『老いはぎ 2』 その中

 さて、まあ、そんなこんなで、ぼくの逃亡生活は、順風とまでは行かないが、命だけはつないでいた。


 肝心の食料は、組織が、安いインスタント食品や、ペットボトルを大量に持ち込んでくれていて、IHの小型調理器を用意してくれていたから、まあ、多少栄養は偏るが、63歳、にもなって、この後に及んで、じたばたしても仕方あるまい。


 気になるのは、自分の田舎の『老いはぎ実行委員会』の動きである。


 それと、家族も心配ではある。


 なぜ、ぼくを、売りに出すような行動にでたのか?


 そこは、不可解だった。


 表向きは、祭りの実施を行う自治組織だが、背後には、あの町独特の、ある組織が潜んでいると、言われる。


 それは、お祭りの中心になる、由緒正しく、格式も高い神社が、まず中心には、存在する。


 そうして、その神社の、氏子組織である。


 この組織は、古来からここに住んでいる、それぞれの地盤を代表する、みっつの一族が、核になっている。


 彼らは、さまざまな儀式や伝統行事に通じている。


 ぼくたちは、10年ほど前に、移転してきた新入り組である。


 いまでは、外部から来たものが、町の20%くらいを占めているから、けっして立場がすごく弱い訳でもないが(まあ、そうなのではあるが。)、お祭りなどの伝統行事に関しては、『その他新氏子』の立場になる。


 それでも、ぼくは、身体を壊して仕事を放棄して、あの町に移住して以来、元来、遺跡とか古墳好きなこともあり、地域のそうした古いものを調べていた。


 あの町は、そうした遺跡類が、なぜだか豊富にある、ちょっと不思議な場所でもあるのだ。


 神社様も、地元の古い住民も、基本的には親切で、いろいろな情報をくれるのである。


 つまり、うまく行っていたのだ。


 それが、なんで、ああなったのか。


 ぼくが、触ってはならないところに、手を伸ばしかけたことが、原因かもしれない。


 つまり、どうやら、意味不明の行方不明者が、複数いるらしいと、分かったのである。


 さらに、驚くべき事に、日本合衆国政府が絡んでいることは、例の組織からの情報ではあるが、あんなものすごい武器が出てくるんだから、間違いなかろう。


 なんでも、極秘のプロジェクトに絡んでいるらしい。


 それは、早い話、60歳以上の国民の、間引きをしようとしているのだと思われる。


 やり方が、はちゃめちゃなのは、さまざまなことを試している、ということなのだろうか。


 あの、超小型核ミサイルについては、いくら調べても、なんの報道もない。


 核爆発で、けっこう、被害があったはずなのに、その報道も、一切、ない。


 深い山の中の小さな町(村がみっつ合同したのである。)だ。


 だから、周囲から気付かれにくいのは確かだが。


 で、ぼくは、組織の、あの彼女に、実情を調べてもらえるか尋ねた。


 『まあ、アフターサービスの一環で、やってみます。我々も、興味があるし。ただし、あなたが狙われていることは、間違いない。氏子総代の意向を受けて活動する秘密組織があることは、掴んでいます。その正体は、いまのところ、分からないが、神出鬼没にして、あたかも自由に空間を移動する、幽霊みたいなものらしい、・・・・・とか。うふふふふふふふふふふ。』


 『あなた、ぼくを、いじめてませんか?』


 『いえいえ。事実です。この建物の所有者は、わが組織の、隠れメンバーです。』


 『そりゃあ、似たもの同士かい?』


 『ほほほほほほほほほほほほ。』


 という、回答だった。


 

 さて、それは、また次にして、それで、元のお話である。


 お風呂の怪は、いささか、怪しいモノの、逃走中のぼくにとっては、まあ、許容範囲であることにした。


 もっとも、あれ以来、お風呂に異常は見られない。


 いつも、お守りを携帯して、家の中も歩いている。


 その中で、どうにもならないのが、深夜の『会合』だったのである。


 真夜中12時が来ると、必ず一階の大広間から、話し合うような声が聞こえるのである。


 大声ではないが、非常に気になるではないか。


 しかし、意味が分からない。


 どこの言葉なのかも、理解できない。


 そこで、ぼくは、広間に、護身用に用意していた、盗聴装置を仕掛けた。


 相手がオカルトならば、こちらは、テクで行こう。


 録音も可能である。


 盗聴電波を受信可能な、ハム用の無線機が手元にある。


 基本的には、430メガと、ツーメーター用であるが、おまけ機能があるのだ。


 ちなみに、ぼくは、アマ無線4級の資格がある。


 小学生でも通ると、揶揄される、合格しやすい、国家資格である。


 それでも、ただ、文句言う方は、ご自分で受けて見たらよい。


 一応、勉強しないと、通らないから。


 で、ぼくは、二階のお布団の中で、下の状況を聞いていた。


 時間が来た。



 『〇、✖、▽、=、=、@、%%%%、』



 『$$$$$、α、』



 『・・Θ、??●●・・・・・・γΔ?』




 『な、なんだこりゃ。』


 まさに、宇宙人の会話のようなものだった。


 少なくとも、聞き覚えのあるメジャーな外国語ではなさそうである。


 しかも、人間には、発音できそうにない音も入っている。


 カメラで撮影したいが、さすがにその用意はない。


 市販の監視カメラは、下手をすると、誰でもネット上で見えてしまう恐れがあるし、相手を警戒させやすい。


 で、ぼくは、ついに、お手洗いに行く決心を固めた。


 お手洗いに行って、何が悪い?


 悪いなら、そう言ってほしいくらいである。


 ぼくは、そっと起き上がり、階段の電灯はつけずに、懐中電灯を頼りに、ゆるゆると進んだ。


 受信機は、ぽっけに。イアホンは、耳に。


 その、不可思議な会話は、続いている。


 気味が悪いのは、もちろんであるが、突然、光線銃とかで、び~~~~っつ!とやられるのは嫌である。


 とは言え、アメリカならライフルもあろうが、そう言う武器は、ぼくにはない。


 ぼくは、階段を下まで降り、ついに、大広間の前に差し掛かった。


 ほのかな、明かりが見える。


 天井の、電灯ではない。


 もっと、薄暗く、頼りない、揺らめく光だ。


 ろうそくの匂いが、漂ってくるのだ。


 そうして、土間の壁に、不気味な影が映っているではないか。


 あきらかに、何かがいる。


 それは、物質である。


 でなければ、影は出来ないだろう。 


 ぼくは、広間の端っこから、中を覗き込んだのだ。



  ***************  👻

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