第10話

こうして俺達はイシュミナと出会った。彼女のお陰でゲスミーの悲劇は無事に回避された。サラが人を殺さなくて本当によかった。初日から全クラスメイトを消滅とか最悪だ。

その後、無事に授業が開始された。基礎的な内容でサラは終始退屈そうだった。カレンは熱心に教科書と共に配布されたノートに書き記している。

授業が終わると、次は体育で、最後は魔術格闘の訓練であった。


「ああ体育だりぃー」


「何故エリート魔術師の道が約束された我々に体育が必要なのだ」


「騎士学科の脳筋にだけ体育をやらせておけばいいのだ」


「肉体労働は下級な一般市民に任せておけばいいのよ。お礼に頬にキスでもしとけば上機嫌で帰るわよ。利用されてるとも知らずにね」


「チョニィーは相変わらず腹黒いな。実に素晴らしい」


「うるさい。黙ってオルガ」


「これでもお前を褒めてるんだぜ?」


「あらそう? そうは思えないけどありがとう。今度デートする?」


「それはいい。お前は面倒だ」


「やっぱり褒めてないでしょ!」


「体育を頑張ったらデートしてやってもいいぞ。あの新入生の女子2人に勝ったらな」


「本当に!? がんばるわ!」


他の生徒が嫌々体育を始める為に着替えを開始した。男子も女子も一緒にだ。


「ちょっと待てよ! 女子も一緒の部屋で着替えるのか?」


「ああ。見られるのが嫌なら魔法でも使うんだな」


「カレン、私の転移魔法でアルトくんの部屋に移動するわよ。アルトくん以外に見せてたまるもんですか。アルトくんまた後でね」


「ああ、また後で」


俺はサラとカレンが転移魔法で移動している間に着替えた。


「すげえ筋肉!」


「お前騎士学科の方がいいんじゃないか」


「いや、こいつの魔力量は相当ある。あの消費が激しく使えない事で有名な重力魔法を見事に使っているのだから」


「オルガそいつの肩を持つのか。所詮は攻撃手段を持たない重力魔法。どうなに凄くても先はないぜ。所詮はネタ魔法。あざ笑われて生きていくだけだぜ。悪い事は言わねえ。今からでも騎士学科に移動しな」


「俺は重力魔法に誇りを持っている。こんな便利な能力ほかに無いと思っている。特に体育にはな」


「重力魔法が便利? 使えないの間違いだろ。カス魔法が。希少と言う奴もいるが、レアではなく、不人気なだけだ。俺が例え使えてもすぐに魔法トレードに出すね」


「やめろ。カスキン。重力魔法は本当に適正を持つ奴が少ないんだ。地球という惑星から転移してきた奴に多い特有の魔法だと言う」


「またそのクソ雑魚の肩を持つのか? オルガ。そいつが特別だとでも言いたいのか? 珍しい訳でも希少なわけでもない。必要ないんだよ。マイナーな魔法なんてな! 人気がない魔法は不要!」


「それって、ゲームや漫画や映画の人気の話だろ。魔法と遊びは違う。人気が無かろうが、本人さえ強ければ問題ない。売上を上げる必要なんてない!」


「オルガ……このカスキン様を裏切るのか!? お前とはもう絶交だ!!」


カスキンは泣きながら教室を出ていった。なんだろう。早く体育を始めたい。さらとカレンはまだだろうか。


「よう。パシリいや、親友に絶交されちまったオルガだ。俺も戦闘には使えない鑑定魔法の使い手だから仲良くしてくれよな。攻撃手段は、相手の弱点を見抜いて、その弱点属性の攻撃をする。使える魔法の属性だけは多い。広く浅くになってどれも微妙な威力だがな」


