18-5 NEW FACE

 4月になった。


 表世界では『異常気象』『自然災害』のニュースが毎日のように紙面を独占している。始まったんだ。いや、もっと前から前兆はあったらしい。


「東京で『空飛ぶ魔女』が目撃されたらしい。その後謎の銃声。誘拐犯が再逮捕……。滅茶苦茶だな。意味不明だ」

「……お父さん達、大丈夫かな……」

「心配ならここへ呼ぶかい?」

「でも、それって死神法違反じゃ?」

「関係無いよ。守ってやる義理なんてない」

「そっか……」


 クロウはもう、本当に死神世界とは完全に決別した死神だね。だけど、今私が死神協会と揉めたら、『魔女学校ソーサリウム』でも純魔力でも提携してるから、カヴンとしては良くないんだよね。

 けど心配だ……。


「『半人半妖』ケイは、まだ戻らないのか」

「うん。今『天界』に向かってるんだって。しばらくは戻れないって。だから今日は別にヴァルプルギスの夜って訳じゃなくて。ただの顔合わせだよ。私も初めて会うし」

「…………ふうん」


 今日はイザベラさんのお城に、メンバー+銀の魔女皆が集まる日。本来のヴァルプルギスの夜の時期だけど、それは2月にやっちゃったしね。






✡✡✡






「あばっ」

「『あばっ』?」


 いつもの円卓。もう全員集まってた。イザベラさんにユングフラウさん、セレマさん、イヴさんと。

 ノアさん、ミッシェル。それにフラン、ユイン、シルク。


「あばばばばばばばば…………っ」


 私とクロウも、円卓に腰掛ける。


「いつまでも緊張してるんじゃないわよ」

「あばばっ。そ、そんなこと言われましても……」


 隣に。初めて見る子が居た。泡を吹きそうなくらい痙攣してる。物凄く動揺している魂。

 水色の髪とレモン色の瞳。この子が、『卒業生枠』の。確かに魔女学校ソーサリウムの制服を着てる。……あれ、卒業生なのに?


「初めまして?」

「あばっ!」

「わ」


 話し掛けるとびくりと跳ねて、きりきりと首を回して私を見た。


「ほら挨拶しなさい」


 さっきから、逆隣に座るユインが甲斐甲斐しく指示をしてる。


「はっ! 初めまして! あのわた私! メルティと申します!」


 フレッシュだ。勢いよく頭を下げて挨拶。元気よく声を出して。

 お目々パッチリまつ毛パッチリ。この子が、『卒業生』の。


「――ギンナです。よろしくね? メルティさん」

「あばはいっ!」

「…………あはは」


 私も、プラータに連れられて初めて出席したヴァルプルギスの夜は緊張した。その気持ちは分かる。あの時はケイさんにフォローして貰ったっけな。






✡✡✡






「ほーい。皆集まったね。時間もピッタリ。遅刻するような『悪い魔女』は、今のカヴンには居ないねー。良き良き」


 イザベラさんが切り出す。隣にクローネちゃんを抱いたシルク。


「じゃあまずは自己紹介からかな? 新メンバーだけじゃなくって、改めて全員やろっか。たまにはねー」


 今日はヴァルプルギスの夜じゃない。ユイン達も普通に喋る。確かに、私とシャラーラが入ってきた時と違って、新メンバーは多いしね。


「わたしからね。『愛の魔女』イザベラだよ。イザベラ・エンブレイスIsabella=Embrace。暫定で議長やってるよ。『真紅色クリムゾン』の『魔女』。普通の赤色よりはちょっとだけ珍しいかな。カヴンのことでも外のことでも何でも相談受付中! 特に恋愛相談はいつでもどうぞーっ」


 真っ赤な髪を長いツインテールに結んだ、フレンチメイド服のイザベラさん。いつもの格好ながら、派手だし不思議。メイド服は趣味らしいけど、とっても似合ってる。いつも優しいイザベラさんが議長で良かったと思ってる。


「はい次。じゃあセレマ」

「はいはい。……あたしは『未来の魔女』セレマ・ドゥーンライThelema=Tuonglai。『烏羽色グロッシーブラック』の『魔女』。特化型『予知の魔法』使いで、本業は占い師。カヴンじゃ『魔女学校ソーサリウム』の教師もやってるわ。……よろしく。はい、ユング」


