有栖川優希の場合 ②

「だろうと思った。」


予想通りの返答に落胆し呆れながら横目で二人を見ながら優希は呟いた。


「だってもういましかなくない!?まぁウチらはまだそういう人とかはいないけど、優希はいるじゃん!そういうのって後から後悔するのが定番じゃん!」


「そうそう。優希、後悔ってどう書くかしってる?後に悔やむで後悔だからね!」


「いや、それぐらいしってるし!ていうか、この話はもうなしなし!はい終わり!」


パンっと手を叩き話題を終わらせようとした優希だったが、そんな事お構いなしで、二人の説得は続いた。


「ばっか。はい終わり、じゃないっての。じゃあもし櫻木とあの子...えっと、なんていったけ?」


「鏑木志保。」


「そう!鏑木!あんたその子と櫻木が仲良さそうにイチャイチャしてるとこ想像してみ?最悪っしょ?」


「それは....」

それはもう何十回としていた。一緒に歩く二人。一緒に手を繋ぐ二人。楽しそうに喋っている二人。そして...。

そのどれをとっても嫌な気持ちしか湧かないのは至極当然の結果だった。


「期限は最低でも明日!いい?明日が勝負だから。明日までに覚悟決めて告白すること!いい!?」


「ウチらはあんたの味方だから。長い付き合いっしょ?夜、相談でもなんでもしてあげるから。」


そして、お互いの帰路が分かれ、優希が一人別の道を歩いていく。その背中を美紀と文香は立ち止まり優しい目で見つめていた。


「ねぇ。ウチら結構いけいけいっちゃったけど、優希どう思ってるかな?お節介とか、当事者じゃないからあんなことめっちゃいっちゃったけど。」


「でも、ウチらそれだけは本心じゃん?優希の本心もきっとそうだと思ったから、後押しのつもりで言ったんだし、それに。」

一旦、美紀の言葉が止まり、並んで歩いていた文香のほうに視線を向ける。


「それに、もし、ウチらの優希を櫻木が降ったら絶対許さないし。」


「どーかん。」

そして、二人は沈む夕陽に向かい帰路に着く。


季節は秋から冬に移り変わる時期。より肌寒い風が三人の体を通り、冬の始まりを告げた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー


夜。自室のベットの上でかれこれ2時間、優希はずっとうつ伏せになりながら考え続けていた。


「急すぎ......」


有栖川優希が櫻木紘と出会ったのは、小学1年生の時だった。当時の優希はあまり口数が少なくいつもムスッとしているような女の子だった。親しい友人としかあまり話さず、友人の数は少ない方のおとなしい子。

そんなある日、席替えがあり、友人とも席が離れ、周りは知らないクラスメイトばかりだった。そこで隣の席になったのが櫻木紘である。最初は彼が、よく話しかけてくれていたのだが、優希は人と話すのが苦手だったため、あまり喋らずただ櫻木の話を聞くだけの一方通行の会話が普通だった。あるテストの日、カンニング防止のため周りとの席を離した状態でのテストがあった。その時に、優希は消しゴムを落としてしまい、行方を見失ってしまった。こういう場合は手をあげて先生に報告しとってもらうのがルールだったが、引っ込み思案の性格のため手をあげるのに苦戦していた。刻一刻と時間が過ぎていき、焦りが募る。さらに、テスト中のため横や後ろを見ることができない状況なため、より不安が増していった。どうにもできない状態の中、我慢の限界がきたのか、鼻が熱くなり、目元が潤んでいき、今にも泣き出しそうになった時、横からスッと消しゴムが置かれた。

その消しゴムは一つの消しゴムを二つに裂き、半分程度の大きさだった。


「使いなよ。」


小さい声で、優しく呟く。その正体こそ、櫻木紘その男であった。

突然の救いに優希は驚き、それから直ぐにテストに取り掛かり、無事終えることができたのだった。


それからというもの、優希は櫻木のことが気になっていた。意味もなく、授業中や休み時間などにチラッと彼を見つめ続けていた。しかし、否、というべきからだからこそ、彼との会話は緊張してしまいさらに一方通行が続いてしまいまともな会話など数回程度しかできずにいた。


そして、また新たな席替えが行われ、学年も変わっていき、クラスが違う時があることもしばしばあった。

だが、彼女の彼に対する思う思いはさらに重くなっていき、募る一方だった。


夜も更けようとし、バイクの音が朝を運ぶ。カーテンを開け、優希は決心をする。その右手に握られていた半分の消しゴムを握り締め、彼女は今日を迎える。

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