第24話 解任

 マティアスの執務室へ着くと、リディだけを置いて、リディを連れて来た男二人は部屋を出て行った。


 室内には、リディとマティアス、それに、リディが知らない初老の男が一人、マティアスの脇に控えている。マティアスは仕事を中断し、リディの方を見た。


「呼び立てて悪いね」

「いえ」

「こちらタラスだ。父の補佐官だったのだが、相談役として、こちらに残ってもらっている」


 マティアスは、自分の脇に控えている男を示しながら言った。タラスが軽く頭を下げたので、リディも同じようにした。


「さて、あまり時間もないから本題に入ろう。弟の件だ」


 そうだろうとは思っていたので驚きはしない。大方、先程の外出がバレたのだろう。


「あれには本当に手を焼いているんだ」

「そうでしょうね」


 リディがつい言ってしまうと、マティアスは笑った。


「昨日、城外への外出を禁じられたにも関わらず、もうそれを破るとは大した度胸だよ」


 やはりバレている。しかし、リディには腑に落ちない点があった。


「バレたものは仕方がないので、誤魔化す気はありませんが、なぜバレたのでしょう?短時間で戻りましたし、ギルバート様のお部屋から移動魔法を使いました。あのお部屋は探知防止魔法が使われていますよね?魔法の使用はバレないと思うのですが」


 昨日の外出は、長時間だったし、水盆の間から出た。水盆の魔法は性質上、履歴が残るはずなので、バレたのも無理はない。しかし、先程は本当に二十分かからずに帰ってきた。部屋を空けていても、外出を疑われるほどの時間ではない。


「そんなこと、弟と仲の良い君に教えると思うのかな?」

「断じて仲が良いわけではありません」


 リディは食い気味に言い返した。誤りははっきりと訂正しなければならないのだ。むしろ振り回されて大変迷惑しておりますとも言いたかったが、やめておいた。


「なぜ知りたいかと言うと、ただの知的好奇心です。私が知っているどんな魔法を使っても、先程の外出を暴くことはできないので」


 リディは一息に言った。マティアスは感心した様子でリディを見ていた。


「なるほど。噂に聞いていた通り、君は優秀な魔女のようだ。でも、教えるわけにはいかない」

「左様ですか」

「まあ、そんなに大した仕掛けでもないのだが、それはさておき、理由はどうあれ、禁を破った弟には厳しくせねばならん。しばらく私の監視下に置くことにした。君は護衛一時解任だ」


 一時と言わず、永遠に解任してくれればいいのにとリディは思った。しかし、一時だけでも、このままずっと振り回され続けるより、遥かにマシである。


「この上なくありがたいお話で」

「正直だね。そんなに弟を邪険に扱わんでくれ。また君に頼みたい時には、私から連絡する。それまでは弟から呼び出されても応じないように」

「承知いたしました」


 マティアスからの連絡が永遠に来ないことを願うしかない。リディは願いが叶うまじないを探そうと思った。


「それにしても、弟は嫌われているようだね。どうしてそんなに邪険に扱うのかな?可愛らしくて良い子だろう。昔から女の子には人気がある」


 ギルバートが可愛らしいなんて、とんだ兄馬鹿だ。リディは苦笑いをした。王子という身分に惹かれる者も、あの美しい容姿に惹かれる者もそりゃあ大勢いるだろう。そんな大勢の中の誰かと代われるものなら代わってやりたい。


「嫌っているわけではありません。面倒事に巻き込まれるのが嫌なだけです」

「勘弁してやってくれ。弟は君のことが気に入っているらしい」

「どうだか。もう失礼しても?」

「ああ」


 リディは一礼して執務室を出た。

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