第75話 聞き込み

 一行はオリオル城から南へしばらく行ったところにある小さな町へ移動した。町の中心には大聖堂があり、それを囲むように町は発展したようだ。


 大聖堂の前に立ち、リディは町を見渡した。大聖堂の周りには商店が立ち並んでいる。小さな町だが、住むには便利そうな町だ。十日ほど前、この町から十七歳の女の双子が行方をくらました。ギルバートとエルフ二人は、双子の家に向かい、リディとシリルは町の人間に聞き込みを開始した。


「器量のいい娘たちだったよ。もうすぐ学校を卒業するから、二人ともそれぞれ、魔術学校で知り合ったいいとこの坊ちゃんと結婚するはずだったんだ。家出なんて考えられないね」


「二人とも魔女として優秀だったみたいだよ。アダールの魔術学校に通ってて、首席だって聞いたよ」


「恨み?そんな娘じゃなかったよ。二人ともね。穏やかで気立のいい子たちだった。誰かの恨みを買うなんて、ありえないよ」


「失踪した日?見てないよ。誰もね。俺もあの二人の両親と一緒に二人を探したけど、あの日は誰も二人を見ていなかった。この町の人間全員な。二人の親は、朝二人を見たそうだが、気づいたらいなくなっていたらしい」


 この他にも何人かに話を聞いたが、みんな同じようなことを言った。


「美人で、性格も良くて、賢い。非の打ち所がない、か」

「そうだね。アダールで首席なら、かなり優秀だよ。学院にも入れるレベルだったかもしれない」

「そうなのか?」

「うん、各地方で一番大きい学校のトップ層は大体学院に入れるレベルだよ。王都まで出るつもりはない人が一定数いるからね。リディもそうでしょ」


 リディはぎくりとして、曖昧な返事をした。


「よし、もう一組の双子の方へ行こう」


 リディは学校の話が長引かないように言い、シリルと共に次の村へ向かった。


 もう一組の双子は、十五歳の男女の双子だ。男女の双子の村は、鉱山の麓にある小さな村だった。住民は少なく、全員が顔見知りのようで、聞き込みはスムーズだった。


「男女の双子だったけど、仲が良かったわよ。優秀でね、王都の学校に通ってて、普段は王都に住んでたのよ。休みに入って、戻ってたみたいなんだけど」


「家族と?いいえ。仲の良い家族だったわよ。父親は魔法医でね、二人は後を継ぎたいって」


「失踪した日は、誰も二人を見てないんだよ。会ったら挨拶をするから、忘れるはずがないんだけどね。本当に誰も二人を見てないんだ」


 全員、口を揃えて同じことを言った。


「こっちも家出ではないか」

「そもそも家を出てるんだから、家出なんかする必要ないよね」

「そうだよな」


 リディたちはオリオル城へ戻り、ギルバートの部屋へ向かった。ギルバートたちの方はすでに帰っており、ギルバートは物思いに窓の外を眺めていた。


「戻りました」

「どうだった?」


 ギルバートはゆっくりとリディたちの方を振り返り、尋ねる。リディはそれぞれの双子について聞いてきた話を伝えた。


「二組に共通するのは、魔術学校か」


 魔術学校に通う者の割合は、大体三割だ。簡易魔法は魔術学校に行かなくても試験さえ受ければ使うことができるため、魔術学校へ通うのは、魔法の専門家になる者だけ。地方では、魔術学校の数が少ないことから、魔術学校在籍者の割合は、もう少し少なくなるだろう。それなのに、失踪者は二組とも、魔術学校の学生。


「しかも、四人とも優秀だったようです」

「優秀と言うことは、魔力も強い、だろうな。魔力を強い者を攫うという話は聞いたことがある」


 ギルバートはノアとオーラを見ながら言った。エルフの二人は、軽く微笑むだけで、何も言わない。


「家庭内でも、問題はなかったそうだ。失踪する直前も変わった様子はなく、本当に突然消えたらしい。二組の両親とも、失踪した日はずっと家にいたそうだが、双子が家を出ていったのさえ気づかなかったと。どちらの家も小さな家だったがな」


 怪しい。怪しさしかない。これで家出だと言える奴はどうかしている。リディは東部の治安が心配になった。


「とにかく、今日はこれまでだ。食事にしよう」


 ギルバートは立ち上がると消えた。食堂へ行ったのだろう。なんの合図もなかったのに、エルフの二人もギルバートとほぼ同時に消えたので、リディは二人のことを少し不憫に感じた。ギルバートに振り回されすぎて、注意深く観察しているうちに、ついに行動を読めるようになったのだろう。残されたリディとシリルも食堂へ移動した。




「夜になりましたよ」


 夕食を食べながらシリルはぽつりと言った。ギルバートはぎくりとした顔でシリルの方を見た。


「ああ。夕食を終えたら行こう」


 シリルはこくりと頷くと、夕食に戻る。リディは居た堪れなさをワインを飲んで紛らわせた。


 夕食を終えると、ギルバートは死にそう顔で食堂を出て行った。シリルはギルバートの背中を目で追い、食堂の扉が閉められると、両手に持っていたナイフとフォークを置き、リディの方を見た。


「ちゃんとテオドアのところへ行くかな?」


 シリルは心配そうに言う。


「行くんじゃねえか?お前にあれだけ言われたら、行くしかねえだろ」


 リディは適当に返し、食事を続けた。ギルバートと同じ食事が出たので、残さず食べなければならなかった。こんなに良い食事は滅多に食べられないのだから。


「リディも、エマと早く仲直りした方がいいよ」


 リディはどきりとして、手が止まった。シリルの視線が痛く、手に持ったフォークの先を見ることしかできなかった。


「……帰ったらするよ」


 シリルは満足そうに頷くと、食堂を出て行った。リディは天井を見上げてため息をついた。エマと仲直りするって言っても、エマが話を聞いてくれなかったらそれまでだ。リディにはギルバートの気持ちがよく分かった。しかし、ギルバートとテオドアはいくら仲が良いと言っても、兄弟じゃない。血の繋がった姉妹であるリディとエマとは違う。家族だから難しいこともあるのだ。


「私は、何があっても、エマの妹なのになあ」


 リディはため息混じりに言った。

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