第2話

 21時。

 VRゲームハードを起動させて、ゲームソフトを入れる。

 いつだって新作ゲームを始める時はドキドキワクワクするものだ。

 僕は別途に横になり、頭にハードを装着してスイッチを押した。

 目の前の薄いディスプレイにカウントが始まり、数字が0になると同時に視界が真っ白に染まる。

 そして数秒後、電子的な空間に立っている。

 ちゃんとゲームの中に入ることができたようだ。

 ここで決めるのは名前やアバターのステータス。

 ご飯を食べながら名前を考えていたが、結局いいのが思いつかなかった。

 こういう時はランダム生成に限る。

 世の中には名前を付けるだけで数時間を費やす人もいるらしいが、僕はさっさとゲームを楽しみたい人間なので名前にはいつも雑である。デフォルトの名前があるときはそのまま進めてしまう。

 名前を入力する欄の隣にある「ランダム」のボタンを押す。

 ポンと軽快な音と共に名前が表示される


「えっと……black・dogブラックドック?」


 ブラックドック。

 えーと図書室の本で見た気がする。

 確か不吉な感じの存在として語られると同時に墓守を守護する妖精の類でもあったはずだ。

 死者を守る番犬というのも悪くないし、これで決まりでいいだろう。

 次はアバターのステータスだ。

 少しだけ考えて、自分の移動速度や器用度を上げた。

 最後に容姿だが。

 実はこのゲームのアバターはランダム生成である。

 AIが複数の組み合わせを計算し、ゲームに初ログインをすると共に生成される。

 まぁもちろん好きにカスタマイズするときは専用のアイテムで調整できるらしいとことだが……。

 これで全部。やりたいことは全てやったのでOKボタンを押す。

 すると再び視界が白く染まる。

 また立つ場所が変わり、街のどこかにある施設の内部のようだ。

 広い空間があるだけで周りには何も置いていない。

 どうやらここはログインポイントみたいだ。

 自分の身体を見下ろすと白と紫のデザインが織り込まれた洋服を着ており、結構着心地がいい。

 あとは自分の容姿だけれど……。


「身長は現実と大して……いや、若干低いかな?

 あと髪長い?」


 キョロキョロと周りを見渡し、揺れる長髪を片手で押さえながら自分を写すものを探す。

 出口らしきところの近くに鏡が埋め込まれているのを発見し、その前に立つ。

 そこに映し出されている自分の姿を見て思わず固まってしまった。

 美少女だ。

 紛れもなく美少女の姿をしたアバターがそこにあった。

 僕は急いでメニュー画面メニューを開いて、自分のプロフィールを表示させる。そこの性別の欄にはしっかりと『男性』の文字が記載されていた。

 つまり、このアバターはちゃんと男のものと言うことになる。

 まぁじでか……。

 いやまぁ、一つのアカウントにアバターは一体だけだから変えようがないのだけれども。

 

「まぁ、いいかぁ……」


 ロボットに乗ることに影響があるわけでもないだろうし……ないよね?


「とりあえずあいつ探すか」


 このゲームではイエロー・ビーと名乗っている友人を探す。

 そういや見た目聞いてなかったな。

 直ぐにわかるだろうか。

 そう思って再び周りを見渡すと、鉄の看板を持った黄色のサイボーグが目に入る。

 そこ看板には『友人歓迎』とでかでかと書かれていた。そのサイボーグの胸当たりには蜂のステッカーが貼られている。

 あれかな?あれだろうな。

 僕は現実とは少し違う歩幅に苦戦しながらそのサイボーグに近寄る。


「あの~」

「んっ?なんだいお嬢さん?」

「秘蔵本の隠し場所はベッドの収納、二重構造」

「……ちょっとそれを教えたやつどこにいるか教えてくれるかな?」

「目の前におる」


 自分の顔を指差しながら笑顔を向ける。

 サイボーグは目だけをぱちぱちを動かしながら、納得したように頷いた。


「またずいぶんレアなの引いたな」

「やっぱそうなんだ」

「噂程度にしか聞かなかったけど、実在してたんだな」

「お前のアバターもなんだそれ、口とかないじゃん」


 イエロー・ビーの姿は人型ではあるものの、身長は2メートルを超え、顔はマスクのようなものが張り付いている。目は蛍光色に輝いていた。

 まんまSFもので見るようなサイボーグだ。


「あぁ、これはゲーム内のカスタマイズでできるんだよ。

 俺は全身改造のフルボーグ。取得経験値が減少する代わりに全体的なステータスが高めなんだ」

「へー、僕もしようかな」

「せっかく美人なアバター引いたのに」

「美人に機械のパーツついてるの良くない?」

「わかる」

「あ、名前はブラック・ドックな。

 そっちのことはビーって呼べばいいか?」

「おう。

 こっちはワン公って呼ぶわ」

「それはやめろ」


 それから僕はビーキイロの案内の元、今いる街の事を見回っていた。

 街の名前は『アップルタウン』。ゲームの開始地点で、その中心部にはゲーム内で1番大きいランドマークである軌道エレベーターが天高く伸びている。

 辿り着く先はもちろん宇宙。

 驚くべきことにこのゲームは宇宙空間も存在するのだ。


「活動するには専用の機体かカスタムパーツが必要になるけどな」

「そうなの?」

「俺はもっぱら地上で活動する片手で数えるほどしか宇宙行ってないけど、だいぶ難しかったぜ」

「そっかぁ……」

「まぁゲームとはいえ宇宙を楽しめるのは面白い体験だから機会があったら今度一緒に行こうぜ」

「うん」


 それから僕たちは大きな施設に足を運んだ。


「ここは?」

「この街の共有ガレージ。

 ゲーム内で作られている機体や、誰かが売った中古品。

 更にはお手製のカスタム機まで揃ってる」

「へー……。

 もしかしてプレイヤーが兵器開発の企業作ってたりする?」

「お、察しがいいな。

 自分で機体を一から作ることもできるが、それが苦手な奴は企業にオーダーメイドするやつもいる」

「ロマンだ……」

「しかもだ。

 大手クランが企業に頼んで量産機とか作ってるとこもあるんだぜ?」

「ロマンだ……っ!!」

「ロマンだな……!」


 いつか自分もクランに所属してその機体に乗ることがあるのだろうか?

 自分専用機も確かにかっこいいと思うが、量産機に乗って統率の取れた行動というのは美しいと感じる。

 それを想像して僕はもうたまらなくなり、思わずダガダガと足踏みをしてしまう。


「ビー!早く乗りたい!」

「じゃあ乗るか。

 最初に三つの中から一つ機体もらえるから、それらを試し乗りしてみようぜ」

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