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「なんてことだ……」ランちゃんの匂いをかいだ先生は、愕然と言う表情になる。「確かに君の香水の匂いがするよ……こいつがこの匂いを出していたのか……どうもこいつは、君の声と匂いを学習したみたいだな」
そうなのか。普段付けてる香りだから、鼻が慣れてしまって私には全く分からない。そもそも私は鼻はそんなに利く方ではないし。
「だけど先生……匂いはともかく、植物が言葉を喋るなんて……そんなこと、あるんですか?」
私がそう言うと、先生はなんとも言えない複雑な表情になる。
「ない……とは言い切れない。植物が音でコミュニケーションすることもあるらしいんだ。西オーストラリア大学のグループが
……え?
ひょっとして先生、私じゃなくてランちゃんに好きって言われてる、と思ってる?
花好きな先生らしい……けど、私はランちゃんがそこまで知性的だとは思えない。たぶん、私の感情とシンクロして私の思いを代弁してるだけのような気がする。先生が前に「感情を通じて植物とコミュニケーションできるかも」と言ってたように。
そう。それは間違いなく私の思いなんだ。そして……さっき先生も私のこと、かわいいって言ってくれた。そうだよ。何も恐れる必要なんかない。先生に私の思いを伝えなくちゃ。
「先生」
「ん?」
「それ、私が『ランちゃん』って名付けて、いつも話しかけていた胡蝶蘭なんです。誰にも言えない気持ち……先生への思い……それを、いつも私はランちゃんに話していました。ランちゃんはオウムのようにそれを繰り返しているだけなんです。だから……ランちゃんの言葉は……そっくりそのまま、私の言葉なんです……」
「……!」
先生の顔が、一気に赤くなった。
「そ、それじゃ……君は、僕のことを……」
「ええ。ずっと前から……先生の研究室のメンバーになった時から……お慕いしておりました」
きっと今の私の顔も、炎が出るくらい真っ赤に染まっていることだろう。
「そうか……」先生は優しい笑顔になる。「ありがとう。正直、嬉しいよ。君みたいな若くてかわいい女の子に、好きなんて言われるとは思わなかった」
「若い……といっても、私だってもう研究室の最古参ですよ? しかも……25才だから、四捨五入したら30ですし、先生だって34才だから、四捨五入したら同世代ですよ!」
ここぞとばかり、私は主張する。
「ふふっ」先生は声を立てて笑う。「僕もさ、自分では気づいてなかったけど、実は君のことを憎からず思っていたんだ、って、今回つくづく思い知らされたよ。女なんていつかは裏切る物、って思ってたけど……そうだね。君はもう4年以上も僕の研究室にいるけど、僕を裏切ったことは一度もなかったな。今や自他共に認める僕の片腕だ。だけど……」
そこで先生は、難しい顔になる。
「教え子との恋愛は、倫理的に許されるわけじゃないからね。だから……お互いの気持ちは、お互い聞かなかったことにしないか」
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