『老いはぎ 2』 その下

 ぼくは、大広間の端っこの柱にもたれかかって、しばらく様子をうかがっていた。


 盗聴器は、小型テレビのプラグに偽装(共用)した状態で、コンセントに刺さっている。


 怪しい影たちは、あいかわらず、意味不明な話を続けている。


 夢ではないわけだ。


 なにかが、そこに実在するはずである。


 こういう場合、テレビのオカルト番組ならば、ドアを開けたら、誰も居なかった。


 というのが、定番である。


 アニメならば、たぬきたちが会議をしていた、ということもある。


 どちらも、この状況にはそぐわないだろう。


 ぼくは、意を決して、腹ばいになり、床を、そろそろと這ったうえで、大広間の中を見あげた。


 古い農家のことである。


 玄関から土間が奥まで続き、大広間は、正面入って左側の、かなり高い位置にある。


 だから、ぼくは、下から見上げる形になったのである。


 『なんだ、これはあ?』


 天井から、小型の投影機のようなものがぶら下がっていた。


 そうして、怪しい光や、怪しい影や、声を流していた。


 しかし、ぼくが、立ち上がると、その機械は、どうやら、ささっと天井に収納されてしまったのである。


 『むむむ。ばばばば、ばかばかしい、なんだいこれは。』


 まったく、きつねにバカされた状態である。


 『どなたさまが、こんな仕組みを作ったのかしら。何の為に。まさに、ばかばかしいったらないな。』


 しかし、ぼくは、暗闇の中の天井から、先が輪っかになったロープが降りてきていることなど、まったく気が付かなかった。


 それは、あっというまに、ぼくの首を正確に捉え、ぎりぎりと釣り上げようとする。


 ぼくは、ロープを握って抵抗したが、ものすごい力で、ぼくの身体は、天井に向かって昇って行くのだ。


 こんな、わけのわかない終末で、このお話は、終わりになって、良いのか?


 ぼくは、力尽きようとしていた。



 そこに、玄関のかぎが掛かった古い引き戸が、叩き壊されたのが見えた。



    **************



 『お-い。だいじょびですかあ。』


 あの、『緊急脱出お助け隊』のメンバーたちがいた。


 リーダー格らしき、くだんの女性が話かけてきていた。


 『あぶなかったね。間に合ってよかった。いえね、この家の所有者は、我々の協力者になっていたんだけど、実は、二重スパイだということが分かったんですよ。で、飛んできてみた訳よ。』

 

 『ぎえ。ごほん、ごほん。そんな、・・・おばかな。』


 『まったく。なんでも、お化け屋敷とか、そうしたものの技術者なんだ。しかし、どうやら、あなたの村の秘密組織の息が掛かったエージェントだったんだな。大方、大金か、それよりかは、たぶん何かの弱みを握られたか、で引き抜かれたのだとは思うけどさ。この彼が、念のために、ハッキングしてたら、おかしなメールが出て来てさ。でも、さっさと、逃げられたわよ。さあ、お引越し、しましょうね。まあだ、仕掛けがあるかもしれない。指示していたように、逃走用、カバン用意してる?』


 ぼくは言った。


 『あの・・・・・・ごほ、ごほ・・・』


 『なによ?』


 『お手洗い、行っていいですか。』



    ****************    


         『老いはぎ』3、に続きます・・・・たぶんね


 


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『老いはぎ』2 やましん(テンパー) @yamashin-2

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