18-6 自由の名の下に集う理念

「あと、今不在のケイってメンバーが居るんだけど。それで全員だねー。『カヴンメンバー』としては、3席空いちゃってるんだよね」


 ケイさん。私の最初のヴァルプルギスの夜と、あと秋葉原で会ったっきりだ。地上と天界との戦争に協力するって聞いてるけど。


「おう。遅れてすまねえ」

「!」


 とか。考えていると。

 3人、現れた。


「わ! びっくりした。どしたの。大丈夫?」

「おう。まあ直ぐに行かなきゃなんねえんだが、挨拶だけはしときたくてな。カヴンにゃ夜風の件で迷惑掛けてるし、せめて謝罪はさせてくれ」


 ケイさんだ。灰色の髪と、青白い肌。ギザギザの歯。なんというか、『イケメン悪魔』みたいな外見。数年前に会ったそのままだ。

 後ろに、女性がふたり。ひとりは色葉さんだ。確かケイさんの契約者。

 もうひとりは……猫耳、いや犬耳? の……赤い髪の女の子。妖怪、かな?


「良いよ別に謝罪とか。夜風からは一応『色々』貰ってるんだ。ケイとは関係無いよ」

「そうか? 悪い」

「んーじゃ、今ひと通り自己紹介した所だから。全員」

「分かった」


 イザベラさんと少し話して。ケイさんは私達の方を向いた。


「あー。遅れて申し訳ない。俺はキャサリン・アンドレオKatherine=Andreo。イタリア生まれで日本在住だ。『悪魔』と人間のハーフなんだが、日本で『妖怪化』してな。種族としては『半人半妖』ってことになってる。女の名前なのは母親の趣味だ。ケイトとかケイって呼んでくれたら助かる。……今、元メンバーで俺の仲間の『夜風』って妖怪が日本で戦争してて、さらに俺のダチが天界で別件の戦争をやってる。……『それぞれの戦争の後に』『裏世界で崩壊後の地位を保つ』為に、以前からカヴンに所属させて貰ってるんだ。戦争に手一杯な時はサボりがちだが会費は払ってるから許してくれ」


 他のメンバーは割りと落ち着いているけど。このケイさんだけは、現在進行系で戦争中なんだ。それは『世界』とか『宇宙』に関わる大きな戦争で。ずっと忙しいらしい。


「そこの黒音も、戦争へ言ってる連中……俺の弟とダチの娘だ。預かってもらってる。ありがとな、シルクさん」

「いえいえ。大人し過ぎて逆に不安になるほど楽させて貰ってますよ」

「だあ」


 ケイさんの視線を受けて、クローネちゃんが声を出した。珍しいんだよね。この子が喋るのって。ケイさんはユリスモールさんと兄弟だから、何か通じ合うものがあるのかな。


「ほーい。後ろの方々は?」

「ああ。俺の嫁だ。挨拶させようか」

「!」


 嫁。

 奥さんてこと?

 え、ふたりとも?


「えっと、楽王子らこうじ色葉いろは……です。楽王子流調伏術……の継承者です。日本の、妖怪を退治する一族です。よろしくお願いします」

「はいはーい。妖怪ざくろです! 種族は『ヤマイヌ』! テレパシーの妖術が使えます! ブラックアークの運転が得意です! 色ちゃんは下手だよねーっ」

「……それは今関係ありません。ざくろさんは黙っていてください」


 色葉さんは良いとして。犬耳をぴこぴこ揺らす、ざくろさん。確かに柘榴の実みたいに、イザベラさんのより鮮やかで真っ赤な髪。いや毛並み?

 テレパシーの妖術(魔法?)が『使える』ってことは、私達みたいな『子機』じゃなくて、ユインと同じように『親機』になれるってことかな。それは、助かるかも。


「――てな訳だ。嫁っつったが正確には『悪魔との契約者』で、ギンナみたいな『種族魔女』じゃねえ『職業魔女』って訳だ。俺の魔力を分け与えて擬似的に魔女として活動してる」

「主にベッドの上で注入されてまーす」

「そういうことこの場で言うな二度と。もう口閉じてろ馬鹿犬。……すまねえ。俺の嫁だが馬鹿なんだ」

「むぎゃっ」


 ケイさんがざくろさんの口を塞いだ。

 ……ざくろさん、そういう性格なんだ。まあそれは置いといて。

 以前あやふやに紹介された『契約者』って、そういうことなんだね。……プラータは性奴隷とか言ってたっけ。悪魔が、人間に魔力を分け与えて契約、魔女とする。なんか中世の伝承っぽいかな……?

