第30話 専任護衛
定刻に研究所へ到着すると、テオドアが立っていた。久しぶりに見る胡散臭い笑顔がうっおとしい。
「テオドア様!」
エマは嬉しそうにテオドアへ駆け寄った。リディはその後をゆっくり追う。
「お久しぶりです」
テオドアは崩れぬ微笑でエマに応えた。
「お元気そうで安心しました」
「ご心配をおかけしました。毎日見舞ってくださっていたようで、ありがとうございます」
「いえ、私のせいでしたし」
エマは頬を赤く染めた。テオドア相手に何を恥ずかしがっているのか。
「先に行くぞ」
リディはテオドアに用などないため、研究所へ入ろうとした。
「お待ちください。私はリディを呼びに来たのですよ」
「残念だが、私は王子に近づくなと言われてる」
「陛下がお呼びです」
リディは軽く眩暈がした。国王の用件など、一つしか考えられない。永遠に来なければいいと思っていた瞬間が、こんなにも早く訪れようとしている。
テオドアはエマに別れを告げると、リディを連れて移動魔法を使った。到着した先は、マティアスの執務室だった。マティアスのほかに、タラスとギルバートもいる。リディは一刻も早く研究所へ帰りたかった。いつもなら、エマの研究室でコーヒーを飲んでいる時間だ。
「リディ、君をギル専任の護衛に任命する」
「……ご冗談を」
声が震えた。想定より悪い。専任?意味がわからない。リディは嘘であってくれと祈った。
「冗談なわけがないだろう」
「任期は」
リディは最後の望みに全てを賭けた。一時的なものであってくれ。数日間とか数時間とか。
「無期限で」
最後の祈りも届かなかった。リディは笑うしかなかった。
その後、どのようにマティアスの執務室を出て、ギルバートの執務室へ辿り着いたのかは覚えていない。先のことを考えると、なかなか楽しい気分にはなれなかった。
「なんなんだよ専任の護衛って」
「そのままですよ」
テオドアは言う。ギルバートは何も言わずに仕事をしていた。
「まあ、四六時中付き添う必要はありません。私もいますので。城を出るときくらいでいいです」
「あ、そうなのか」
どれくらいの頻度で城を出るのかは知らないが、そんなにほいほいと外出できる身分でもないだろう。思っていたよりも面倒じゃないかもしれない。ギルバートが何かをしでかしそうになったとき、止めるのはテオドアだろうし、リディは危険が迫ったとき何かするくらいでいいのではないか。
確かに楽そうな仕事だが……
「専任ってことは、他の仕事はできないのか?」
「そうですね」
腕が鈍る。すでに鈍っている気もするが。
「暇なら誰かの研究を手伝ってください。研究員たちはいつでも忙しそうにしてますからね」
「はいはい。では、エマの研究室にいますので」
リディはそう言い残し、エマの研究室へ移動した。
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