カウントダウン①
『今起きてる?』
一連の事を済ませ、ようやく眠りにつこうとした時、携帯に一件の通知が届いた。
有栖川さんからだ。
『ちょうど今寝ようと思ったところ』
『じゃぁちょっと付き合いなさいよ』
『全然大丈夫だよ』
『文化祭の準備はどう?』
『こっちは少し落ち着いたところだよ。クラスの方はどう?』
『ちょっと忙しい感じ。』
『なんかお化けのクオリティ重視しすぎて中身が全然完成しないんだけど。』
『はは...それはちょっとまずいね。』
『来週くらいからならクラスのほう手伝えると思うから、僕も手伝うよ!』
『ん...。助かる。』
『そんじゃ、おやすみ。』
『おやすみ!また学校で!』
「ふぅー。」
最近、忙しいように見えてとても毎日が充実している気がする。なんていうか、働くことの素晴らしさを身をもって実感している感じだ。それに久しぶりに有栖川さんとも喋れるし、いやぁ学校が待ち遠しいなんて感じるのは小学生以来だ。
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「ちょっとーここの看板もっとあっちでやってよー。通れないじゃん。やべ、ペンキ切れた!誰か代わりの持ってきてくれー!ちょっと!そこの配色もっと暗い色でっていったじゃん!っせーな!しかたねぇだろ!ペンキねぇんだから!衣装作りもうすぐ終わりそうだよ〜。配役の人こっち集合してー。このマスクもっとびりびりにして雰囲気だしてやろうぜ。そりゃいいな。やだ、ちょっとこれ怖すぎない?えー逆に可愛いじゃん。サイズはどう?ぴったり?」
ガヤガヤと。クラスだけじゃなく全校で騒がしい。いつもは黙々と勉強をして部活に取り組んでいるみんなが日中にも関わらず、随分と賑やかになっていた。
「みんなすごいな...」
「ったりめぇだろ!文化祭なんだからよぉ!1年間で唯一騒ぐことを許された特別な日なんだぜ?楽しまなきゃ損ってもんよ。」
メイド喫茶が惨敗してあれだけ嘆いていたのにこの変わりよう。そりゃぁそうだよな。だって文化祭はもちろん楽しいけど、実は文化祭の準備をしている今こそが一番楽しいだから。
そんな思いに浸っているとすぐ横で作業していたグループに声をかけられた。
「あっ櫻木〜、あんたようやく顔出したね。ほらっこっちきて塗るの手伝いな。」
「う、うん!わかった!」
「今までサボってたツケだ。とっとやりな!」
「いや、僕別にサボってたわけじゃないんだけど...」
「いいからさっさとやりな!」
この強制的に看板塗りの作業を押し付けてきたのは、クラスでは一番のギャルとでもいうのだろうか。鮫島響子さん。クラスではあまり喋らない人だけど、こういうときにはいろんな人と話せるのも意外と好きだったりする。
「あーもう、ちがうって。そこムラ出ちゃってんじゃん。貸してみ。」
僕から筆を取るととても手際良く塗っていった。
「す、すごい。めっちゃ綺麗だ。」
「でしょ?うちこういうの得意なんだよねぇ。」
「意外だよ。鮫島さんにこんな隠れた才能があったなんて。」
「まぁ、昔っから兄妹の宿題手伝ったりしてたかんねぇ。コツ掴んじゃった的な?」
「兄妹がいるんだ。」
「4人兄妹でうちが1番上。1番下の子だけ男の子であとは全員女の子なんだよねぇ。」
「へぇ。それだけ兄妹がいると毎日楽しそうだね。」
「そっ!そうなんよ!けどたまにわがままな時があってそこはほんと苦労するんだわ〜。」
「それじゃぁまるで鮫島さんがお母さんみたいだね。」
「はは.....まぁね。こんな生活ばっかだったからさ、うち将来保育士になりたいと思ってからさ。お母さん言われてもしょーがないっていうか。なんちゅーか。」
「いいね。とってもあってると思うよ。鮫島さんの保育士。面倒見いいし。」
「え?それまじで言ってる?」
「う、うん?そうだけど?」
「ほぅほぅ。あーはいはい。ありがとありがと.......。ちゅーか!作業止まってるし!ほらはよやりな!」
「うわっ!急すぎない!?」
鮫島さんの意外な一面も知ることができた。
やっぱり、文化祭は楽しいぞ。
「........」
「ちょ、ちょっと優希、そこ色違うって...。」
「.........」
「こりゃだめだ。話全く聞いてないわ。」
優希と美紀と文香のいつもの三人は教室の窓側で櫻木と同じ作業、看板塗りをしていた。
ただ一人、優希の集中力は一点に集中していた。
ちょうど対角線上で作業している鮫島たちとそこに加わり、楽しそうに作業を行なっている櫻木への視線。眉を細め、苛立ちを露わにした視線。
その一点に優希の集中力は使われていた。
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