第2話 異世界行ってもお金は必要
箱の中の本を取り出した。
どこか古臭い感じもするが、埃が被っている様子もない。
恐る恐る開くとインクの臭いが漂う。
中は幸いにも日本語で書かれている様子であった。
最初のページを見てみると、そこには”チュートリアルの書”と書かれている。
どういう意味だ?
だが、これで確信した。
間違いなくこの本は俺宛の本に違いない。
その本を持ってベッドに腰掛てじっくりと読むことにした。
まずページを捲る。
すると目次が現れた。
チュートリアルの書。
目次
:この世界について知ろう
:強くなる方法について知ろう
:配信方法について知ろう
:売店について知ろう
:Q&A
色々ツッコミを入れたい事が多いが、とりあえず読むべきだ。
:この世界について知ろう。
まずここは貴方がいた地球ではありません。別の世界の地球です。
そのため、太陽もあり、月もありますが、日本という国は存在していません。
この星の名前はガイアと呼ばれています。
貴方の居た地球との大きな違いは科学ではなく、魔法が発展した世界だということです。
この星には魔力があふれ、その魔力に触れ、様々な生き物たちが生息しています。
そのため、魔力の力を受け、凶暴化した動物達はその世界では魔物と呼ばれ、人々の生活を脅かす存在となっています。
また、進化の過程でその世界には人間以外にも言葉を話す種族がいます。
道具などを作り出す事に長けた人間族。
森の中で生活し、精霊に愛された存在である霊人族。
強靭な肉体を維持するために進化した獣人族。
そして魔法の扱いにすぐれた魔人族。
この四種族がそれぞれ交流し生活する世界です。
当然、種族ごとに争いもあったりしますので、それぞれの文化を大切に交流して行きましょう。
「うーん、それだけか」
いや、それなりに衝撃がデカイな。
まずここが地球だと言う事。
だから空にも当然太陽があるし、夜には月も出てくる。
てっきりファンタジー的な何か都合のいい宇宙空間なのかと思っていたけど、そうではないようだ。
ということは俺が今居る場所は、地球の、そして俺が住んでいた場所だった所なのかもしれないな。
「とりあえず次が重要だな」
:強くなる方法について知ろう
この世界は魔物がいっぱい。貴方がいた地球では考えられないくらい争いごとが耐えません。今日あった友が明日には死んでいるという事がざらにある、そんな世界だという事を忘れてはいけないのです。
では、そんな場所で貴方が生き残るにはどうすればよいのか。
それは強くなるしかありません。
でも、自分のようなフリーターがどうやって魔物を倒せばいいんだと嘆いていませんか?
「うっせいな! 余計なお世話だよ!」
思わず叫んでしまった。
気を取り直して続きを読むとしよう。
そんな貴方が簡単に強くなる方法を用意しました。
それは貴方の世界で言うところのレベルアップという方法です。
貴方が得た経験値をまるでゲームの世界と同じように貯め、それを消費して貴方の貧弱で虚弱な身体をムキムキのマッチョメンにする事が可能なのです。
筋トレ? ランニング? 剣などの素振り? そんな大変なことはする必要はありません。
貴方に求められているのはなんですか?
そう。
配信です。
次の項目でより詳しく説明します。
「この本、ちょいちょいむかつくな……」
そんな事をボヤキながら更にページを捲った。
:配信方法について知ろう
まず貴方は配信をする事によって、経験値を得ることが出来ます。
具体的な経験値について説明しましょう。
まず動画は生放送しか出来ません。
チャンネルは貴方のチャンネルを使用して問題ありません。
注意点としてはアーカイブに残らないということです。
そのため、放送中の視聴者の数ですべてが決まるとお考え下さい。
まずは視聴者数。
一人ごとに1ポイントの経験を得る事が出来ます。
来場者数でカウントされるため、途中で退出されてもカウントはされるので安心して下さいね。
次に、視聴時間です。
例えば貴方が一時間放送したとしましょう。
その時の放送時間した60分の時間をポイントとして得る事が出来ます。
つまり、貴方の放送に誰一人来なかったボッチライバーだったとしても一時間放送すれば60ポイントは得られるということです。
ただし、一定時間放送中の貴方が動いていなかったり、何もしていなければ放送事故として放送の枠を強制的に落とさせていただきますので、居眠り配信なんかをして回してもまったく意味がないのでご注意ください。
こうして集めたポイントを使ってレベルアップをして行きましょう。
そしてもっとも重要な要素。
それはスーパーチャットです。
貴方に向かって投げられたスパチャの金額に応じて特典が得られます。
この特典については次の売店について知ろうを参照してください。
そして肝心な配信方法ですが、【ライブスタート】と言葉にすれば、貴方の近くにカメラが出現します。そのカメラが貴方を勝手に追尾し、撮影してくれる優れものです。配信を停止する場合は【ライブエンド】と言葉にしましょう。
そうすれば配信は終了します。
「レベルアップなんてあるのか、ほんとにゲームの世界みたいだな」
しかも敵と戦って経験値得るのではなく、放送して経験値を得るのか。
俺のチャンネルで放送できるって事はYooTubeって事だよな。
