櫻木紘の場合 ⑥
美穂が帰った後、しばらくネックレスを見ていたけど、やはり鏑木さんからのメッセージの返事をするべきだと思ってトーク画面を開いた。
『ごめん!ちょっと勉強してて返事遅くなっちゃった!』
そこから五分もせずに通知音が鳴り響く。
『大丈夫です!逆に迷惑じゃないかって思ったんですけど....スゴイですね!もう勉強してるんだ!私はまだなにも手をつけてないから少し不安です...』
『鏑木さんならちょっと遅れて勉強しても大丈夫だと思うけどね。去年だってわからないとこ教えてくれたりしてたのにテストはすごい点数良かったよね(笑)』
『あ、あれはたまたまです!別に勉強ができるわけじゃないので....。もしよかったら、勉強会とかしません?佳奈とか日野くんとかも呼んで」
『僕としては大歓迎だけど、日野が勉強なんかすると思わないんだ』
『あいつ、勉強しても頭に入らないタイプの人間だから。』
『そ、そんなこと言ったら可哀想ですよ!』
『ごめんごめん、冗談だよ。そっちの二人が良ければいつでもいいよ。僕と日野は暇だから』
『良かった...(笑)それじゃぁ佳奈にも聞いてみますね!』
『鏑木さんがいれば百人力だよ!楽しみ!』
『私も楽しみです!!』
こうして、今後の予定をたてて会話を切り上げ、床についた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
次の日。1日前。
いつも通り登校し、席に着く。
すると通知音が鳴り響いた。
『佳奈のほういつでも大丈夫でした!ちなみに急なんですけど、今日とかって大丈夫ですか?』
『うん、大丈夫だよ!』
『よかったです。じゃあ放課後図書室で待ち合わせでいいですか??』
『分かった!秀にも伝えとくよ!』
『はい!お願いします!』
ここで会話は終わる。今日の放課後か。美穂に連絡しとかなきゃな。
そんなことを考えていると、朝礼ギリギリで教室に入ってくる秀を見つけた。
「あっ、秀。今日の放課後なんだけど...」
「なぁなぁ!聞いたか?3組に転校生が来るらしいぜ!しかも、女子!早速見に行こうぜ!」
「いや、僕はいいよ...。ところで今日の放課後にさ...。」
場所は変わってE組。教師の窓側の席で一人。携帯を見ながら幸せそうに微笑む一人の少女がいた。
「おはよーっ志保。昨日言ってたやつどうなった?」
「あっ、それが今決まったんだけど、今日の放課後、図書室でやろうってなったんだけど。大丈夫そう?」
「おっけおっけ。それにしても行動が早いねぇ。さすがだよ。ほんと、そこだけは人と違うんだよねぇ。」
「も、もう!やめてよ!」
「にゃははは。....そんでいつする?」
「え?だから、今日の放課後..」
「違うって、告白だよ。こ・く・は・く。」
「い、今はそういうの考えてないし!ていうかどうせ私なんか振られるし...」
「でも、この前のボーリングの時はめちゃいい感じだったけどなぁ。」
「...ほ、ほんと?」
「まぁ、結構ガチめでね。櫻木って優しそうじゃん。だから降るってことはなさそうに見えるし。」
「さ、櫻木くんはそんな軽そうな人じゃないよ!」
「まぁ、もしそうだったらあんたも願ったり叶ったりじゃん?当たって砕けろじゃないけどさ、結果はどうあれしてみたら?」
「う、うーん。」
「あっ、予鈴だ。じゃ、考えときなよ。」
そう言って自分の席、といっても二席前の机に座る。
チャイムの中頭を抱え込みながら一人必死に考え込む志保とその前の席。一限目の準備をしているふりをしながら二人の話をずっと聞いていた席の主、美穂は静かに座っていた。
昼休み。購買でパンを買って戻ってきた秀一が一目散に櫻木に駆け寄ってくる。
「おいおい!見たか?あの転校生!超超超美人だったぞ!髪型なんかめっちゃ綺麗なボブでな?スラリとした体型でそりゃもう注目の的だったぜ!紘も一回拝んでこいよ!惚れるぜあれは。」
