第81話 二人の容体
オリオル城から王宮に戻り、数日が経過した。エルフから寄越された情報はと言えば、リディとシリルを回収したということだけ。二人はエルフの国で治療を受けているようだが、容体などは教えてもらえない。アレクシスには、もっと詳しい情報が入ってきているのかもしれないが、ギルバートには入ってこない。
「ギル、いつまでボイコットを続ける気だい?」
テオドアは呆れ果てた声で言った。
「ボイコットじゃない。体調不良だ」
ギルバートは本から目を上げずに言う。王宮へ帰ってきてからというもの、ギルバートは自室から出ず、体調不良だと言い張って仕事もしなかった。何もかも嫌になったからだ。子どもじみた反抗だと思われてることは分かっている。しかし、ギルバートには我慢ならなかった。誰もが口を揃えて、ギルバートさえ無事なら良いと言うことにも、ギルバートに何も教えないことにも。
「そんなふうに不貞腐れていても、何も変わらないよ」
「体調不良だと言っているだろう」
「体調が悪いなら、ベッドで寝てなよ」
ギルバートはテオドアの言葉を無視して本を読み続けた。ノアは部屋の隅で、気配を消している。ギルバートは胸ぐらを掴み上げたとき以降、ノアの存在を完全に無視していた。いつの間にか眠らされ、王宮に戻っていたのだから、怒るのも当然の権利だとギルバートは思っている。
「エマには伝えたのか?」
「いや、まだ……」
「早く伝えてやれ」
「心配するだろうし
「お前が気まずいだけだろう」
「そんなことは……」
テオドアはギルバートから目を逸らした。
「いつまで避け続けるつもりだ?仕事にも支障が出るだろう」
「いや、研究員の管理はエーギルに任せてるし、仕事を放棄してる人間に言われたくないよ。ギルがいないせいで、支障が出まくってるんだからな」
そう言われてしまうと、ギルバートも何も言えなくなる。テオドアや兄たちはともかく、他の者に迷惑をかけるのは心苦しい。ギルバートは立ち上がると、服を着替え、数日ぶりに部屋を出た。
「俺は仕事をする。お前はエマにリディのことを知らせてこい」
「え」
「命令だ。早く行け」
テオドアは苦い表情のまま消えた。ギルバートは執務室の方へ歩いた。後ろからは一定の間隔を空けてノアがついてくる。
「お前はいつまで俺についてまわる気だ?」
「期限は決まっておりません」
「オーラはどうなった?」
「まだ意識は戻っておりません」
どうせ何も言わないと思いながら尋ねたが、ノアは正直に答えた。
「そうか。リディとシリルは?」
「……シリルは順調に回復しています」
「リディは?」
「お答えできません」
「ライネとヨニは?」
「お二人は……ようやく治療の方針が定まってきたところです」
リディのことは何も分からなかったが、他の三人のことは、今まででは考えられないくらい情報が与えられた。
「いいのか?そんなにペラペラ話して」
「本当は言ってはいけないのですが、私も心配しておりますので、ギルバート様のお気持ちは分かります」
執務室に入ると、机の上には、書類が山積みになっていた。ギルバートはため息をつきながらも、仕事に取り掛かった。
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