有栖川優希の場合 ③
「はい、それじゃあ今日は、放課後委員会があるから所属してる奴らは各自出席するように、以上です。」
朝礼が終わり、1限目前の少しの空き時間ができる。
すると、すぐさま例の二人が優希のもとに駆け寄ってくる。
「優希、昨日結局あれ以来連絡ないけど、どうすんの?」
「協力できることあんならなんでもいいなよ。やってやっからさ!」
「うん...。ありがと。じゃあさ、ちょっとお願いしても...いい?」
優希の眼差しがいつもと違う、なにかを決めた人間がするそれを、二人は感じとり、ただうなずき、見つめ返していた。
放課後。委員会に属する人たちが続々と移動を開始した。一方でどこにも属していない浮浪者は部活や遊びに行くなど各々の時間を過ごそうとしている。
そして働きアリと怠け者にわけられた生徒の中に本当は逆なのでは?と思われる人物が混じっていた。
有栖川優希である。彼女の見た目は一般的な生徒とは少し違う。制服も少し着崩し、周りとの「違い」を出そうとする。しかし、だからといって授業をサボったりすることも校外や他の生徒と問題を起こすこともない。つまり、ただの拗らせただけの高校生なのだ。ではそんな高校生がなぜ自ら委員会に所属しようとしたのか。答えはただ一つ、気になる男子が立候補したことにおいて他ならない。
2年生になり、クラスが一緒になっただけでも嬉しかった彼女だが、新学期最初に行われるクラスの役割決めでの美化委員だけが最後まで残ってしまっていた。自ら役職を欲しがるような貴重な生徒はもう残っておらず、後はただ放課後を遊び尽くそうとする怠け者だけが残り、ただ時間が過ぎていく一方だった。もちろん優希もそちら側の人間であり、硬直状態の教室の中、頬杖をついて窓の外を眺めていた。
「あのぉ、だれか美化委員になってくれる人、いませんかぁ?」
学級委員である石津が勇気を振り絞って呼びかける。
だがそれに答えが帰ってくるわけでもなく、でてきたのは石津のため息のみだった。担任も年老いた先生だったためか、特に何も言わず、ニコニコと教室を見渡していた。
再び、静寂が起きる。学校生活でこうなってしまうと当分アクションは起きなくなっていく。頼みの先生もあの状態のため役には立たないだろう。誰かが手を挙げて
「私がやります」といってくれるのを怠け者は全員思っていた。
そんなとき。
「あのっ!」
一人の男子が突然声をあげた。
「あの、ぼくが美化委員、やります!」
この冷戦に終止符を打った救世主の正体は、櫻木紘だった。
「えっ?えっ?ほんとかい!?」
石津も驚きのあまり声が震えていた。それと逆に、櫻木の方は落ち着いた素振りで、その問いに笑顔で頷いた。
「えーっと、男子の美化委員が決まったので、後は女子なんだけどぉ。」
そう、問題はまだ解決してなかった。委員会とは男女一名ずつの役職で成り立っているのだ。つまり後一人、女子の中から選出する必要がある。
男子が決まったことにより周りの静寂が打ち破られ、各々が近くの生徒と喋りだす。
「えーどうしよ。」「あんたいきなよ。」「櫻木くんなら、ね?」「そうじゃんそうじゃん。」
こういった他の女子の小言まで聞こえてくる。優希にとっては、少しモヤッとする発言だった。
「いっちゃえいっちゃえ。」「いきなよ。」「えーそれならぁ。」
一人の手が伸びる。
周りも彼女に一斉に視線を流す。
「あっ、ええっと、ごめん名前なんて言うんだっけ?」
新しい学年、それぞれが初めて会う顔ぶれも特段珍しくはない話である。それが女子であるなら尚更。石津は自分の無知を承知で恐る恐る、手を挙げた女子生徒に名前を問う。
「あ、有栖川、優希。」
怠け者が働きアリに変わった瞬間である。
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