買い出し 八月 照れ笑い
七月は駆け足で過ぎた。千尋と合宿に必要な道具を買いに行ったし(星を見るための観測ソフトを買っていた)、暇をみつけては大学の園山研究室に顔をだした。合宿の話までして、よりワクワク感が倍増するであります。浪川絵美です。
そして八月になると、合宿参加者全員が一度集まった。沢崎教授と、工学部のリーダーが、簡単な説明をした。そこで久々に広瀬くんを見た。少しだけ青白かったのを、心配しちゃった自分がなんか嫌。広瀬くんはニッシーと話をしながら、私と千尋に気づいて手をヒラヒラ振っている。そこにケンキチさんがやって来て、広瀬くんの頭をペシリと小突いた。たぶん、連絡が取れなかったんだろうなー。
当日の日程を再確認し、最後に沢崎教授が場をしめて、集りは解散に。私達四人は、ニッシーの提案で、大学近くのファミレスに行くことになった。
先を歩く千尋とニッシーをぼんやり見てると、隣に広瀬くんがやってきた。もう、こいつが何処から姿を見せても、私は驚かないだろう。そんないらない自信ばかり持っている。
「元気?」広瀬くんが言った。
「きみのほうが、元気? 顔白いじゃん」
「僕は元気」
なんだか、アメリカのティーンエイジ映画のような会話である。私は少し可笑しくなって、小さく笑った。
「面白いこと、言った?」
「いや、なんか久々だよね?」
「そうだよね。西島には会ったけど。買出しに行った」
こいつが、誰かと出掛けて何を話すのかと想像してしまった。ほとんとニッシーが一人で喋ってたに違いないが。
「私も千尋と行った。すごい張り切ってるの。観測ソフトまで買っちゃって。あ、虫除けスプレー、買ってないや」
「大きいボトル、買ったからそれ使っていいよ」
「まじで? ラッキー」
私は背伸びしながら、前方の千尋を見た。ぴょんぴょん跳ねて、ニッシーと盛り上がっている。なんてカワイイ奴。
「千尋って何かかわいいんだよねー。人形みたいっていうか」
そう言いかけて、チラリと広瀬くんを見上げた。こいつが千尋をどう思ってるのか、ちょっとだけ、知りたかった。
「ボクは、ナミカワサンのホウがカワイイトオモウよ」
「は?」
思わず立ち止まった。空耳アワーだったらすごく良かったのに。私が急に立ち止まるから、広瀬くんがどうしたの、という風に振り向いた。どうしたもこうしたもないわ。私は思わず笑った。違う。笑ってごまかした。
「ねえ、男の子って、そういうセリフ、どこで覚えてくるのぉ?」
その問いに、広瀬くんは答えなかった。どうやら、自分が発した言葉を今更自覚して、照れてるようだ。千尋とニッシーは、既に店内に消えていた。
逆に、私が照れくさくなった。完全に墓穴掘ったな。浪川絵美、失敗。どうしてか、少しだけ悔しかった。
もう来週か、と思うと、どきどきしてくる。たった一泊二日なのに。園山先生がいるから? 千尋と一年ぶりに遠出するら? 広瀬くんがおかしなこと言うから?
ああ、わからない。
ケンキチさんが、どうして数字苦手なのかわからないくらい、わからない。
ちなみに、内定。
まだ、だって。
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