第105話 王族会議
リディの返事を待たず、リクハルドは移動魔法を使った。リディとセラフィーナもその魔法で移動させられた。到着した先は、大きな円卓のある部屋だった。円卓を囲んで座っている面々を見て、リディは引き攣った笑みを浮かべた。
末席から、空席、第四王女キエロ、知らないエルフの女、空席、第一王女アネルマ、空席、そしてエルフの王。
「さあ、座って」
セラフィーナは末席にリディを座らせると、アネルマの次の空席に座り、リクハルドはエルフの王の次の空席に座った。
「リディ、はじめまして。第三王女のユリアだ」
知らないエルフの女が言った。リディは軽く頭を下げた。このメンツから予想はしていたが、やはり第三王女だった。そして、リディはなぜか王族が集まる場に出席させられている。
「ウィデリアンドの魔法使い二人の魂は無事戻りました」
リクハルドはエルフの王に報告する。エルフの王は静かに頷き、リディを見据えた。
「リディ、君はリューディアに対する手段の一つとなった。人間界で生きることを望むのであれば、それで良い。しかし、有事の際には力を貸してもらいたい。全ては、この世界のために」
エルフの王は静かに、重々しい声で言った。突然、世界だのなんだのと言われても実感は湧かないが、それが自分の身を守ることに繋がるのであればなんだっていい。
「分かりました」
リディはエルフの王に軽く頭を下げた。話はこれで終わりかと、様子を窺っていると、リクハルドが口を開く。
「さて、これだけ意のままにリューディア殿の魂を扱えるということは、セルヴェ家にかけられた呪いも解けるだろう」
リクハルドはリディに向かって言う。リディは目だけ動かして、全員の表情を窺った。どうやら、オーラの呪いを解き、ライネとヨニにかけられた魔法を解くのが、リディがリューディアの魂をどの程度扱えるかのテストだったらしい。そして、リディはそのテストに合格した、といったところだろうか。
「しかし、リクハルド、大丈夫なのか?リューディアが呪いのためにセルヴェ家に縛りつけた自らの魂を解放することにはならんのか?」
ユリアが身を乗り出して言う。
「もしそうだったとしたら、リューディア殿は真っ先に呪いを解きに行っていたでしょう。今は自らの身を安定させる方が、セルヴェ家を破滅させるよりも重要でしょうから」
「それもそうか」
リクハルドの答えを受けて、ユリアは背もたれに身を預けた。
「キエロ、リディの行く末には何が見える?」
アネルマが尋ねると、キエロはゆっくりと首を横に振った。
「ぼんやりと霞んでしか見えません。未来が無数にあるのでしょう」
「やってみなくては分からんというわけか」
アネルマの言葉を最後に、誰も何も発言しないまま、時間が過ぎた。リディはどうでもいいから早く部屋に戻りたいと思っていた。静寂を破ったのはリクハルドだった。
「正直に言うと、セルヴェ家の呪いを解くことは、私たちにとってさほど重要ではない。逆に、不確定要素が増えるため、呪いはそのままにしてもらった方が助かる。しかし、君はセルヴェ家に帰れた方が良いだろう」
セルヴェ家に帰る。リディにはその言葉がしっくりこなかった。セルヴェ家など、リディにとっては他人も同じ。帰る場所ではない。リディはセルヴェ家のことは置いておいて、他の気になる点について質問した。
「不確定要素ってなんですか?」
「現在、セルヴェ家に縛りつけられているリューディア殿の半分の魂は、君が亡くなればセルヴェ家に戻る。しかし、呪いを解き、君がリューディア殿より先に亡くなった場合、どこへ行くか分からない。リューディア殿の元へ戻ることはないと思うが、消滅することもないだろう」
リクハルドが説明した。しかし、消滅しない魂がどこかへ行ってしまうと何が問題なのか、リディには分からなかった。
「清い魂は天へ帰るが、穢れた魂はそうはいかん。行く先のない魂は、亡霊となってこの世を彷徨うのじゃ。永遠にな。そして、それは悪霊と呼ばれる存在となる」
リディの表情から、理解していないことを察したらしいエルフの王は付け加えるように説明した。
「闇の力に手を染めたリューディア殿にとって、悪霊を自分の手の内に引き込むことは容易でしょうね」
キエロが言う。エルフの王は同意するように頷いた。
「では、私がセルヴェ家の呪いを解かない方が良いのではないでしょうか」
リディは言った。自分も別にセルヴェ家の呪いを解きたいわけではないし、エルフもその方が都合が良いのなら、それでいい。わざわざ危ない橋を渡る必要は無いように思えた。
「そうすれば、セルヴェ家に君のような被害者が産まれ続けるよ。私は呪いを解いた方が良いと思う」
アネルマははっきりと意見した。リディは自分自身を被害者だとは思っていないが、人によってはそう思うのも無理はないだろう。
リディはため息をついた。エルフたちは皆、リディを憐れみ、せめてリディの望む通りに事を進めようとしている。しかし、リディにとってはどうでも良いことだった。自分が憐れだと思ったことすらない。こうしろああしろと言われる方がマシだ。
全員、リディの答えを待ち、リディを見ていた。リディは何も答えることができないまま、エマのことを思い出していた。エマはリディがセルヴェ家の呪いを解き、一緒にセルヴェ家へ帰ることを望むだろう。
「この世界にとって、最善はなんですか?」
「君がセルヴェ家の呪いを解き、リューディア殿を始末してくれることだ」
「分かりました。尽力します」
リディはしっかりとした声で言った。世界がどうなろうとどうでもいいが、最大多数の幸せのために何かをするのであれば、誰にも文句は言えないだろう。面倒くさいことは全て世界のために片付ければいいのだ。
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