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「……!」
私の顔が一気に紅潮する。先生は続けた。
「『その人はかわいい女子学生さんなんですよね? ひょっとして松崎さん、その人のこと好きなんじゃないですか?』って言われてさ……いや、確かに君のことは、かわいい、って思ってたよ。だけど……ほら、僕は恋愛にはトラウマがあるからさ……恋愛の対象としては君のことは見てなかった……つもりだった。それなのに……いつのまにか、僕は君のことを……」
ヤバい。
ダメだ。顔がどんどん熱くなっていく。
私、先生に「かわいい」って言われた?
だが、その時。
"……スキ……"
一瞬だけど、確かにそんな声が聞こえた気がした。
「先生、ちょっと黙っててもらえますか?」
私がそう言うと、
「え?」
と、先生は怪訝そうな顔になるが、すぐに口をつぐんだ。
"……センセイ……"
まただ。確かに聞こえる。私の声……それもいつも私自身が聞いている声じゃない。マイクを通して録音したような、私の声……
「先生、私にも聞こえます。私の声が」
「ええっ!」先生の目が、まん丸になった。
「もう一度、黙っててもらえますか」
「あ、ああ」
私は目を閉じ、聴覚に集中する。
自慢じゃないが、私は耳はいい方だ。小さい頃にピアノを習ってて、絶対音感もあるし、周波数や音量の細かな違いも聞き分けられる。だから、どの方向からその声が来るのかも判別出来るはず……
ゆっくりと首を回し、私は真っ正面からその声が来る、と感じた方向に顔を向けて、目を開けた。
そこにあったのは……
「ランちゃん!」
そう。胡蝶蘭のランちゃんだった……
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「まさか、と思うけど……」
私はスマホの録音アプリを起動し、ランちゃんにできるだけ近づけて録音ボタンをタップ。そしてしばらく録音させた後、耳に当てて再生する。
"……センセイ……スキ……"
……間違いない。ランちゃんが喋っているんだ。私の声で。こんなことがあるんだろうか。
先生にも聞かせようとして、ふと、私は一瞬思い留まる。
これ……思いっきり、告白してるようなものじゃないか……
だけど……これを聞かせなきゃ、ランちゃんが喋っている、という事実を先生に伝えられない。
……ええい! かまうもんか! 私、先生に「かわいい」って言われたし!
とうとう私は、先生にスマホを差し出してしまった。
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