 綺麗な黒髪……だと思っていたけど、魂の色となると名前があったんだ。セレマさん。フランみたいに特化型だったんだね。今はもう基本の魔法は使えてるからこれもフランと一緒だね。今度占って貰おうかな。同じアジア出身だからなんか親近感あるんだよね。


「ふむ。我はユングフラウJungfrau。名はそれだけだ。『鉄の魔女』とも呼ばれている。『藍色インディゴ』の『魔女』である。変身魔法を使いすぎて本当の姿は忘れてしまった。身長も性別も肌色も我にとってはファッションに過ぎぬ。本業は傭兵。カヴンでは会計、というか事務全般を務めている」


 ユングフラウさん。結局素顔は見たことないや。男性だったり女性だったりする人。大体は男性の方が多いかな。甲冑が好きなんだよね。

 この3人が、年長組というか。古参組というか。先輩って感じがする。


「では私ですね。『異界の魔女』イヴEveです。人間でも『死者の魂』でも無く、『ラウム』という種族です。名前も種族名も、私の居た『別世界パラレルワールドの地球人』に付けて貰いました。つまりは異世界人でありながら宇宙人でもあります。セレマと同じくここで教師をしています。本職はエンジニアなのですが、こっちの世界では何もしていません」


 イヴさんは未だにミステリアスだ。私自身あんまり話したこと無いからかもしれないけど。確かその種族の王族なんだよね。異世界の話、この前聞いたけど。


「ギンナ」

「あっ。うん」


 次、私か。ええっと。


ギンナ・フォルトゥナGinna=Fortuna。『銀の魔女』をやっています。『銀の眼』……つまり『銀色の魂』の『魔女』です。……以上、かな。よろしくお願いします」


 特に言うことないんだよなあ。特徴無いしね、私。カヴンでの役割も決まってなくて、依頼業だしね。


「それだけー?」

「あはは……」

「じゃー、『銀の魔女』一気にお願いできる?」

「分かったわ」


 続いて。

 フランが立ち上がった。別に立つ必要ないんだけどね。


フラン・ヴァルキリーFran=Valkyrieよ。ギンナと同じ『銀の眼の魔女』。私達は4人で『銀の魔女』なの。ギンナが代表ってことね。『即死魔法』の特化型。普段はアメリカで傭兵やってるわ。見れば殺せるから、身内の依頼は安くしてあげるわ」

ユインYuyin。同じく『銀の眼』で、『魔女学校ソーサリウム』教師よ。以上」

「私はシルク。シルク・パーガトリーSilk=Purgatoryと名乗っています。私も『銀の魔女』として、これまではアフリカで仕事をしていました。今はベビーシッターです。この子は神藤黒音クローネ・シンドー。元メンバーの娘さんです。今も一応、カヴンの一員ではあるんですかね」


 3人がそれぞれ自己紹介した。『名乗る』って、良いよね。私もプラータの名前勝手に使ってる。自分達で決めた名前。名乗りたくて名乗る名前。


「僕か。クロウCrowだ。『漆黒の魂ジェットブラック』の『死神』。と言っても死神協会には属してない。ここの『魔女学校ソーサリウム』に通っていたけど事情があって中退したんだ。だから卒業はしていない。今はアメリカで『魔力石マジック・ストーン』採掘プラントを経営しているよ」


 グラビトン、って言うのは社名なんだよね。サリバンはもう名乗らないらしい。今はただのクロウ。


「クロウ……くん」

「ああ。メルティ。久し振りだね」

「はっ。はいっ」


 メルティさんが緊張しながらクロウへ声を掛けた。そっか。このふたりは知り合いなんだ。先輩じゃなくて『くん』ってことは、クロウと同期。最初期の生徒さんだったってことかな。


「じゃ、次」

「私? ……ミッシェル・クルエラMichelle=Cruella。種族はヴァンパイアの『第二世代セカンド』。ヴァンパイア世界、貴族家『クルエラ家』長女。今は……魔力インフラで裏世界と繋がってる。つまりヴァンパイア代表。あと、裏ベネチアを実質統治してる。よろしく」


 プラチナブロンドを真っ直ぐさらさらに伸ばした純白ワンピースドレスの少女。絵に描いた美人さん。私が推薦人だ。この子は強い。戦闘じゃなくて、性格と立場がね。カヴンにもぴったりだと思う。


