『老いはぎ』2

やましん(テンパー)

『老いはぎ 2』 その上

 最初、ぼくは、ある田舎の農家の廃屋を利用させてもらった。


 例の組織から、所有者の許可を取ってもらったのだ。


 一年間の、アフターサービス代も支払っていたのである。


 家賃は、月、一万ドリムとされたが、交渉の結果、二月分で一万ドリムとなった。


 ライフラインも、復旧させてくれていた。


 畑も、使い放題だという。


 しかし、長らく空き家だった、かなり、でかい建物である。


 一応、殺虫剤は焚いたが、それでも、色んなものが、出るのである。


 へびさんは、勿論のこと、でっかい、真っ黒なくもさん。30センチはありそうな、やすでのご夫婦さん。


 たぬきさんも、出る。


 あなぐまさんみないなのも、いるようだった。


 B29みたいな、蛾さんも出てきて、ぼくめがけて、空襲してくるのだ。


 蚊さんも、たくさん出るが、これは、強力な殺虫剤で、かなり押さえ込んだ。


 しかし、それだけでは、なかったのである。


 

 こうした、古いお屋敷の夜は、なにもなくても、慣れていないと、不気味なものだ。


 ぼくが住んでいた田舎は、まあ、田舎としては、ここと、そう変わらないが、家自体は、築50年というところであった。


 多少、古いが、このお屋敷の比ではない。


 ここは、明治時代の始めに建てられたらしいからである。


 また、この家は、集落からは、かなり、離れている。


 ぼくの家は、集落の真ん中にあった。


 ぼくは、幽霊みたいな存在は、信用していないが、ならば、なぜ、こうなるのかは、いまだに、わからない。


 毎晩、深夜12時くらいになると、下の、かなり、広い座敷で、あたかも、なにかの会議のような、話し合いらしき、が、はじまるのである。


 ときに、その話の前に、昔の農家であるから、お手洗いは、外にある。


 これも、知らないわけではないし、親戚の家などもそうだったから、経験はある。


 ぼくは、あらかじめ、街のホームセンターで、太陽光充電型の、LED電灯や、室内灯やらを、準備していた。


 お手洗いまでの道筋は、それなりに、明るくなったのである。


 お手洗いの中も、はだかの白熱電灯だけだったが、これも、LEDに替えた。


 さらに、ラジオを設置した。


 虫除け剤や、脱臭剤も置いてみたが、これは、まあ、気は心、程度である。


 で、問題は、お手洗いに行くには、この、座敷を通過する必要がある。


 ぼくは、わりに、お手洗いは近い。


 だから、この会議は、かなり、気になったのである。



    ・・・・・・・・・・・・・



 そうした、『現象』に気が付いたのは、入居二日目から、だった。


 最初の日は、疲れていたので、夜は良く寝てしまっていた。


 しかし、二日めには、さまざまなお客様、いや、先住民と、言うべきか、が、現れるので、対処するのに、大いに手間取った。


 一人だから、使いたい部屋は、限られている。


 そこだけを、ぼくの領域にできれば、それで良いのだ。


 しかし、そいつが、なかなか、困難だと分かってきた。


 そりゃ、そうだろう。


 相手は、縦横無尽に、移動するのである。


 まずは、お風呂である。


 これは、比較的、最近改築したらしく、見た目は『ゴエモンブロ』、ではあるが、燃料は灯油にされていて、炊くのではなく、お湯を入れるスタイルである。


 だから、べつに、蓋を敷かなければ入れない訳ではなかった。


 ただ、非常に困惑したのは、お風呂を張って、さて、入ろうと思ったら、中に、人の気配があるのだ。


 ばちゃばちゃ、と、音もする。


 あらまあ、なんだろう。


 と、思って、入り口を開けてみたが、誰もいない。


 で、一旦、ガラス扉を閉めると、また、人の気配がする。


 ぶあっ!


 と、開けてみたが、やはり、誰もいない。


 さて、くもさんや、へびさんは、外に出ていただいたが、これは、いかがしたものか。


 仕方がないので、ちょっと、湿ってしまうが、大切な御守りを、脱衣場に持ってきてみた。


 すると、なぜだかわからないが、静かになったのである。


 お風呂に入らないわけには行かないから、まあ、核弾頭で殺されかけた身の上であり、以前よりも、多少は肝が座ったのか、それから、お風呂CDプレイヤーで、大バッハの『ミサ曲ロ短調』を鳴らしながら、入浴した。


 さすがに、大バッハ先生は、かなり、効き目があるらしい。


 とくに、問題なく、入浴した。


 しかし、その問題は、まだ、それからだったのである。



  続く……しかありますまい。(えらそに言うな❗慎んで書かせて頂きます。)

 


 


 


 


 

 

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