色々考えなくちゃだめだが、まず残りのページを全部読むか。
:売店について知ろう。
ここはスーパーチャットで得たお金を利用して様々な特典を入手する売店です。
レベルが上がるごとに購入できるアイテムも増えていきます。
売店を開くためには【ショップオープン】と言いましょう。
「これは試してもいいかもな。”ショップオープン”」
ちょっと恥ずかしくて小声になってしまったが、目の前にまるでホログラムのような画面が現れた。
【ガイアショップへようこそ】
そう画面の上にデカデカと書いてある。
そこには手持ち0円と書かれており、その下にはいくつかのアイテムが並んでいる様子だった。
一番上にある回復ポーション小100円という部分にゆっくりその画面に触れると指が触れた場所に波紋が発生する。
「うおぉ! びっくりしたぁ!」
すると画面には、『金額不足のため購入出来ません』
と書かれていた。
「もしかしてスマホと同じ要領か?」
今度はタッチではなく、スワイプするよう動かした。
すると思ったとおり、画面が下へスクロールする。
そこには現在購入できるアイテムのリストが並んでいた。
よく見るとそれぞれ効果が書かれている。
・回復ポーション 小 100円
小さい傷なら簡単に治せる薬
・魔力回復ポーション 小 200円
所有している魔力の十分の一を回復させる薬
・初心者装備一式 2000円
初心者にお勧めする装備を一式入手できるお得なパック
・レベルアップポーション 10000円
レベルを1上げる魔法の薬
・スキルポーション 20000円
好きなスキルを取得出来る便利な薬
・ウィル
ガイアのお金に換金できる。1円が1ウィルだと思ってね
・
地球へ帰還できる魔法の鍵。
「って地球に帰る方法あるじゃねぇか!!」
100万はそうとう高額だが、それで地球へ戻れるならやるしかない。
誰か知り合いに、最悪両親にスパチャを頼めば帰れるか?
いや、確か配信でもスパチャの上限は5万円。100万貯めようと思ったら、25人に上限スパチャを投げてもらう必要がある。
「それに俺の今の姿はウマミダイズなんだ! 佐藤小豆じゃない! 声だけで分かって貰うにはハードルが高すぎる」
俺が配信業をしているなんて親にも言っていない。
友人もいないから、知り合いで俺が配信業をしている奴なんて誰一人いないんだ。
「――待て、ポジティブに考えよう。ここは異世界だ。配信すればきっと珍しがって着てくれる人は大勢いるはず……」
そうだ。慌てる必要はない。帰る手段があると分かっただけでも良しとしようじゃないか。
そう思って残りのQ&Aの方へページを移った。
:Q&A
Q:どんな配信をすればいいの?
A:食事配信してもいいし、魔物と戦う迫力のアクションシーンを配信してもいい。きっと地球の配信を見ている暇な人達には異世界は刺激的なはずだよ!
Q:自分の能力を見る方法はある?
A:ゲームっぽくステータスを用意したよ!恥ずかしがらずに【ステータス】と叫ぼうね!
Q:地球へ戻ったらどうなる?
A:ここで過ごした時間と同じだけ流れているから注意が必要だよ!
戻りたい場合は売店で”地球へ……”を購入しよう!
Q:一度地球へ戻ったらもうガイアには戻れないの?
A:貴方が望めば何度でもガイアに訪れることは可能だよ! でも帰るためには”地球へ……”が必要になるから注意が必要だね!
Q:スパチャで得たお金は貯金できるの?
A:もちろん可能だよ! ちなみに、スパチャを貰えたらすぐに反映されるからどんどん買い物しよう! 通常翌月末に振り込まれるけど、そこは神様パワーだよ!
Q:視聴者と交流したいよ!
A:ライブスタートした際に、【コメントオン】といえば、コメントが視界に流れるようになるよ! でも、視界の一部が塞がれるわけだから戦闘のときは注意が必要だね!
Q:この部屋はずっと居てもいいの?
A:その部屋は神様が用意した部屋だよ! 最初の三ヶ月は無料だけど、4ヶ月目からもその部屋を使う場合は、毎月3万円が必要になるよ! だからお金を頑張ってためよう!
Q:死んだらどうなるの?
A:売店で”地球へ……”を持っていればそれが身代わりになってくれるから一度だけ死を防ぐ事が可能だよ! もし、”地球へ……”もなく死んだ場合は、地球へ強制送還され、ガイアに居たときの記憶もなくなるよ! だから二度とガイアには来れないから注意が必要だね!
「……思ったより重要な事が書かれてるじゃねぇか。え? 死んでも帰れるの?」
この文章を読んだ感じだと死んでも戻れるようだ。
なら自殺すればすぐにでも地球へ帰れるって事だ。
「無理だ。そんな事できるわけねぇよ」
ためしに腕を抓ってみた。当然痛みがある。
ならば、死ぬということは決して容易なことじゃない。
小心者の俺が自殺なんて出来るわけがないんだ。
「逆に考えよう。こんな機会まず絶対にありえないんだ。有効活用するってぐらいに考えなくちゃな」
だから目標としては、まず50万円ためること。
いつまで掛かるか分からない。バイトもクビになるだろう。
でも、色々とお膳立てはしてくれているんだ。
まずはやれるだけやってみようじゃないか。
「とりあえず、やっておきますか”ステータス”」
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