お出かけ


次の日。約束通り美穂と買い物に出かけた。


「じゃぁ次は服見に行くからねぇ〜。」


「服っておまえ、今服買ったばっかじゃんか。」


「そんなんじゃまだまだ足りないよ〜。さっ、次いこー。」


「はぁ。」

はぁ。とため息をつく。買い物に付き合ってって言うから来たものの、結局荷物持ちをやらされる羽目になった。まぁいつも通りのことなんだけど。


「ねぇねぇ、紘くん。これどう?」


「うーん、いいんじゃない?」


「.....すごいてきとー。まっいいや。試着してみるね。ここでまっててよ?」


「はいはい。」

そう言って更衣室の前で美穂を待つ。女性物の洋服店もあって女性のスタッフやお客さんばかりで男一人でいるのって結構恥ずかしい。


「美穂ーまだー?」

耐えきれずに美穂に催促を出してしまう。


「できたよー。じゃん。どう?」

カシャっとカーテンレースを開けて出てきた美穂はさっきまでとは全然違う系統の洋服を着ていて少しドキッとしてしまった。


「お、おう。いいんじゃない?」


「えー?本当?紘くん適当に言ってない?」


「言ってないって。その、似合ってると思う、よ。」


「そっか。じゃぁこれ買ってこっかな。待っててね、着替えてくる。」

そう言うと再びカーテンを閉じる。カーテンの向こう側からは服を脱ぐ音が聞こえてくる。っていかん!僕はなにを考えているんだ。今更美穂の着替え姿なんか想像してなんになるって言うんだ。


「・・・・」


「おまたせーって、わっ!びっくりしたなぁ。脅かさないでよ。」


「ごめんごめん。じゃいこっか。」


その後も数件服屋を巡り、ちょうどランチタイムということもありフードコートで何か食べようとなり、僕たちはフードコートに向かったのだが。


「うわぁ。やっぱりすごい人だねぇ。」


「だな。手分けして探す?」


「うーん。二人で探そ。後から連絡取るのも面倒だし。」

二人の方が効率的でいいと思うんだけど。とは言えず、大人しく美穂の言うことに従う。


しかし、意外なことにあっさりと席は見つかり、難なく食事を済ませた二人は、これといった目的はなくただウインドウショッピングを楽しんでいた。そんな時美穂の足が止まり、一点を指差した。


「あっ。紘くんあれとろうよ。」

指差した場所が示したのはゲームセンターだった。その中でクレーンゲームに美穂は目を輝かせていた。


「おっ、ベアーくんじゃん。」


「これ取ろうよ。二人でお金出しあってさ。」

これなら少しぐらいお金をかけても全然問題ない。というかいくらかけても少し欲しいぐらいだった。


「よし!やるか!」



勢いよく気合を入れて臨んだものの、ベアーくんのぬいぐるみをとるのに使った金額は二人合わせて4000円ほどだった。


「すんごい嬉しいけど、めちゃくちゃお金使っちゃったなぁ。」

嬉しさ半分悔しさ半分ってとこだ。


「まぁまぁいいじゃない。目的は達成したんだからさ。たまにはいいじゃん。こうやって無駄な努力するのもさ。」


「はは、そうかもな。いやー!良い無駄な努力だった!」


「ふふっ、そんな大声で言うことじゃないよ。あっ、そうだ。ねぇねぇ紘くん記念にさ、あれもやろうよ。」


「うん?どれ?」

次に美穂が指差したのはプリクラだった。


「プリクラかぁ。恥ずかしいんだよなあれ。」


「いいじゃん、撮ろうよ。」


「うーん、まっいっか。」

ベアーくんも無事獲得できたことだし、今は気分がいいから美穂の我が儘に付き合うか。


「半分ずつね。紘くん、200円入れて。」


「400円もするんだっけ?結構高いのな。」

などど言いつつ僕は200円を入れ、続けて美穂も200円を投入した。そこからは色んな設定をするのだが、画面を見ていても僕はちんぷんかんぷんだったのに、美穂はまるでいつも通りのように躊躇いなく設定を行なっていく。


「それじゃぁ撮るよー。ベアーくんを真ん中にしてと。ふふっ。」


「この写真の主役だしな。ベアーくん。」

そして、僕、ベアーくん、美穂という順番でプリクラを撮っていった。この後に写真にいろいろ加工していくのだが、これも当然ちんぷんかんぷんで美穂に任せるしかなかった。


「ふふっ、ねぇねぇ紘くん見てこれ。ベアーくんまで加工されてすごいことになってる。」


「え?どれどれ?...って、わはははは!なんだこれ?」

そこに映し出されていたのは、プリティなベアーくんではなく、ちょっと美形なベアーくんだった。


「やばい、笑い止まらないんだけど!」


「あははは!おかしいねぇ〜。」

こうして意外と楽しかったショッピングは幕を閉じた。



━━━━━━━━━━━━━━

その日の夜。美穂は机の上で今日撮ったプリクラを眺めていた。部屋の電気は消し、机のライトだけを灯しながら。壁には今までの保育園の頃からの紘との写真がコルクボードに貼られている。紘との思い出がたくさんつまった部屋だった。


「こっちがお父さんで、こっちが子ども。そして私が....。」

途端に顔を机に埋める。再び写真を見ると自然に笑みが溢れる。満足したのか、写真を机の上に置き、ベッドへと移る。そこには今日二人で協力してとったベアーくんのぬいぐるみがあった。紘が僕の部屋にあってもきもいだけだから美穂にあげるといって譲ってくれたものだ。

そして、そのぬいぐるみを大事そうに、まるで子どもを抱き抱えるかのように、美穂は眠りについた。

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