呟き 朝方 告白

 自由観測の時間になっても、私は転がっていた。天の川をずっと眺めていた。


 ニッシーと千尋は立ち上がってどこかに行った。たぶんケンキチさんのところだ。  園山先生も、三惑星を撮ってこようとぼやいて立ち上がる。


 私は双眼鏡を構えて再び夜空を眺める。あぁ、あの星空と一体になるには、一体どうしたらいいんだろう。なんてニヤニヤしながら考えてると、双眼鏡に星空以外が、入り込んだので驚いて小さく叫んだ。


「そんなに、驚かなくても」

 この声は、言うまでもなく。

「ねぇ、たまには、普通に登場してくれないかな? 」

「普通に登場してるはずなんだけどなぁ」

 それだけで言って、広瀬くんがビニルシートに腰かけた。私も上体を起こして座りなおす。すこし睨んでやった。全く通じなかったけど。


「熱中症だって」

「うん。みんなに迷惑かけちゃったな。僕」

「私も」

「浪川さんも?」

 広瀬くんが目を丸くする。そんな顔も出来るのだなと、関心してしまう。こいつの顔図鑑があったら、さぞ役に立つだろうな。私は三たび双眼鏡を構える。なんとなく、こうしていたい。


「気がついたら熱中症」

「大丈夫なの?」

「きみの方が、大丈夫なの? さっき顔白かったよ?っていつもか」

 言い終っておかしくなる。ついこの間、四人でファミレスに行った時も、似たような会話したじゃないの。広瀬くんもそれを思い出したのか、笑っていた。


「綺麗だ。いつまで見てるの?」

「流れ星ってさー。上から下に流れるイメージじゃない? 逆はどうかなって。見れないかなって」

「ふうん、僕はあまり天体のことわからないけど、浪川さんが、体の向きを変えて見たらいいんじゃないの?」

 私は口を開けたまま広瀬くんを見た。くすりと笑って向きを変えようとしたら、千尋の声がする。


「エミーー、これやばいよお、星空ナビ! めっちゃ星座とかわかるよお! おいでよーっ! って。ああ! 復活してるーー」

 私は立ち上がって、また服をはたいた。どうやらクセみたい。


「今いく」

 と、叫んで振り返った。広瀬くんはニッシー達に手を振って、歩いて行った。私は広瀬くんを追いこして走り、千尋のいる所へ飛び込んで行った。


 千尋が買った星座ナビは相当便利で驚いた。四人で星空にかざして星座を捜した。青春だな、と思った。


 一度シュラフに包まって、少しだけ目を閉じた。少しだけ長めに、意識を体から切り離す。次に目を開くと、東の空がぼんやり明るかった。


 私は起き上がって辺りを見回す。そろそろ戻る準備かな。テントから沢崎教授がでてきた。ずんぐりと、背伸びをする。やがてみんな、夜中の余韻を残しつつ、テント等をたたむ作業を始めた。


「僕、実は結構好きだ。浪川さんが」


 突然、広瀬くんがそう言ったのは朝方四時頃で。


 浪川絵美とは、今更だけど当然、私なのです。この時は誤魔化したけど。しばらく広瀬の醸し出した声、表情含むすべての空気を、私は覚えていた。


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