もちろん!

放課後。

今日もまた、三人での勉強会が開催されていた。

先日の櫻木家での勉強会以降、美穂も同伴することになり、紘、有希、美穂の三人で、お互いの得意分野を解説しあう勉強会になっている。


開催場所はいつもの通り、櫻木家。僕の家だ。

各々がノートを開き問題を解いている。この三人での勉強会では想像以上にみんなの口数が少ない。分からないとこなど必要最低限の質問しかせずに黙々と勉強に取り組んでいる。

本来、勉強会というのはこういう形が正しいんだろうけど、僕にとってはちょっとむず痒い雰囲気だ。

なので僕はいつもこの空気の滅却に力を注いでいる。


「ねぇ、有栖川さん、ちょっとここ聞きたいんだけどいいかな。」


「ん、どれ。」

身体をこちら側に寄せて問題文が見やすい場所へと移動する。

「これねぇ、ちょっとまってよ。」

いつもより近い有栖川さんの横顔に少し緊張する。髪を耳に掛ける仕草なんて本当にありがとうございます。


「私にも見せて。」

僕の前に座っていた美穂もこっちに入ろうとしてきた。

これは毎度のパターン。僕がどちらかに質問すれば、必ずもう片方も会話に入ってくる。

美穂は有栖川さんと仲良くなりたいくせに照れて自分から話しかけることもできないことは普段の彼女を知っているから分かっていた。

全く、この二人を友達にするのには大変だ。


「いやぁ、やっぱり三人もいるといろんなこと聞けるからいいね。有栖川さんも美穂も勉強できるし。」


「紘くんも怠けてるだけで頑張ればできるんだから、そうやって手を抜こうとしない。」


「そのとおり。」


あれ?いま僕咎められてる?