「今はいいよ。どうせ廊下とか歩いてたら見れるだろうし。」
「はっ。おまえ本当に男かよ。情けねぇったらありゃしねぇぜ。あっ、そういえば今日の放課後勉強会やるんだったよな?」
「そうだよ。鏑木さんと五十嵐さんとね。」
「言い出しっぺは誰だ?」
「鏑木さんだと思うよ?最初に誘ってきたし。」
「ほーう、そうなのか。まっ、いいや。いい機会だ。たくさん聞いて次のテストはマシな点数にしてやるか。」
「秀はやればできるんだから教えてもらうより自分で進めたほうがいいと思うんだけどなぁ。」
「ノンノン。そんなめんどいこと、誰がやるかってんだよ。」
「あっそ...。それでさ。」
「うん?」
「転校生の子のこともう少し詳しく聞かせてよ。」
放課後。図書室へ向かう前に美穂に連絡を入れておかなければいけないことに気付いてメッセージを送る。
『今日はちょっと友達と勉強してから帰るよ』
返事はない。ただ、メッセージを読んだことだけは確認できた。
(まぁいいかな。)
「あっ、こっちこっち。」
「うぃーす。おまたせぇ。」
「日野くん、聞いた噂によると結構やばいらしいねぇ。」
「げっ!なんで...って!おまえしかいねぇだろぉ!」
「ゴホン!!」
大声をあげて僕に襲いかかってきた秀の動きはカウンターに座る司書さんの咳払いでピタリと動きを止め、静かに席へと座り、少し照れながら小さくなっていた。
「あはは...んじゃまぁ大人しく始めますか。みんなはどこが苦手なの?」
開口一番、五十嵐さんが切り出す。
「おれは古典とか化学かなぁ。」
「僕は数学が全然で..」
「おっけぇ。んじゃ私、古典結構得意だから日野くん教えてあげるね。そんで、志保は櫻木くんに数学。ってな感じでいい?」
「はーい。問題ないっす。」
「さっそく教えてもらうことになっちゃうけどいいの?」
「いいのいいの。勉強会なんてどうせ名前だけのお喋り会になるのがお決まりなんだし、適当に勉強して喋ろ!」
「か、佳奈!勉強会は勉強会だよ!」
「ははは、短い時間だけどまあ頑張ろっか。」
そして各々が教え教えられる側となり、勉強に取り組む。佳奈と日野のペアは日野の理解度が高いためテンポ良く進んでいるが、紘と志保のほうは少しだけ滞っていた。
「えーと、ここでこの公式を応用して解を導き出して...」
「違うよ、櫻木くん。そこはこの公式で...」
「あっ、そっちか。うわぁ、全然分かってないな僕。」
「そんなことないよ。さっきやった問題は自分でできたんだから、ちょっとしたミスだよ。」
「やっぱ、優しいなぁ、鏑木さん。教えるのも上手いし、流石だよ。それに比べて僕は...」
「落ち込まないでよ!?私別に教えるのなんか上手く....あっ。」
勢いのあまり、櫻木の肩に手を乗せて励ましてしまった。そのことに気づいた瞬間、志保の顔は真っ赤に染まりゆっくりと手が膝に戻っていく。
「....あはは。」
お互いに静寂が一瞬だけ生まれ、乾いた笑いが二人の口から漏れ出す。それはまるで初々しいカップルのような淡いひと時だった。
(私、やっぱり櫻木くんのこと...)
心臓の音が聞こえてしまっているんじゃないのか?
そう思うほどに鼓動は激しくなっていく。
鎮まらないこれはまるで自分のものではないかのように動いている。
(はやく、治ってよ..!)
時間が経つごとに身体中が熱くなり、全身から汗が吹き出していた。
「あの...鏑木さん。」
「ひゃ、ひゃい!?」
「この続きなんだけど、教えてもらって...いいかな?」
「あっ、う、うん!もちろんいいよ。」
鼓動が鎮まっていく。ようやくいつも通りに戻った。そこからは普段通り、いや、いつも以上にリラックスして櫻木との勉強会に取り組むことができた。
そして次の日。
少し肌寒い昼休みの中庭で佇む少女。と、男が一人。
「あの、ずっと好きでした!付き合ってください!」
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