14-3 SOLILOQUY:フラン
私はフラン。『銀の魔女』のひとり。使える魔法は、
①『即死魔法』。見た奴を殺せるわ。正確には、肉体と魂を強制的に分離させることで死に至らしめる。調節して、ただ眠らせることも可能よ。致死魔法とか直死魔法とか言われるけど別に決まった名前は無いわ。好きにして。
②『テレパシーの魔法』。これはユインから貰った奴だけど、最初に真似したのは私。頭の中で会話できる。距離も関係無しにね。思ってること全部筒抜けじゃなくて、『この魔法用の思い浮かべる台詞』みたいな領域が脳内にある感じ。説明難しいわね。一度あんたもやってみなさい。
③『テレポートの魔法』。場所を思い浮かべると次の瞬間そこに居る魔法。かなり正確に思い浮かべないといけないから、便利だけど疲れる。
④『変身魔法』。幽体の形を自由に変えられる。まだ慣れてないけど、私は大人になりたかったから、成長した姿になってそれで暮らしたいわ。
✡✡✡
私が私のことを語るなら、最初から全部語らせなさい。そんなに長くないから。
✡✡✡
私の生前は、以前話した通り。5歳まで母と暮らしていて、母の雇い主の屋敷が燃やされ、母は巻き込まれて死んだ。犯人は6年前に母を妊娠させた男で、何故か捕まらず、私はその男に引き取られた。
で、10年間虐待されて。自殺した。男が私に突っ込み始めたのは12歳の時だった。それから3年間、よく我慢した方でしょ。
母は優しかった。こんな、クソ野郎の血を引く私にも。多分母の中では男の存在は無かったことになって、私は母だけの子だったと思う。
いつもハグしてくれた。キスしてくれた。髪を梳いてくれた。……もう、記憶は鮮明じゃないけど。
次に会ったのが、ギンナだった。
ギンナも優しかった。私の話を聞いてくれた。共感してくれた。私の生い立ちを聞いて、泣いてくれた。
私は普通じゃない。普通を知らない。生前は友達なんて居なかった。できなかった。周り皆がクソに見えた。誰も助けてくれない。私の味方は母だけだったのに、母は死んだ。
男なんて、世界で一番嫌い。
✡✡✡
正直、この1年間は凄く楽しかった。こんな気持ちになったのは初めてだった。4人で、魔女になる特訓と。依頼と。
あの日々。ユインとはなんだかんだと喧嘩したりもしたけど。本気で憎むなんてことはない。言い合いすら、心地よかった。
母が死んで以降、ぐっすり眠れたことなんてなかった。だけどあの家では。隣にギンナやシルクが居たし。何にも心配しなくて良くて。安心して眠れた。夜中に男が入ってきて押し潰されることなんて無い。朝起きたら身体中気持ちの悪い体液がこべりついていたりなんてしない。ふかふかの布団と、さらさらの
死後の世界。どちらかと言うなら、天国だった。全員女の子で、男なんてひとりも居なくて。プラータはムカついたけど、概ね良かった。
✡✡✡
私が自分の魔法に気付いたのは、死後すぐだった。
お屋敷。母が働いていたお屋敷。その庭園で。リリーの花壇の側で。そよそよと風が吹いていて。それが私の『狭間の世界』だった。
「フランソワーズ・ミシェーレ。お前は死んだ。ただのガキだな。とっとと成仏させてやろう」
男の死神だった。その時は死神だと分からなかったけど。ムカついた。絶対に従ってやらないと固く決意した。その偉そうな態度が気に食わなかった。私を。女を、見下しているように見えた。
「さあ死ね。今日はお前で終わりだ。さっさと帰って――」
死神には、私の魔法は効かない。ユインにはそう聞いた。実際、ヴィヴィやクロウには効かないんだと思う。けど。
多分この男は、死神としては弱かったんだと思う。それか、私の魔法を防ぐ手段を持っていなかったか。
ともかく、殺した。思い切り睨んでいると、勝手に倒れた。何が起きたのか分からなかったけど。
「おや? 死神を殺したのかい。ふぅん。良いねえ。これは中々、面白いじゃないか」
そこへ、あの女。プラータがやってきた。死神の死体をまじまじと観察してから、リリーの花壇を見て。私の『狭間の世界』を観察して。
「来な。アタシがあんたを引き取るよ。全く同時にふたりだって? なんの冗談だい」
それから強引に、連れて行かれた。初めて魔法を使ったからか、私はくらくらしていた。きっと、魔力枯渇を起こしていたと思う。今にして思えば。あの時から既に、魔力量が少なかったんだ。
そう言えば。あの時私を抱えたあの女の手付きは。強引だったけど。
ちょっと優しかったかもしれない。
✡✡✡
私は人を殺せる。気に入らないやつを消せる。こんな力、どうして生前に無かったのか。死ぬ前に使えてたら、もっと良い人生になってた。絶対。
警察の世話でも何でも良い。刑務所でも何でも。あのクソの家より100倍マシ。
「なんでこんなガキが来るんだ。俺はあの『銀の魔女』が。『レディ:シルバー』が来ると聞いてたんだぞ!」