まぁそれでもこうやって二人の意見があって共感を得てそこから仲良くなるなら、僕は喜んで悪者を演じることにするよ。


「大体、櫻木がしてくる質問って公式が分かってれば普通に解ける問題ばっかりだからそういうことなんだなって今思った。」


「やっぱりなまかぁなだけじゃん。紘くん。」


「小学生のころもそうだった。教科書全部引き出しに入れてたりしてさ。」


「そ、そろそろ勉強に戻ろうよ。昔話はまた今度でさ。」


「あ、今思い出したけど、紘くんは給食袋とかもずっと同じやつ使いまわしてた時とかもあったんだよ。流石にあれは酷かったなぁ。」


「うわぁ、それはちょっと引くかも。」


こ、こいつ!余計なことを!しかも有栖川さんの前で!しかも有栖川さんに若干引かれてるのが結構辛いぞ。


「そ、そういう美穂だって!小学1年生の時までよくおね....うわっ!!」

クッションが飛んできた。


「紘くん、うるさいよ。勉強しようね。」

美穂は笑顔のままそう言ったが、背後にはしっかりと鬼の顔が映っていた。

恐ろしや、美穂。


「え?いまおね...」


「有栖川さんも勉強、しようね。」


「え、あ、うん。」


美穂、顔がずっと笑顔のままだ。

触らぬ神に祟りなし。次は有栖川さんの昔話を....。


「あ!有栖川さんってたしか小学生の時に先生のことをおかあ...うわっ!!」

枕が飛んできた。


「櫻木、さっさと勉強しよ。」

あ、有栖川さん。今まで見たことのない表情をしてる。


「じゃぁ、ここの問題の解説始めるからちゃんと聞いててよ。」


「あ、はい。よろしくお願いします。」

今の有栖川さんの前に抵抗できる人間が果たしているのだろうか。いるのなら是非ともあってみたい。


そうして、今日も今日とて三人での勉強会は無事終了した。


この勉強会は一週間後のテスト前日まで続いた。


そして、来たるテスト結果発表。

テストから解放され、浮かれ気分になっていたぼくたちを現実に戻し、気を引き締める日でもあった。


「おーい、紘ー。どうだったよ?」


「ふっふっふ。みなよこれ。」

バッと、答案用紙を机に並べる。


「こ、これは!?」


「なんだ普通じゃねえかよ。」


「なっ!?そういう秀はどうなんだよ。」


「ほらよ。」


「はうあ!?90点台が3教科も!?」

結局、あの短期間開催された勉強会の結果はあまりでなかった。しかし、この勉強会が生んだ他のことは学業よりも大事なものだとぼくは思う。


━━━━━━━━━━━━━━━


またまた放課後。

テストの返却で何人もの生徒が絶望していたのが嘘かのように学校が終わればいつも通りの放課後を過ごしていた。

僕たちもまたそのなかのひとつ。新しいいつも通りができあがっていた。


「紘くんー。こっちこっち。」


「はいはーい。」


「文化祭実行委員さんは今日もお仕事ご苦労様ですー。」


「はいはい。有栖川さんは?」


「有栖川さんももう少しで来るそうだけど....あ、きた。おーい、こっちだよー。」

下駄箱で靴を履き替えていた有栖川さんがこちらに気づくと、少し急ぎ足でこちらに駆け寄ってきた。


「ごめん、またせちゃった?」


「ううん。全然まってないよ。さ、いこ。」


三人が向かう先は駅前にあるショッピングモールの中のハンバーガーショップ。いわゆる高校生の溜まり場だ。放課後になるとこの周辺の高校生が集う憩いの場。勉強をしている者もいれば、楽しく雑談している男子高校生や女子高生グループ。

様々な高校生がそこには集っていた。


「あらためて、テストお疲れ様だね。」


「ほんと、ようやく終わってくれてホッとした。」


「そうそう、後はもう文化祭が待ってるからね。テストのことはもう終わった話だし、ね?」


「なんで二人ともテストの話をそんな早く終わらせようとするの?」


「べ、別に...どうだっていいだろ?」


「終わったことだし...」


「はぁ。今日テスト全部返ってきてるよね。ここに出して。全部。はやく。」

鬼の形相へと変わった美穂に抗うこともできず、なすがままにテーブルの上に5教科のテストをだした。


「へぇ、有栖川さん、全然悪くないじゃん。5教科で430ってすごいよ。でも、それに比べて紘くんときたら、なんとも言えない点数だねぇ。」

ぐうの音も出ない。確かにぼくの点数は決して低くはない。かと言って、高いとも言えない。


「354かぁ。あれだけ教えたのになぁ。ねぇ?有栖川さん。」


「意外...櫻木って平凡くらいの人だったんだ。」


「うぐ...ぐぐぐ。」

その言葉はかなり効く。しかも、表情が素の顔だから余計に。小馬鹿にした感じなら、まだなんとかよかったかもしれないけど、素て。きつい。


「あ、でも英語の点数はすごい高い。98点。」


「紘くんは英語だけは得意だもんね。その代わりに...数学はこんなんだもんね。」

ひらひらとぼくの数学のテストの答案用紙(48点)を見せびらかしてきた。


「お、おい!やめろって!」


「うわっ、想像通りだった。」


「有栖川さんももう少し優しい言葉で頼むよ!」

ちくちく言葉は人を傷つけるんだ!


下らないテストの結果発表も終わったところで美穂が紘に問いただす。


「....それで紘くんは明日も実行委員のお手伝いだっけ?」


「うん、明日もって言うか明日からずっと。」


「じゃぁあんまりあつまれないねぇ。」


「集まれないって、美穂はほぼ毎日、家にきてるじゃないか。」

それを聞いた優希は一瞬体が強張った。自分がまだ知らない二人のことを話しだしたからだ。この会話にはまだ入れない。

優希はただ視線を落とすしかなかった。


「それとこれとは別。有栖川さんがこれないじゃん。」


「そっか、そうだよね。でもその、有栖川さんは僕たちとこうやって集まるのって、嫌じゃない?あ、ご、ごめん!変な聞き方して!別に変な意味とかないから!」


「う...私は、嫌じゃない、けど。二人は?」


「...!もちろん!嫌じゃないよ!」


「うん、すっごく楽しい。」


「そ、そっか。」

有栖川さんから笑みが溢れる。それに釣られて僕や美穂からも笑顔が生まれる。今僕はこの世界で1番の幸せものだと、胸を張って言える。だって仲の良い幼馴染みと好きな人と三人でこんな会話ができるだなんて夢にも思わないことじゃないかな?

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