やっち まったぜ 浪川絵美

 ぼんやりしながら、シャワーを浴びている。湯気が視界を曇らせてるついでに、意識にもフィルターを貼っているみたいだった。


 宿泊施設のスピカには、はじめから石鹸の類いなど置いて居なかった。そこまでは調べてなかった。仕方ないかと、思いつつ。少し疲れているのかも。

ん? いま、なんじ?


……は。


 そうだ。あのあと、どうなったんだっけ?  私、どうして今シャワーを浴びているの? だってきっと今頃は、天文台にいる時間なんじゃないかしら。


 曇り止め仕様の掛け時計が、シャワールームについていた。親切なのか急かしているのかわからないけど、そのおかげで意識は急激に、ハイスピードで回転をはじめた。実家にあるデスクトップパソコンのHDも、これくらい速ければ……と、関係ないことまで考えるくらいである。


 あっれえ。

 いま。二十時になってるよ。二十時って。みんなもう天文台に移動したんじゃないの? ひょっとして置いていかれた? うっそお? これって現実?


 私はシャワーを止めて、急いでここからでる支度をした。髪はボブの長さしかないから、タオルドライで今は十分。バーベキューの時とは違う服が脱衣カゴに入っていたので驚いた。明らかに自分の服だけど、いつ着替えた? っていうか、自分で着替えたよね? 千尋や菅原さんなら構わないけど、園山先生や広瀬くんってことは、ないよね。ないよね。そうだよ、広瀬だよ。あいつ、どこに行ったんだ? と、言うより、ぶっ倒れたのは広瀬くんなのに、どうして私のメモリまで半壊しているのだ。


 ぐるぐる回る思考の中、急いで服を着た。

 シャワールームのドアを開けて、首だけだして辺りを見た。静かだった。もうみんな天文台に行ったんだ。どうしよう、今から行こうか? と、自問したけど、ひとまず広瀬くんだ。どこから探そうか、やはりロッカーか物置きかクロゼットか。


 なんて考えてたら、声を掛けられた。誰もいないと思っていたから悲鳴あげちゃったじゃないの。



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