Chapter-8 CAIT SITH

8-1 落ちの化け物

 その後、特に問題なくイングランドに帰ってきた。結局、日本の『神様』ってなんだったんだろう。


 ブラックアークは取り敢えず家の隣に停めた。これレンタルとかじゃないのかな。知らないけど。


 魔女の家に、プラータの姿は無かった。そう言えばマナプールの使い方教えてくれるって言ってたのに、私はあの幻華さんにあげちゃったなあ。


 一応、魔力測定器と一緒に新しいのも買った。ジョナサンじゃないよ? 裏世界の市販のやつ。ついでに新しい食器とかも買った。


「さて! じゃあ測るわよ!」

「フラン……。あんたは寝てたから元気だろうけど私達はブラックアーク運転してて疲れてるのよ。特にギンナはずっと魔力使ってるし」

「まあ、良いよ私は」


 フランはすっかり元気になった。シルクと一緒で、何かひとつ吹っ切れたみたい。クロウからお母さんのこと、聞いたからかな。


「じゃあ、シルクからねっ。魔女に成ったんだし!」

「分かりました。確か目安は200でしたよね」


 やっぱり体重計にしか見えない測定器に、シルクが乗った。買ったのは最大1000の、ベテラン用だ。そしてデジタル。銀貨30枚。結構高いんだよね。


「おっ。……出ました」


 ピッ、と軽快な音がして、数字が画面に表示される。


 『256』と。


「凄っ!」


 フランが仰け反った。


「自分でも驚きました。前に病院で測った時より倍くらいになってます」

「もう立派な魔女ね」

「うーん。まあ成ったばかりの駆け出しだと思いますけど。上には上が居ますし」

「そういやプラータはいくつなんだろうね」

「さあね。もう衰えてるみたいだけど。じゃ次、私ね」

「はいどうぞ」


 続いてユインだ。彼女も魔法を3つ使えるようになった。


 『178』。


「わっ。もうちょっとじゃない。なんであんたがこんなにあるのよ」

「私も色々試してるのよ。何にせよもう少しね。……ほら次、どっち乗るの?」

「…………」


 ユインの問い掛けに、ふたりで顔を見合わせた。


「……ギンナの後だとどうせしょぼく見えるから、私が先よ」

「えっ。……うんまあ。いや、私のあれは魔力滞留症だっただけなんだし」

「でも私よ」

「うん。まあ良いけど」

「駄目よ」

「えっ」


 問い掛けておいて。

 ユインが待ったを掛けた。


「次はギンナね」

「えっ。なんで?」

「その方が『オチ』るからよ」

「えっ。なんて?」

「良いから」

「ちょっ……」


 ユインは時々、無表情のままこういうことを言う。まあ、楽しそうだから良いけどさ。

 取り敢えず、私が乗った。


 ピッ。


「あっ」

「えっ。なに、見せなさいよ」


 全員が注目してた。なんか恥ずかしい。


 『688』。


「…………」

「…………」


 皆それぞれ。顔を歪ませた。まるで宇宙人でも見付けたかのように。


「……マジでバケモンじゃん。なんなのほんと」


 ユインがぼそり。


「……ええと。まあ、500〜800の間で安定してたら大丈夫ってサクラさんも言ってたし。取り敢えずは、ね」

「…………ほんとにこれで、魔女じゃないのよね」

「その筈です。私が魔女に成ったから分かりますが、ギンナの魂は『無垢』のままです」

「…………」


 なんか無視された。私だって。

 好きでバケモンじゃないもん。


「はい。最後フラン」

「……ふんっ。私だって鍛えたんだし! 200は行かないまでも、ユインには勝つわよ! 流石に!」


 フランはふんふんと鼻を鳴らしながら、力強く踏み出した。力は関係無いけども。


「おっ」

「出ました?」


 ピッ。

 皆で集まる。画面に集中。


「……あっ」


 『82』。


「だから!! なんでよ!! ありえないわよ!! ふざけんじゃ!! ないわよっ!!」


 あ。オチた。

 流石ユイン。






✡✡✡






「――でも実際、ちょっと変よね」

「フランの魔力ですか?」

「まあ、『魔女』としてまともな道を行ってるのって私とシルクだけみたいだけど」


 その後フランは測定器を殺そうとしたけど魂は無いし。魔法が無ければ彼女は何の運動もできない力の弱い女の子だから、物に当たることもできないし。

 ぷんすか怒りながら、寝室へ向かっていた。すぐに寝息が聞こえてきたから、やっぱりあの子も疲れてたんだね。


 で、リビングに3人。ユインが紅茶を淹れてくれた。


「私とシルクは順調に魔力上がってるけど。フランなんて前回が70そこらで、今日82でしょ? そんなことある?」

「う〜ん。どうなんでしょうね。でも巫女は何も言わなかったのですよね。ギンナ」

「……うん。サクラさんは何も。フランは魔法不全だっただけだよ。だから可哀想だけど、正常は正常なんじゃないかな」


 そもそも魔力って、常に一定じゃないんだよね。魔法を使うと減っていくし。だから皆今日は1日の終わりに測ったから、もっと元気な時に測ればもう少し上がる筈。ユインは本当にあと少しで魔女だ。


