第二章
第54話 プロローグ
黒いマントに、黒いワンピース。鏡に映るリディは真っ黒だった。
「あら、制服似合うわね」
リディはげんなりした顔でエマを見た。学生でもないのに、制服が似合ったって嬉しくないし、そもそも学校になど行きたくて行くわけでもない。
数日前、テオドアに呼び出され派遣棟の大部屋へ向かった。大部屋には、リディと同じく、テオドアに呼び出された者が十人ほど、部屋の隅に集まっていた。全員若く、学生か卒業したばかりくらいの者だった。
「揃っていますね」
突然現れたテオドアは、ずっとそこにいたかのように話し始めた。
「皆さんには、明日からしばらく、魔術学校へ潜入していただきます。二人ペアで、それぞれ別の学校へ派遣します。ペアと任務先を発表します」
テオドアはつらつらとペアと任務先の学校名を読み上げていく。他の派遣員など知らないリディは、誰が誰だか全く分からなかった。知らない奴複数人ならまだしも、二人で任務に行くなんて嫌だなと思っていると、テオドアと目が合った。
「リディ、シリル、バーブルシェード学院魔術科」
ペアとなる人物が知った名前で安心すると共に、シリルも来ているのかと周りを見た。そして、リディとは反対の方にシリルが立っているのを見つけた。
「任務内容について説明します。最近、怪しい宗教が北西部の学生の間で流行っているそうです。信仰すれば最高の栄誉が与えられるとかなんとか。団体の実態を把握したいので、第一目標は、団体関係者への接触とします。かなり用心深いようで、今のところなんの手がかりも掴めていません。皆さんも十分に注意をして行動してください」
つらつらと説明を続け、質問がなければ解散とテオドアが言うと、全員、自分のペアの方へ動いた。リディもシリルの方へ向かった。
「よろしく」
リディに気づいたシリルが言う。リディもおうむ返しによろしくと言い、二人で話していると、すぐにテオドアが近づいてきた。
「本当はこれくらいの任務に上級、それも五つ星を使いたくはないのですが、中級二つ星以上で年齢的に無理がない者となると、人手が足りず」
ため息をつきながら言う。テオドアの言葉に、シリルは首を捻った。
「ただの調査なのに、中級二つ星以上?」
「それだけ厄介な相手ということです。地方管理局が、調査員を派遣したところ、全員不審死を遂げました。管理局では手に負えず、こちらに回ってきたというわけです」
「そうですか」
「そういうわけですので、慎重に行動してくださいね」
テオドアはいつもの笑顔を貼り付けたまま言うと、どこかへ消えた。
そして、昨日の帰り際に渡されたのがこの制服だった。葬式のように黒々していて好きにはなれない。
「早くしないと遅れるわよ」
エマに急かされ、リディは研究所へ移動した。
水盆の間から学校のある街の近くにある池へ移動し、街まで歩いた。学生は当然、資格を持っていないため、学校の外で魔法は使えない。池から街まで毎日徒歩で通うと思うと気が滅入りそうだった。
「今日は入学式に出て、時間割決めるだけだよ」
「へえ。よく分からんから、任せる」
現役学生であるシリルは、本業の方の学校はもう授業がほとんどなく、あとは卒業課題をこなすだけという段階にいるらしい。飛び級で卒業できるなんてすごいとダリオが言っていた。
街に入り、町の中心にある建物へ向かった。正門に立ち、リディは長く息を吐いた。普段あまり歩かないリディにとって、三十分ほど歩くのは、なかなかにくたびれる運動だったのだ。
「やっと着いた……」
目の前にある学校は、ギルバートの視察で行った魔術学校より、大きい学校だった。しかし、魔術科以外の学科もある総合学院のため、魔術学校としての規模は視察で行った学校の方が大きいらしい。
「魔術科は向こうの門だよ」
シリルと共に門をくぐろうとしたら、後ろから声がかかった。振り返ると、リディたちと同じように、真っ黒な制服に身を包んだ真面目そうな青年が立っていた。
「そうか、ありがとう」
青年は軽く返事をすると、早足で魔術科の門の方へ行ってしまった。愛想のない奴だと、普通の人なら思うかもしれない。しかし、愛想のないリディとシリルにとっては、普通の行動だった。
魔術科の門をくぐると、一面真っ黒だった。真っ黒の制服に身を包んだ学生が、入学式の会場となる講堂へ入るため列を作っていたのだ。
「結構多いな」
「そうかな?全校生でこれだけなら、少ない方だと思うよ」
「全校生?新入生だけじゃねえの?」
「うん、他の学年の始業式も兼ねてるんだよ」
「へえ」
講堂は大きなステンドグラスから、色とりどりの光が注がれていた。学生たちは、長椅子に座っていく。リディとシリルも、人の流れに従い、長椅子に座った。学生が全員着席すると、式典は始まった。
学科長の挨拶から始まり、聖歌隊の合唱やら、なんやらが続き、入学式は終わった。入学式が終わると、シリルと共に時間割を登録しにいき、その日のスケジュールは全て終え、城に戻った。
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