーヌは今頃チンピラを正直者にする魔法を行使しているのだろう。

 時間がかかるし、魔力も必要と言っていた。

 きっと集中力も必要に違いない。


「情報収集能力は、オンディーヌよりも僕の方が高いんだよ」

「それはすごいな」

「もっとも、僕の能力が高いというより、シルヴェストルの能力が高いんだけど」


 シルヴェストルは風の精霊王。ヴィリの契約精霊の一人だ。

 文字通り風の如き素早さで移動できる。

 そして風のように、どこにでも遍在するとも言われている。

 どこにでも遍在するというのは大げさだろうが、それに似たことはできるのだろう。


 シルヴェストルが大賢者の目と耳になるのだ。

 大賢者に隠れて謀議することは不可能だとすら言われている。

 実際は、そこまでではないのだろうが、そう思われていると言うことが重要だ。

 それにより、大賢者は国王を凌ぐ権力を手に入れたのだ。


「シルヴェストルがその魔物の居場所を見つけてきてくれたんだけど、近づきすぎて一回逃げられたらしい」

「ほう。つまり二回もみつけたと」

「そういうことになるね。もっとも逃げる際の魔力の残滓でどの方向に逃げたか判断して追いかけたんだけどね」

「苦労をかけた。シルヴェストルにお礼を言っておいてくれ」

「本人に言いなよ。見えないだろうけど、今も近くで聞いてるから」

「シルヴェストル。ジュジュのためにありがとう。凄く助かったよ」

「じゅ~じゅ!」


 俺とジュジュがお礼を言った瞬間、室内に優しい風が吹いた。


「どういたしまして、だってさ」


 ヴィリがシルヴェストルの風の意味を通訳してくれる。

 シルヴェストルは恥ずかしがり屋なのか、ほとんど人前には現われない。

 実は俺も姿を見たことがないほどだ。



 ヴィリの話を聞いて、大まかに疑問は解消した。

 それでも、なぜ経験豊富な魔導師ではなく、リルなのかはわからない。

 だが、それを今尋ねることは、失礼がすぎる。

 経験不足だと面と向かって指摘するようなものだ。

 それにヴィリに頼まれたからとはいえ、リル自身には得がないのに引き受けてくれたのだ。


「ペリシエさん、本当によろしいのですか? 危険もあると思いますが」

「お気になさらないでくださいませ。私は大丈夫ですわ」


 リルは堂々と胸を張っていう。自信があるようだ。

 もしかしたら、年齢の割に経験豊富なのかもしれない。


「ありがとうございます。それではよろしくお願いいたします」

「じゅぅ~」

「はい! 全力を尽くさせて頂きますわ」


 それから、出発日時の打ち合わせを行なう。

 ジュジュの状態を考えて、可能な限り早く魔物を倒さねばならないのだ。


「明日の朝。学院をたって、ダンジョンへ向かうのがいいと思うよ」

「学院長の仰せのままに」

「俺もそれでいいと思う」


 ダンジョンの位置は馬車で一日の距離にあるという。


「飛竜を貸し出すからそれに乗っていくといい。リルさんは飛竜に乗るのも上手だったね」

「はい。私にお任せください」


 飛竜なら二時間かからずに到着できるとのことだった。


 その後、リルはダンジョンに潜る準備をするために帰って行った。

 それを見送った後、俺は聞きたかったことをヴィリに尋ねる。


「ペリシエさんは……ダンジョン攻略が得意なのか?」

「若い頃の僕らと同じくらいじゃないかな」

「それは凄いな」

「昔は剣士と魔導師と……それなりに色んなメンバーで潜っていたけど、今は魔導師だけで潜るからね。学院でも必修のカリキュラムになっているよ」


 どうやら、リルの経験が不足しているのではないかというのは杞憂だったらしい。

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