 ソフィアさんも、そういう魔女だったのかな。彼女も人間だったし。

 とすると、ユリスモールさんと襲音さんも、ケイさん夫妻と同じ関係なんだろうか。


「へえ。ハーレムじゃん。悪魔らしいや」

「まあよ。成り行きだ。久し振りだな。セレマ」

「うん。久し振り。こっち座りなよ。議題はこれからだから」

「おう。皆、よろしく頼むぜ」


 本当に、色んな『パターン』というか。やり方があるんだなあ。多様性凄いよね。このカヴン。


 イザベラさん。

 セレマさん。

 ユングフラウさん。

 イヴさん。

 ケイさん。

 クロウ。

 ミッシェル。

 ノアさん。

 メルティさん。

 それから、私。


 10人だね。あと、3席。意見の合う実力者を13人集めるのって、大変だよ。ねえ。


「よっし。これで一応、今の『全員』だねー。それじゃあ」

「ちょっと待ってくれ」

「!」


 ケイさんが席に座り、イザベラさんが進行しようとした時。ノアさんが手を挙げた。


「なに? ノア」

「いくつか、確認させてくれ。このスコットランドカヴンてのは、『メンバー』同士の上下関係や序列は無いんだな?」

「うん。無いよ」


 序列。確かに無いよね。無い方が良いと思う。ギスギスの元だよね。アメリカカヴンでは、ノアさんが『ボス』って明確にあったんだよね。


『すまん。カヴンて、俺達のことか?』

『あ。はい。この魔女園ヘクセンナハトが表世界スコットランドの旧ケアンゴームズ国立公園(の裏世界)にあるので、他のカヴンと区別する時にそう言いますね』

『なるほどな。サンキュー』


 ケイさんからテレパシーが飛んできた。そうだよね。ヘクセンナハトができる前は特定の土地に根付いてた訳じゃなくて、適当に集まってたらしいし。私がプラータを継ぐ前のカヴンはもう『カヴン』としか呼んでなかったんだ。


「まあ、それぞれが別々に、能力も方向性も得意なことも職業もバラバラだからねー」

「稼いだ額で判断しねえのか?」

「そりゃ、お金にならない仕事でもカヴンにとって大事なことだってあるよ。そもそも『お金』というコンテンツ自体、カヴンの目的の為の手段でしかなくて、それに縛られるようなことは、『魔女』としてはちょっと勿体無いかな」

「…………全員が、その考えなのか?」


 ノアさんの質問は続く。私達皆を見渡すけれど、皆、頷いている。既存メンバーはその理念が当然だし、クロウもメルティさんも分かってる。ミッシェルも『ヴァンパイア世界』が基準だから、そもそも裏世界の貨幣は手段のひとつでしかないって感覚だしね。


「……なるほど。じゃあ俺は、このカヴンでどうやって実力を示せば良い? 俺は何をしたら良いんだ?」


 ノアさんは。

 元々傭兵だから。『金銭』を対価に『依頼』をこなす魔術師だった。その対価が、そのまま彼の評価だった。

 誰か他人がいつも、ノアさんの『価値』を決めていたんだ。その『価値』で評価されて、ウチに勧誘されたと思ってる。そのセリフから、そう感じた。


「ふふ。そうだねノア。『しなきゃいけないこと』なんて、あんまり無いんだよ」

「ん? どういうことだ?」


 これは。

 考え方の違い。どちらが良い悪いの話じゃ無い。カヴンの、考え方の話だ。


「ノアは、『何』がしたい?」

「は?」

「今までは、傭兵をやってお金を稼いでいたんだよね。じゃあ、お金を稼ぐ必要が無くなったら? 『しなきゃいけない』全てが無くなったら。ノア自身、『本当にやりたいこと』はあるかな?」

「………………」


 イザベラさんの質問に。ノアさんは言葉にして答えなかったけど、『何か』思い付いている表情だった。イザベラさんもそれを見て、嬉しそうに笑った。


「『それ』の為に、わたし達は協力し合ってるんだ。それが『魔女団カヴン』なの。『やりたいことをやる為の互助組織』。『それを邪魔する全てを排することを協力する』。……だから、誰にも邪魔させない為に、『力』を集めてる。強ければ、我儘を通せるからね。それは財力は勿論、権力、知力、そして武力。あらゆる方面の力が必要だから、『13人』。力のベクトルが違うんだから、上下関係なんか作れっこないし、金額で比べられることでもないんだよ」

「……!!」


 カヴンの理念。全員が集まってるこの場で改めて説明するのは良いことだと思う。意識の統一は組織にとって大事だしね。新人さんも多いし、ノアさんは良い質問をしてくれたんだ。


「で。そこでノアにお願いしたいのが『武力』って訳だねー。いつ何時なんどきどんな力が必要になるか分からないから、それに備えないとね。武力ってのは一番原始的な力で、全てを取っ払って最終的に必要になってくるから、ノアがわたし達に協力してくれたらとっても嬉しいんだ」

「………………」


 ノアさんは。考えてるみたい。


「勿論、この考えが絶対的に正しいなんて思ってないよ。けど、同じ考えに同調してくれてるから、ここに皆集まってくれてるんだ。強制は無いし、嫌なら抜けて良いんだよ。考え方が違ってるのに一緒に居るのは、お互いにとって良くないしね。だからさ、ノア」

「!」


 イザベラさんは、聖母みたいな表情で。


「ノアは『何か』したいことはある? わたし達はそれを、協力してあげたいんだ。で、ノアは他の皆を手伝ってあげて欲しい。それが魔女団カヴン。どうかな?」

「…………!」


 ノアさんは。

 しばらく、固まって。


「…………農場」

「?」


 ぽつりと。溢れるように。


「……俺の生前の話さ。両親は農家だった。……独立戦争で俺含め全員が死んじまった。……傭兵を引退して。ガキ共を育て終わって。金が余ったら。……やりたいと思ってた」


 それを、じっと聞いて。イザベラさんはさらに口角を上げて笑った。


「良いじゃん! 素敵だよ。良いねー! 農場! やろうよ! この魔女園ヘクセンナハトにはぴったりの土地あるよ! 皆でやろうよ!」

「…………ああ。よろしく頼む」


 やりたいことをやる。その為の組織。それがカヴン。

 プラータが体現してたよね。やりたいことをやり通して、逝った。


『「魔女」って元々そうなのよ。「自由」を求めた人達。決して世間には受け入れられなかった爪弾き者達の集まり』


 ユインから、テレパシーが飛んできた。私はその言葉を、噛み締めるように返した。


『…………「自由」、かあ』

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