夏の野外活動は熱中症に十分ご注意ください
「気分どうだい」
しわがれた声のおばさんだった。千尋より背が低い。デカい小人で通用しそうだった。あ、こりゃ失礼。
「は、はい。私は、気分はいいです。もう一人は?」
「客室2だよ」
そう言って彼女は去っていった。必要事項が確認できれば、もういいらしい。胸を抑えながら私は客室2へ向かった。
ドアを、小さくノックした。していないのと、さして変わらない音量だったけど、いちおう。
三秒ほど待って、ゆっくりドアノブを捻った。部屋にベッドが三つ並んで、とても窮屈だった。その奥に広瀬くんが眠っていた。足が頭の位置より高くなっている。近付いて見る。口を僅かに開けて寝息を立てている。今まで見た中で、一番年相応の顔だった。
顔色はいいとは言えなかったけど、正直ホッとした。パッと見て、怪我もなさそうだし。初対面の時に比べれば、今の印象は幾分かマシだった。顔に痣もないしね。
近くの椅子に座って、腕をさすった。髪、乾かさないと。広瀬くんがいること、確認したからいっか。ひとまず。
そう思って客室のドアに手を掛けると、軽かった。反対側から誰かがドアを開けたのだ。反動に驚くと、顔をだしたのは園山先生だった。メガネをかけている。
「あ、大丈夫?」
「え? 私ですか?」
「うん。具合」
園山先生の話し方は何時にも増して簡潔だった。
「今は大丈夫なんですけど、さっぱり覚えてないんですよ」
「うん」
それだけ言って、園山先生は客室に足を踏み入れた。広瀬くんの様子を見に来たらしい。
「二人共、熱中症」
「二人も熱中症ですか。富良野も侮れないですね」
「何言ってるの、浪川さんと広瀬くんだよ」
そう言いながら、園山先生が笑った。ようやく笑えたとような、突き抜けた笑いだった。
「え? 私も? でもいまほら、ピンピンしてますよ」
「うん、今はね」
園山先生は、窓のカギを外した。あのおばさんの趣味なのか、フリフリのカーテンが風に揺れた。さすがにもう涼しくなっていて、涼風が部屋に入り込んだ。
「髪を乾かした方がいいよ」
「そうします」
私は頭を触った。既に冷たくなっていた。
「それと、二十三時からの天体観測にいくなら、天文台は我慢して」
「うぅ」
「大丈夫だよ。今夜は月明かりも無いから肉眼でもちゃんと星がみえるから。今はね、ちゃんと休むこと。しっかり食事もとって。君たち、バーベキューのとき、実は全然食べてなかったんだよ、だからちょっと気になってたんだけど。ラウンジで簡単な食事を用意してもらってるら、きちんと食べること。いいね。僕は二階の客室借りて時間まで仕事するから、何かあったら言うように」
そう言って園山先生は客室を後にした。
広瀬くんを起こすべきか一瞬悩んだけど、やめた。髪を乾かさないと。こっそりと小さなため息をついて、隣のベッドを見た。私の携帯が転がっていて、点滅していた。つまり、私もここに寝てたのね。どーよ。これって。
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