第38話 ひと段落

 前国王が部屋を出てから少しすると、侍女が夕食を運んできた。テーブルに並べられた夕食は、前国王の計らいで三人分用意されていたため、リディとシリルはありがたくいただくことにした。テオドアは食欲が無いと言って、食べなかった。


「やっぱ、いいもん食ってんなー」

「おいしかった」


 食事を終えると、リディとシリルは言い合った。テオドアは室内を落ち着きなく歩き回っていた。


 その後、リディはギルバートの姿をしたシリルとカードで遊びはじめた。美味しい夕食を食べ、美味しい酒でほろ酔い、無駄に座り心地の良いソファに座って、呑気にカードで遊んでいると、リディの気分は良くなってきていた。


 ダリオとシリルそっくりに化けたギルバートが帰ってきたのは、二時間ほど経ったときのことだった。


「楽しそうだなあ」


 ダリオは部屋に入るなり言った。もうこの頃になると、テオドアも自棄になったのか、リディたちのカードゲームに参加していた。


「ギル!」


 テオドアは自分の持ち札を机の上に放り、シリルそっくりのギルバートの方へズンズンと歩いていった。


「何を考えてるんだ!やっと視察が認められたところだぞ!?また執務室に閉じ込められてもいいのか?」

「悪かった」


 悪いとは微塵も思っていないだろう口調でギルバートは言った。そして変身を解き、元の姿に戻る。リディは本物のギルバートと隣にいるギルバート風のシリルを見比べた。この試行錯誤を重ねた結果出来上がったギルバート風シリルでも何か違う気がするし、最初に変身させた姿は全くの別人だったことが分かった。


「まあまあテオドア殿、落ち着いて。今回は大目にに見てやってくださいよ」

「いつも大目に見てますよ。まったく。森の中くらいなら、ユリウス様もお許しくださるはずです。今後は勝手に出て行くことなどないようになさってください」

「分かった。それで、そのシリルはリディがやったのか?」

「そうですが」

「なかなか上手いじゃないか。シリル、そのまま俺の代わりに王太子をしてくれていいぞ」

「嫌です」


 シリルは即答する。ダリオはシリルの顔を覗き込み、笑った。


「よく見たら全然違いますよ。これで代わりは無理でしょう」

「それでも大分修正したんですよ。リディの記憶がいい加減すぎて」


 テオドアはため息をつきながら言い、シリルも同意するように頷いた。


「うるせえな。記憶を頼りに、実在の人物そっくりにするのは難しいんだよ」


 ギルバートは少し笑った。嫌味な笑みではなく、普通に。ギルバートが笑っているのを見るのは初めてだったので、リディは驚いた。テオドアの言う通り、ギルバートの機嫌は良いのかもしれないとリディは思った。

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