「俺か。『魔法銃士ガン・ウィザード』ノアだ。ノア・アームズNoah=Arms。『黄土色オーカー』の『魔術師ウィザード』だ。こっちじゃ魔女だな。傭兵やってたが引退、アメリカでカヴンを立ち上げたがこれが中々上手く行かなくてな。で、今回誘ってもらった訳だ。ウチのチビどもの面倒見てくれるってな。ありがたい話だ。この恩は返す。よろしく頼むぜ」


 ノアさん。革ジャンにジーンズスタイルは相変わらずだ。カッコイイ大人の男の人って感じ。ガンマンて良いよねえ。


「で、同席アリって聞いたからな。こっちは旧アメリカカヴンで俺以外の唯一の『ウィザー』……えーと、『魔女』だ」

「はい」


 そのノアさんの座る椅子の後ろに控えている女の人。綺麗な緑色の髪と瞳。キリッとしていて、クールな印象だ。確か、カリフォルニアで会った時はまだ『無垢の魂』だった子だよね。顔は覚えてる。


ウェルトーナ・ベリルWeltoner=Berylと申します。『緑柱玉色エメラルドグリーン』の『魔女』です。ノアの補佐をさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします」


 姿勢正しく、ぺこりと日本風お辞儀。何というか行儀が良い? 育ちが良さそうな……。ウェルトーナさん。立ち位置的には、フラン達やクローネちゃんと一緒かな。クローネちゃんはケイさんの姪っ子だもんね。カヴンメンバー直下の構成員ってことだ。


「はい。最後。あんたよ」

「ひゃいっ!」


 ユインに呼ばれて、ビクリと飛び跳ねた。なんだか初々しいよね。


「めめめめメルティMeltyです! 二つ名魔女名もラストネームもありません! 『魔女学校ソーサリウム』第一期卒業生です! えっと、えっと」

「色」

「あっ。『蒼玉色サファイアブルー』と『黄蘗色レモンイエロー』の『混魂ダブル』です! どっちかって言うとブルーの方が強めです!」


 ユインがフォローを挟みつつ。あわあわしながらも自己紹介をしたメルティさん。『混魂ダブル』、か。あれだね。ヴィヴィさんも金色と黒色の『混魂ダブル』ってことだもんね。たまにあるのかな。そういうこと。半分ハーフじゃなくて二倍ダブルって言い方、良いね。よりポジティブっていうか。


「卒業生……ってだけじゃ分からないよね。実績も無いし。なんか得意な魔法とか、そういうのある?」

「ひゃっ」


 イザベラさんからパスが飛ぶ。確かに。ユイン達教師陣は知ってるだろうけど、私も今日初めましてだし。どんな魔女なんだろう。


「あっ。えっと。つ、使える魔法、言えば良いですか」

「そうね」


 ユインに振り向いて確認する。ユインのことは信頼してそうだなあ。


「言います。基本の『テレパシーの魔法』『テレポートの魔法』『テレキネシスの魔法』と……あと『クレアボヤン透視スの魔法』『ハイパーセン超感覚スの魔法』『サイコメトリー残留思念解析の魔法』『ソートグラフィ念写ーの魔法』……が、使えます」

「!」

「すげえ」


 一気に。だだっと飛び出した。え。えっと、7つ?

 凄すぎる。魔法適性が高い『銀の眼わたしたち』ですら、今の所は4つか5つが限度なのに。


「……私から捕捉しましょう。彼女メルティは『混魂ダブル』であるからこその才能に加えて、『魔女学校ソーサリウム』のカリキュラムによってサファイアブルーの魂特有の『器用さ』が開花し、このような『七色の魔女セブンス・マジシャン』になりました。それぞれの練度はまだ低いですが、卒業生の中でもこれほどの種類を発現させたのは彼女ひとりです」


 イヴさんが説明してくれる。やば……。七色の魔女。かっこ良い。


「ふうん。へえ。すっごいね。知覚的な魔法に偏ってはいるけど。これは活躍の予感がするねー」

「きょ……恐縮です……っ」

「ま、このアガリ症な性格が難点ですかね。成績は優秀でした。素直で真面目なのは教師陣全員が保証しますよ」


 こんな凄い後輩が育ってたなんて。

 ソーサリウム……凄すぎる。あと私の語彙力が乏しすぎる。

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