第二章

お手伝い

「えー、それでは文化祭に出店する各クラスと部活動の予算検討会を始めていきたいと思います。」


放課後。いつも通り実行委員でもなんでもない僕は実行委員の会議に参加していた。


「まずは料理研究部です。内容は出店。クレープなどといった簡単な料理を販売するそうです。次に....」

つらつらと各部活の出店内容の説明をされる。いかんせんこの学校の部活動は数が多すぎるのも相まって、みんな文化祭にも熱心ときた。


「えー、最後に正式な部活動ではないですが、体育館でのバンド演奏を目的とした愛好会が申請しています。」


「あぁ、あいつらか。あいつらは金がかからんから特に気にすることはない。よし、以上だな。諸君、今彼が説明したすべての部活動の予算については、できるだけそれぞれ希望した額を出してやりたい。しかし、実際問題そうもいかん。削れそうなところを各自で考えて明日また話し合おう。それと体育館のステージで活動申請した者たちについては、一切金はかからないから、もし予算額を申請している部活動があれば棄却しといてくれ。どうせ、打ち上げのために使おうとしている金だ。そんなことに貴重な予算を出してやることはない。」


「はい。いま委員長がおっしゃった通り、明日までに各自で予算額の増減について考えてください。ついでにもう一つ。二年生の実行委員は、ステージ活動を申請した部活動についてどういった機材を使用するのか、舞台時間などの細かいスケジュールを記載する紙をそれぞれに渡してきてください。それでは今日は以上になります。お疲れ様でした。」



「....怒涛の会議だったね。」


「まぁ、委員長の性格わかってたら驚かないよ。にしても石津くん行動が早いねぇ。もういっちゃったよ。」


「やる気まんまんだね。石津くんも。」


「うちらもさっさと仕事終わらせよ。わたし演劇部行ってくるから、これとこれお願いね!じゃー!」

プリントだけ渡して颯爽と走り去っていく姫乃さん。


「...時間はあるんだから一緒に回ってくれてもいいのに・・・」

もしかして僕ってあんまり好かれてない?


気を取り直し、自分も仕事に取り掛かろう。


「さてと、僕が行く部活はっと...」

渡された申請書の名前にはそれぞれ、アカペラ部とさっき会長が言ってた音楽愛好会らしき名前が書かれていた。


「ふれいらー?って読むのかな。」

おそらく彼らのバンド名だろう。名前の意味は聞いたことがない単語でよくわからなかった。


「この人たちってどこで活動してるんだ?そういえば聞いてなかったなぁ。まっ、とりあえずアカペラ部だな。確か第二体育館でやってるはずだ。」


無事にアカペラ部に申請書を渡すことができた。

ついでに思わぬ収穫も。


「あーあの人たちね。活動場所っていっても愛好会だから正式な場所はないんだよね。一応ほら、非公式扱いだし。でも放課後よく練習してる場所だったら、向かいの棟の空き教室とかでよくやってるよ。行ってみたら?」


とのことだった。

ラッキーだ。手がかりゼロのところにほぼ答えが転がり込んできた。


そして向かいの棟につく。

そもそもこっちの棟はあまり使われていないので人の気配が全くといって無かった。そんな静寂のなかだったが、微かに楽器の音が聞こえてくる。耳を頼りに音のなる方へ足を運ぶ。三階まで上がりいちばん角の部屋に彼ら━━ではなく彼女たちはいた。


四人組のガールズバンドだった。ドラムにベースギターとボーカルと結構しっかりとした愛好会だ。

今現在は曲の練習中だろうか。全員真剣に演奏している。僕はそれを扉から少し隠れるように見学していた。

しばらくして演奏が終わると、ボーカルの女性が外に出てきた。


「見学?」


「えっと僕は文化祭実行委員のもので申請書を届けにきました。」


「そう。ありがと。」

クールな人だ。いかにもロックって感じのカッコいい女性。


「曲、聞いてたでしょ。」


「あっ、はい。」


「どうだった?」


「すごく良かったです。演奏も上手で...」


「随分と褒めるね。まっ、礼は言っとくよ。」


「あ、あはは。」

なんだか喋りづらい人だ。


「あの疑問なんですけど、なんで部活動として活動しないんですか。部活動だったら部費とかも貰えるのに。」


「そりゃぁ、野暮な質問だぜ、後輩。わたしたちは自由に演奏がしたいだけなんだ。それを部活動なんてもので縛られたら溜まったもんじゃないよ。」

本当にロックな人だなぁ。


「咲ー、休憩おわりー。」

教室の扉から顔だけをひょっこりとだす女性。結構小柄で見た目に反してバンドをやっているのにかなりのギャップを感じた。


「いまいく。...じゃぁもういくよ。申請書、ありがとな。」


「いえ、練習頑張ってください。」

拳をグッと胸のあたりで握る。返事の仕方までもロックな人だ。


「おい後輩。名前は?」

急に尋ねられる。


「櫻木です。櫻木紘。」


「紘、これやるよ。曲褒めてくれた礼だ。」

ピンっと、親指でそれを弾いてきた。

急なパスであたふたしながらもキャッチして見せた。投げられたのは、ギターのピックだった。


「文化祭、聞きにこいよ。」

ニコっと去り際に不意に見せた笑顔がとても綺麗で、少し魅力的な人だなと感じた。



━━━━━━━━━━━


就寝前、貰ったピックを机の上に置き、一人考えこむ紘の姿がそこにはあった。

意を決してピックを右手で掴み立ち上がる。

右手を大きく振りかざし、腰のあたりで何度もシェイクをする。その姿はさながらギタリスト。超絶テクニックを観客に披露しているかのような手捌きだった。


「......何してんの。」

一瞬にして観客は消え、スタジアムも無くなっていた。


「いや、こ、これは、その...」


「いいもの見ちゃった!」


「お、おい!まて!」

未来はニコニコの笑顔で勢いよく扉を閉め部屋を去っていった。

観客もスタジアムも消えた会場で一人項垂れている紘の右手にはピックが一つ。

そして、未来には紘の弱みを一つ、握れてしまったのだった。

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