第三章
第112話 プロローグ
冬が終わり、暖かい季節になった。変わったことは特にない。平穏な日々が続いていた。毎日どこかしらに--大体シリルと二人で--派遣され、問題を解決して帰る。その繰り返しだった。それなりに忙しく、休みが取れないまま過ごしていたが、リディはかえって助かっていた。なぜなら家にいたくないからだ。
「リディ、準備できた?」
「おー」
シリルの呼びかけに答えて、シリルのもとへ移動した。今日の警護はシリルとペアになっている。というか、シリルとペアじゃないことの方が珍しいのだが。
「ギルバート様に会うの久しぶりだね」
「確かに」
リディたちも忙しかったし、ギルバートに会うのは数ヶ月ぶりだ。時間もあるので、ギルバートの部屋へは歩いていくことにした。城の中はどこもかしこも色めき立っていた。侍女や政務官たちが慌ただしく行き交っている。城下や、他の地方都市も祭りのように賑わい、誰もが浮かれているらしい。当然と言えば当然だ。なにしろ今日は特別な日だ。この国の王室に、王妃が迎えられるのだから。
ギルバートの部屋に着き、シリルは扉をノックした。すぐにテオドアが出てくる。今まで見た中で一番の正装をしていた。
「おはようございます。今日の流れを説明します」
テオドアは二人を部屋に招き入れながら言う。ギルバートは奥の部屋にいるようで、入ってすぐの部屋にはいなかった。テオドアはリディとシリルに一日の予定をつらつらと話し始めた。まず結婚式が行われる。そのあと、儀式やら何やらが行われ、それが済んだら、国民へのお披露目。そして、夜には夜会が開かれる。王弟であるギルバートは全ての行事に出席するらしく、それを警護するリディたちも全ての行事に張り付くことになる。なかなか忙しい日になりそうだ。普段ならため息をついていたところだろうが、今のリディにとっては好都合だった。
「ギルバート様、そろそろ」
二人に説明し終えたテオドアは、奥の部屋に向かって言った。すると、奥からこれまた一番の正装をしたギルバートが出てきた。
「久しぶりだな」
ギルバートはリディとシリルに言った。シリルはほんの少しだけ嬉しそうに微笑んだ。
「お久しぶりです」
シリルは軽く頭を下げる。ギルバートはテオドアにマントをかけられながら続けた。
「元気だったか?」
「はい」
ギルバートは満足そうに頷くと、リディの方を見た。
「リディも元気そうだな」
「ええ、まあ」
「夜会はどうするんだ?」
「どうする、とは?」
「家族と出席するのか?」
「いえ、私は仕事がありますので」
「別にいいですよ。ノアとオーラも、シリルもいますし」
テオドアが口を挟むが、リディは首を振る。
「いや、仕事の方がマシです」
「それが本心か」
ギルバートは少し笑った。久しぶりに見るギルバートは思いの外元気そうで、機嫌も良さそうだった。デスクワークのせいでやつれているかとばかり思っていたが、デスクワークにも慣れたのだろうか。
「では、参りましょうか」
テオドアに促され、リディは移動魔法を使う。
めでたい一日が始まった。
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