先生 質問 いいですか
園山先生は。
私のゼミの指導教員なのだ。若いくせに(といっても確か30歳前半)不思議な授業をする。
たとえば、二年の時。年度始めの教員紹介で、とびきりかっこ良かった園山先生は、すぐに学部内で人気者になった。たくさんの女子に囲まれても、さらっとかわすしね。大人よねー。私もさらっとかわされてるんですけどねー。
最初の授業のことだった。二年の時で、それは日本史の授業だったのだけれど、教科書はなかった。そのことに私たちは驚いた(今となっては教科書やレジュメがなくても驚かないけれど)。
だって歴史の勉強っていったら、分厚い教科書を想像するでしょう。広くはない教室で二十人ほどの学生を前にして、一度メガネをかけなおした園山航平は名前と年齢だけの簡単すぎる自己紹介のあと、講義を開始した。出席も取らなかったし、欠席の人はいますか? なんてふざけた質問もしなかった。
彼は板書をしなかったし、レジュメさえほとんど配らなかった。日本史の講義なのに年号や、高校までに習った固有名詞の類はめったに出てこなかった。
さらに驚いたのはまだ四月だというのに、期末試験の設問について話をしたのだ。
私は、何を言っているのか理解できなくてノートを取るのに一歩遅れたけど、そこで先生ったら、コッチ見て合図くれたあと、もう一度喋ってくれたの。なんか嬉しかった。
で、その設問っていうのが『日本語と国語の違いについて述べよ』だった。たったこれだけ。この1問だけ。これが、今時期から始まる試験の設問。文字数の指定もなし。学生達が戸惑うのも承知で、飛んでくる質問にも、あらかじめ用意しておいたような答えを返す園山先生を見て大学とは不思議なところだなぁ、と実感した。
だから何か、他の先生の授業ってちょっと物足りない。どうしてみんな、教科書見ながら高校と同じレベルの授業しか展開できないのだろうと思う。
園山先生の先生ってのがきっとスゴイ人だったんじゃないかと思う。
テストだなんて思わなくていい。みんなが思っていることを、書いてくれるだけで結構だ。では、おもしろい回答を期待しているよ。じゃぁ終わり。
……というのが最初の講義だった。うーん、懐かしいぞ。
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