目ざわりだから、使えないからと貶めて断罪していましたよね。今さら助けろと言われても、救えません。

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 その時代は、世界が終わるような大戦が続いて、お金持ちしか生き残らなくなった時代だ。


 そこで踏みとどまり、手をとりあい、生きていけたなら良かった。

 けれど、そうではなかった。


 人々は、誰かを悪役にして、責任を擦り付け、断罪していった。


 少し意見の違う人間がいたら、濡れ衣を着せて、処刑。

 少し使えない人間がいたら、仕方がないと言いながら処刑。


「反対意見の者を全て排除していったら、このままでは考え方が凝り固まってしまうわ。それに、少し怪我をしたからといって切り捨てるのも人の道に反するわよ」

「黙れ、私達に逆らうならお前も処刑してやる!」

「もうこんな事はやめるべきよ! 要らない人間を積極的に探すなんて悪辣すぎる行為だわ! 人である事をやめてまで生き残りたいの!?」

「そう言って、私達を混乱させて生き残ろうという魂胆だな、そうはいくか! さっさと処刑してしまえ!」


 こんな人類はもう、滅ぶべきだ。





 この終末の時代。

 処刑された人の命がエネルギーに変わるこの世界では、味方の少ない人間は長くは生きられなかったのだろう。

 シェルターで生き残ったお金持ちの要人達は、みな性根が腐っていた。

 その影響で、お情けで生き残った一般人達は、彼等の言う通りにするしかない。


 要人達が悪と言えば、たとえ正義でも、それは悪になる。


 私はやってもいない罪で、断罪された。


 けれど、この世界の惨状を見ていた神様は、私を助けた。


 別の世界へ逃げるために作った箱舟にのせてくれるらしい。

 そして神様は、箱舟にのせた私に向かって述べた。


 次に船にのせる人間を選んでほしいと。


 だから私は、最後まで私の無実を信じてくれた人を乗せる事にした。


 断罪された時の絶望感で一時は、怒りの感情に身を任せそうになったけれど、この世界には少ないながらもまだ信じられる人がいたのだ。

 それを思い出せてよかった。


 彼の名前はザックス。


「フィア、無事だったんだね。良かった」

「ええ、断罪されたけれど、神様が助けてくれて、この船にのせてくれたの」


 ザックスは私の幼馴染で、ずっと一緒に生きてきた存在だ。


 世界が大きな争いでめちゃくちゃになって、酷い事になっていても、いつも私を守ってくれた男性だ。


 神様は、そんなザックスに向かって、次の箱舟にのせる人間を選んでほしいと頼んだ。


「こんな大変な事を、俺がやってもいいのかな」

「大丈夫よ。どんな判断でも、ザックスの選んだ事を尊重するから」

「ありがとうフィア」


 ザックスは、次に私達の師匠を選んだ。


「おお、ありがとう。滅びゆく世界と運命を共にする覚悟でいたが、やはり生きられるのは嬉しい」


 ユニオン師匠だ。


 その人は、私達に生き残るための術を教えてくれた人。


 それだけでなく、多くの人に魔法の使い方や戦い方を教えて、生存率を高めた人だ。


 きっと、誰もが思うだろう。

 彼こそが最初に生き残るべき人だと。


「フィア、我が弟子よ。濡れ衣を着せられた君をかばってあげられなくてすまなかったね。私についてきてくれた弟子たちの事を考えると、何も言えなかったのだ」

「いいえ、大丈夫ですわ。師匠が心の中では私の事を信じてくれていた事、分かっていますから」


 私をかばったら、私がいなくなったその次に処刑されてしまうだろう。

 それは簡単に想像出来る事だった。


 師匠は実績のある方だから、殺される事はないかもしれないけれど、その矛先が他の多くの弟子たちに向かってしまうと考えたのだ。


 申し訳なさそうな顔で謝ってくれたユニオン師匠は、神様に言われて次に箱舟へのせる人間を選んだ。


 その人間は、ユニオン師匠の遠い親戚だという少女。


 ユフィだった。


 師匠は、大戦で親を亡くしてしまった彼女を引き取り、実の娘の様に可愛がっていた。


 しかし彼女には魔法の才能がなく、物事をこなす要領もかなり悪かった。


 そのために、あの余裕のない世界では肩身の狭い思いをしていたのだった。


 きっと遠からず処刑されていただろう。


「ユニオン様、良かった。無事だったのね。いきなり消えた時は、驚きましたわ」


 彼女は、唯一の家族であるユニオンとの再会に、涙ながらに喜んだ。







 それからも、多くの人を選別しては箱舟にのせていった。


 やがて、箱舟にのせる人間が尽きる。


 のせても問題にない人間がいなくなったのだ。


 後に残ったのは、私に濡れ衣をきせて、あることない事をでっちあげ、断罪した者達ばかりである。


 彼らは滅びゆく世界に取り残されることになった。


 しかし神様の慈悲で、私達は最後の言葉を交わすことになった。







「なぜだ! 俺達は人類を存続させるために、必死でやってきたというのに!」


 私達の声を聞いて、事情を知った彼らは、予想通りの反応を示した。

 取り残される形になった彼らは、怒りの声をあげつづける。


「お前達は間違っている。お前達などが救われるなど、あってはならない! その船から降りろ!」

「そうだ! 真に世界の行く末を心配するものなら、我々を乗せるべきだ! 今までどんな思いで、人々を断罪してきたか! 必要な犠牲だったのだ!」


 そして、口々に文句を言い始めた。


 だから私は「あと一人だけ乗せる事ができますわ」と言った。


 するとみな、口々に「自分こそを」と叫び始める。


 誰も他の人の名前を口にはしなかった。


 自分だけは助かりたい、そういった感情が手に取るようにわかった。


 中には、「助けてくれ! なんでもするから」と私達に媚びをうって、機嫌をとろうとする者もいた。


 だから私は、それ以上は聞かなかった。


「悪かった」

「私達が間違っていた」

「だから助けてくれ」


 なんて謝られても今さらだ。


 心から反省しているならまだしも、謝罪はうわべだけ。


 そんな彼らを、船に乗せる事はできなかった。


 だから、私達は彼らに別れを告げて船を飛ばすことにしたのだ。


 終わる世界に置いていかれることになった人々は、信じられないという顔でこちらに物をなげつけたり、罵声をあびせたりしてきた。


 やがて世界と共に彼らは運命を共にした。

 いや、世界の終わりをまたずに死滅した。


 どうせ死ぬのならと、自棄を起こして我儘をつくした彼らは仲間割れを起こしたからだ。





 一方箱舟に乗ったフィア達は、新たな世界にたどり着いた。


 フィアが新しい生活でのルールを決め、ザックスが力仕事で必要な物をつくり、ユニオンが知識を役立て、ユフィが明るい心で皆の心をやわらげた。


 彼らはそこから新しい人類の歴史を初めて、長い平和な時代を築いたのだった。

 



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目ざわりだから、使えないからと貶めて断罪していましたよね。今さら助けろと言われても、救えません。 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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