一番最初の依頼は、ニクライ戦争の戦地だった。ニクルス教国の猛攻を受けている不利な戦場。逆転の一手として『銀の魔女』に依頼が来た。
プラータを期待してたらしい隊長? みたいな奴が私達を見てそう言った。
「ちょ……フラン!?」
殺してやった。でもまだ、私が殺したってことはシルクしか分かってない。
「うるさいわね。要はあっちから攻めてくる奴らを皆殺しにすれば良いのね」
相手の先頭の部隊に魔法を浴びせた。そこで私の魔力はまた空になった。それからはシルクに肩を借りて。帰りもシルクに頼った。
人を殺せるということに、イマイチ実感は湧かなかった。だって、眠るように倒れる。意識を失っただけに見える。けど、死んでる。
帰りの電車でようやく、胸がざわざわとし始めた。
けど結局。
死んでからの出来事は全部非現実的で。夢のようで。罪悪感は薄れていった。どうせ、私だって死んでるんだ。なら生も死も関係ない。私は依頼通りに殺して、殺して、殺した。
やがて、私のことはニクルス教国とラウス神聖国、両国に知られることになった。ワルキューレとかなんとか呼ばれたりもした。色んな戦場に行かされた。時には戦争以外の殺しの依頼もあった。見世物みたいなこともした。私の魔法を、求められた。色んな人に。沢山の人に。
正直、心地よかった。期待されることも、恐れられることも。誰も、私を罵らない。侮らない。たまに居ても気にならなくなった。私は強い。私は恐い。この魔法があれば、私はもう、惨めな生活には戻らない。
――ギンナだ。
あの子が『普通』と称して。私になんかできっこないことをやっていた。箒になんて乗ったことないのに、カンナの為に頑張って何時間も掛けてベネチアへ行って。人を殺す力なんて無いのに、なんとか皆助けようとクロウと向き合って。こんな、私の為に、必死になって巫女の所へ飛んでくれて。シルクのことにも向き合って。カヴンの仕事も真面目に取り組んで。
自分がくだらないモノに感じた。何を、魔法ひとつで良い気になっていたのかと。あの子は。何も無かった。自分の魔法なんてしばらくずっと、使えなかった。なのに。
私は魔法に依存していた。これがあればと思っていた。自分が、強くなった気になっていただけだった。そう強く思わされた。
あの子からしたら。私の魔法は『恐くて』。もしかしたら私も、あの子に恐がられるんじゃないかって。そんなの嫌だって。
ギンナに嫌われたくなかった。ギンナが……欲しかった。あの子だったら、きっと。私と同じ状況になっても、上手くやれたかもしれない。……父とも上手く。スクールでも上手く。……そんな気がした。私は全然成長してなかった。あの頃のままだった。
ケット・シーの時に。ミッシェルを見ていてイライラしたのは、私が私自身にイライラしていたからだ。でも、それでも。あの子は。
ギンナは私の話を聞いてくれて、私を肯定してくれた。
もう一度、日本に行った時。ギンナの、事故の現場を見た時。
駄目だと思った。このままじゃ私は、駄目だって。
あの子だって、酷い出来事に見舞われた。私とは……比べちゃいけない。泣いてた。友達だっていう子も。あの子の両親も。何よりあの子自身が。
だから。あの子は人に優しいんじゃないかって思った。私は、泣かなかった。泣けなかった。母が死んだ時さえ。
私は最初から壊れてた。
この魔法を。ギンナ達を守るために使うと。自分に言い聞かせてた。それで正当化してた。責任を、なすり付けてた。
――いつまでガキみたいに『気に食わないやつを感情的になって噛み付いて』やがる――
エトワールにそう言われた時、内心グサリと来た。私は『それ』が、私の役割だと思ってた。私は4人の中の、『攻撃』の役割だと。
でもそれは、本当に、求められたことなのだろうか。3人が。ユインが。シルクが。
ギンナが。
私に『それ』を望むだろうか。
✡✡✡
やめようと思う。良い頃合いだった。私は一度、『私』を見つめ直したいと思っていた。ちょうど良かった。ミッシェルには、今度改めてお礼と、謝罪をしなきゃいけない。
この言い方で上手く伝わるか分かんないけど。私はひとりで、『私』になりたい。もう誰にも依存しないで。『私』に。
必要ない。私が居なくても、皆自衛できてる。ギンナには、クロウが居る。
私は。これから。『私』を獲得して。もう一度。
あの3人の、隣に立ちたい。支え合う依存じゃなくて。高め合う共存に。
✡✡✡
…………悪かったわよ。終始支離滅裂で。話グチャグチャで。文字数もいつもより少なくて。私、こういうの苦手だもん。
ただの
じゃあね。私はもう行くから。
次はユインよ。
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