第53話 エピローグ

 ギルバート暗殺未遂事件から数日後、エルフの一団は国へ帰っていった。見送りにリディは呼ばれなかったため、いつ帰ったのかは知らないが、予定通り出立したらしい。


 そして、その数日後、いつも通りエマの研究室に入り浸っていた。ギルバート付きの護衛を解任されてからというもの、新たな仕事は来ず、相変わらず暇な日々を送っていた。仕事をせずに給金を貰えるのであれば、それに越したことはないと思いつつ、リディは働きたくて仕方がなかった。


(自分がこれほど働き者だったとは知らなかった)


 毎日エマの仕事を手伝ってはいたが、違う。何かしたい。植物の世話以外の何かをしたい。ちゃんとした魔法を使わないと、感覚が鈍りそうで怖いし、こんなに平穏な日々を過ごしていたら、平和ボケしてしまう。


「そういえば、最近、シリル見ねえけど、あいつ何してんの?」

「なんかの任務で、忙しそうよ。学校もあるのに大変よね」


 シリルには仕事があって、なぜリディにはないのか。上級魔法使いは大忙しと聞いていたが、あの話はなんだったのか。


「あー、仕事したい」

「それはちょうどよかったです」


 突然テオドアの声が頭の中に響き、机に突っ伏していたリディは勢いよく起き上がった。


「お仕事の依頼ですよ。ギルバート様の執務室までお越しください」


 リディは自分がどれほど天邪鬼な性格なのか実感した。呼ばれたら呼ばれたで、行きたくない。仕事などせずに、エマの研究室でのんびり過ごしたい。そう思いつつも、立ち上がる。


「あら、どこかへ行くの?」

「テオドアに呼ばれた。行ってくる」

「いってらっしゃい。気をつけてね」


 エマにそう言って見送られるのを、懐かしく感じた。リディは軽く手を振って、ギルバートの執務室へ移動した。


「来たか」


 ギルバートは偉そうに言うと、仕事の手を止めた。


「魔法生物退治だ。一人でいいだろう」

「余裕です」


 リディはテオドアに詳細を聞くと、すぐに出発した。一人の仕事は久しぶりだ。さっさと終わらせて、エマの飯を食べに帰ろう。

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