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松崎先生の講義はすごく分かりやすく、質問にも先生は気さくに答えてくれる。振る舞いには知性が感じられるし、中肉中背、見る人によってはイケメンに見えなくもない。だけど……どうにも身なりに無頓着過ぎる。黒縁メガネ、髪の毛は常にボサボサで寝癖が付きっぱなし。時々無精ひげが生えていることもある。着ているのも明らかにファストファッションの店で買ったような物だし、ジャージを着ていることすらある。
だが、きっとそんなところも女子学生の母性本能をくすぐるのだろう。おかげで学部の講義や実験時はTA(ティーチングアシスタント)として常に先生とつかず離れずいる、しかも彼と同じ名字の私は、「先生の奥さんなんですか?」と敵意満面の女子学生に詰め寄られることもしばしばだった。
しかし、ぶっちゃけそう言われるのは、内心ちょっとした快感でもある。
そう。私も先生が好きだったのだ。学部3年の時に一目惚れして、それっきりずっと。だけど……
致命的なことに、先生は女嫌いだった。といっても別にLGBTとかではなくて、以前性悪の女にこっぴどい目に遭わされたから、らしい。なので、女子に対して常に素っ気ない態度を取っている。バレンタインデーにチョコレートをもらっても、全部突っ返しているようだ。
だから、自分の気持ちを伝えても迷惑なだけだろうし……と思って、私はそういう思いはおくびにも出さないようにしていた。まあ、何となく伝わっているのかもしれないけど……
先生の研究室の発足当時からメンバーだった私も、今年で5年目。D1になって、ようやく先生と雑談出来るくらいにまで関係が進んだのだ。
それなのに……ここ最近の先生の態度は、また昔に戻ってしまったようだ。
つらかった。
いったい、私が何をしたんだろう……いつものように、研究も教育のお手伝いも後輩の指導も……何一つ問題なくこなしているはずなのに……
そんな時の私の話し相手は、お気に入りの胡蝶蘭だった。ピンク色で、その名の通り蝶のようなかわいらしい花びらが並んでいる。私はそれに「ランちゃん」という名前を付けていた。後輩から「そのまんまやんけ! もうちょいヒネりましょうよ!」とツッコミを入れられたこともあるが、別にどうでも良かった。
「どうしよう……ランちゃん……私、何をしたんだろう。先生……どうして冷たくなっちゃったんだろう……こんなに好きなのに……」
先生に対するこの気持ちは、誰にも知られちゃいけない。相談出来るのはランちゃんだけだ。でもランちゃんは何も応えてくれない。当然だ。だけどそうやって自分の気持ちを吐き出すだけでも、私は精神的に随分楽になれるのだった。
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