「ま、フランだけまだ魔法ふたつだしね」

「私もだよ?」

「……あんたのは違うでしょ。私とシルク、箒は乗れるけどあそこまで大規模にポルターガイストできないわよ。あれはもはや別物」

「ええー」


 そう言えば。神社で『てっちゃん』に襲われた時に、ちょっとできそうだったことがあるんだった。


「? なにしてんの」

「いや、ちょっと試し」


 まだ触ったことのない、買ったばかりのティーカップに手をかざす。


「…………」


 魔力を伝えるんじゃなくて。空気を介して。放出するイメージで……。


「あっ。できた」

「!?」


 ティーカップはふわりと浮かんで、私の手元までやってきた。


「あんたそれ、触ってないでしょ……」

「うん。魔力をね、今までは触って直接流して残留させてたんだけど。こう、撃ってさ。そしたら遠隔で、触らなくても動かせるかなって」

「……!」

「やったらできた。あはは」


 やった。これで。

 目視圏内の無生物は全て、動かせるようになった。これで私も魔女に少しは近付いたかな。


「……ねえ、フランもそうだけど置いておいて。ギンナが一番やばいんじゃないの?」

「そうですねえ。なんというか、規模が違いますね。流石魔力700の女」

「ちょっ。やめてよ。私だって皆と同じだって。バケモンとか言わないでよ」

「…………」


 なんか変な目で見られた。






✡✡✡






 それから。

 プラータが帰ってこないまま、1ヶ月が経った。私達は毎日のように飛び込んでくる『銀の魔女』への依頼を選んでこなしながら過ごした。いつも通りだ。あんまり依頼に従順だとナメられるからって、ちょっと工夫したりして。


「ただいまっ」

「お帰りフラン。どうだった?」

「いつも通りよ。特に何も無し。戦争が無いと私みたいな魔法使いは退屈ね。……って、また85。いい加減80後半に行きなさいよ馬鹿」


 フランは依頼から戻ってくる度に魔力測定器に乗るようになった。彼女の望む成長はできてないらしい。


「ただいま」

「ユイン。お疲れ様。どうだった?」

「別に……。いつも通り罵詈雑言の雨あられ。楽じゃないわね。『銀の魔女』ってのは」


 ユインも、ちょくちょく家から出るようになった。戦時中より依頼は減ったから、時間ができたんだって。


「そもそも、私達は裏世界でも『無法者』なのよ。簡単に侵入して盗んで殺すからね。けれど、捕まえられない。この『魔女の家』に辿り着けないのよ。プラータというより、もっと先代、先々代の作った魔法ね。それに、役人はミオゾティスにも入れない。そういう約定を、あのジョナサンが結んでる。……決して味方では無いけど、互いの利害は一致してる共生関係って所ね」

「ムカつくわね。どうにかならないの?」

「ならないわね。あの男、ムカつくけど私達より何枚も上手よ」


 ユインは、各地へ出向いて情報収集をしている。あの、『銀に見られない帽子』が結構役立つらしい。


「ねえユイン、私まだ85なんだけど。これっておかしくない? 巫女の所行こうかしら」

「……行ってきたら良いじゃない。そう言えば今、ジョナサンも巫女を飼ってるわよ」

「行かないわよあんな変態の所!」

「…………」


 飼ってる、で思い出したけど。ミッシェルはどうしてるんだろう。スコットランドでの会議以来だけど。気になってるんだよね。あの後ライゼン卿とどうなったか。なんでまだ奴隷なのか。今ちょっと落ち着いてるし、ベネチアに遊びに行っても良いかなあ。久々にカンナちゃんにも会いたいし。


「ユイーン。郵便受けにまた依頼来てますよー」

「どこから?」

「お帰りシルク」


 シルクも帰ってきた。魔女に成った彼女がこなせる依頼の範囲は凄く増えた。魔法3つはやっぱり強い。

 え、私?

 今日はお留守番。特に仕事無いし。


「ええっと、ベネチアですね」

「えっ!」


 依頼主を確認する。驚いてしまった。

 なんというタイムリーな。


「ライゼン卿からね。新規じゃない。どうやってここの住所調べたのよあのブタ」


 フランが悪態をついた。


「多分、ミッシェル経由だよ。行こう。ベネチア」

「待ってギンナ。依頼内容は怪物退治よ? そんなの『銀の魔女』として受ける必要ある?」

「……うーん」


 手紙をよく確認する。ライゼン卿は一応ベネチアを治める貴族だ。字は綺麗だし、文章もしっかりしてる。だけど最後に。

 デイヴィッド・ライゼンのサインの下に。連盟でミッシェルの名前があった。


「行こう。ミッシェルは友達だから」

「…………そう」


 私の言葉に、3人が頷いた。


「で、誰を行かせるの? 退治依頼だから、フランかシルクね」

「私が行くわっ。もっと魔法使って鍛えないといけないのよ!」


 そして、フランがぴょんと跳ねながら立候補した。


「じゃあ決まりですね。報酬は?」

「……金貨1万枚――!」

「えっ! 凄っ!」


 凄い。これは大事な仕事になる。あと忘れてたけど、フランは箒に乗れない。ユイングランドからベネチアはとっても遠いのは身を以て知っている。


「私も行くよ。箒役で」

「ギンナ?」

「うん。ちょっと大きな依頼だし。ミッシェルやカンナちゃんにも会いに」

「……まあ良いんじゃない? 最近あんた暇そうだし」

「うっ……」


 決まった。怪物退治は2度目。『てっちゃん』以来だ。


「(ギンナとふたり旅……! いやいや、普通だからっ。別に何も無いわよっ)」

「ちゃんとギンナ守るのよ? フラン」

「分かってるわよ! 怪物だろうがなんだろうが誰にも指一本触れさせないわ!」

「頼もし……」






✡✡✡






 そして。


「ギンナちゃん!」

「あれ、カンナちゃん!? 久し振り!」

「カンナ! あんた魔力いくらよ!?」

「えっ。……確かこの前測ったときは824、だったかな」

「バッ! バケモンじゃないのあんたも!」


 オチた。

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