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「!」


 いきなり液体窒素を浴びせかけられたかのようだった。


「そんな……嫌です! 私は……先生の気持ちも知ってしまって、それでも聞かなかったことになんてできません! 先生の恋人になれたら……どんなに嬉しいことか……先生、どうしてもダメなんですか? 先生とお付き合いするのは、どうしても……ダメなことなんですか?」


「……」


 困った顔のまま、先生は黙り込んでいた。


 やがて、先生は小さくため息をつき、おもむろに口を開く。


「……やはり、これしかないか」


「え?」


「教え子との交際が許されなくもない、たった一つの方法がある。なんだか知ってるかい?」


「……いえ」


「その教え子と、結婚することだよ」


「……!」


 その言葉を聞いた瞬間、クリーンルームに入る手前のエアシャワーのような強く爽やかな風が、私の心の中を一気に吹き抜けていった。


「そう。最後まで責任を取る、ってことなら、たぶんそれほど問題にはならないだろう。だから、もし君と交際することになったら、結婚を前提にしないといけない。君はそれでもいいのかい?」


 ……って、いきなりプロポーズ?


「いいに決まってますよ!」私は即答してしまった。「先生の奥さんになれるなんて……夢みたいです。最近は親からも『いい人いないの?』ってよく言われるし……同じ名字だから私、一部の学生に『松崎夫人』とか『ミセス松崎』とか呼ばれてるんですから。それがリアルになったら……嬉しすぎます!」


「なるほど……よく考えたら確かに、君と結婚しても君の名前は何も変わらないんだな」


 そう言って先生は微笑む。


「そうですよ! だから……これはもう、私達は最初から結婚する運命だった、ってことですよ!」


 私が言いつのると、先生は苦笑いの表情になる。


「全く……非科学的なことを……」


「いいじゃないですか! ついでにもう一つ非科学的なことを言わせてもらえればですね、先生、胡蝶蘭の花言葉って知ってます?」


「いや、知らない」


 そう。この人は、植物の学名とか系統にはめちゃくちゃ詳しいくせに、こういうことは全く疎いのだ。


「胡蝶蘭全般の花言葉は、『幸福』『純愛』……でも、ランちゃんみたいなピンク色の胡蝶蘭にはもう一つ、特別な花言葉があるんですよ」


「というと?」


 そこで私は、先生を真っ直ぐ見据えながら、言った。





























「『あなたを愛してます』」

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