「よろしくオルガ。俺はアルト。さっきはありがとう。少しスッとした。俺は重力魔法を世の中に認めさせるのが夢なんだ」


オルガは髪を上げていて、笑顔も爽やかだ。顔も整っている。目も切れ長で鋭く、パッチリ二重だ。背も高い。筋肉も中々。


「アルトくんただいま。動きやすい服装に着替えて来たよ」


「アルトちゃんただいま。転移魔法便利だね。お土産も買ってきた。アルトくんのお金で」


「えー!? 俺のお金で買ったのにお土産って言えるのだろうか?」


「いいじゃない。アルトくんは金持ちなんだから。体育前に栄養補給しましょう。あ、そこのあんたの分もあるわよ。アルトくんに2本あげるつもりだったから」


60センチはある大きな鳥の足をアイテムボックスから取り出すサラ。ダチョウの系の魔物の足だろうか。それをオルガにも配る。


「こりゃあ美味い。抜群の塩気じゃないか」


「アルトくん美味しいね。飢饉で食べ物が無かった時に、こんなに大きいお肉食べたかったね」


「ああ、そうだね。サラ。こんなに大きくて柔らかくて美味しいお肉が皆に配れていたなら飢饉で死者も出なかったのに。次の飢饉の時はサラの転移魔法で皆を飢えから救ってくれ。頼りにしてるよ」


「うん。任せて」


オルガは喜んで肉を食べている。俺達もむしゃむしゃ食べた。こんな大量の肉を食べるのは久しぶりだ。ジューシーで肉汁が溢れる。

飢饉の時にこの肉が食べれていたなら……飢饉の時のひもじさを思い出して、俺とサラは涙を流しながら猛烈な勢いで食べきっていた。


「おいおい。泣くほど美味かったのか。これが首都の味だ。今度オススメの店を教えてやるよ。行列を狙うのは確実だが、人気だけが全てじゃない。隠れた名店ってやつが存在するのさ。魔法の料理ってやつだ。成長を促進したりな」


「成長促進魔法面白いわね。アルトくん足出して。はあー!」


サラは俺の足に魔法を掛けた。足がボキボキビキビキ音をたてる。


「おい。アルトお前、身長が伸びてるぞ。足が長くなってる」


「うふふ。実験は成功ね。じゃ、今度は私の胸に」


「患部に直接成長促進魔法だと!? 本来は食材に使って料理を食べた者に影響を与えるのであって、ここまで効果が凄いものではないぞ。肉体に直接作用させるには膨大な魔力が必要だぞ。常人の何10倍、何100倍だよ。鑑定不可能だと!? 俺の鑑定魔法の限界より魔力量が高いと言うのか。さっきまでは鑑定出来ていたぞ」


驚愕するオルガにサラは余裕の笑顔でこう言った。


「私の魔力は常に成長を続けているのよ。授業中も魔力を練っていた。沢山の魔力で作った召喚物が誕生したわ。それで魔力量がまた増えたのね。3分あれば限界値が伸びるの。アルトくんの筋肉が成長する時間と同じね。私達はやはり運命の相手なのよ。私が魔力でアルトくんが筋肉を担当する」


「おーおーお熱い事で。とりあえず、お前らが化け物なのは理解した。沢山食べたし、その力を体育の授業で見せてもらおうか」


「それは私も見たいですわね」


「イシュミナ!? また来たのか。お前の授業はどうした」


「あら、オルガさん御機嫌よう。生活指導の参考にする為と言ったら抜けさせて下さいましたわよ」


こうして、俺達はオルガとイシュミナにその実力を見せる事になった。実は俺も授業中の数時間、重力を使って修行をしていた。足の長さも伸びた。校庭に到着し、俺はどれくらい早く走れるのかワクワクしていた。

通学の時も常に重力魔法を掛けていたので、普段の状態の時の速度を俺はまだ知らない。


「あー体育を開始する前に話がある。今日は徒競走だ。騎士学科と魔法学科で争ってもらう。もちろん、個人の記録もある。最も多く周回をした者には学園からボーナスとして10万ゴールド。これはまるでやる気がない魔術学科の奮起を促す為、校長先生からの提案によるものだ」


「うおー! マジか! 絶対個人成績1位取るぞ! 結果的に騎士学科の勝利に繋がるしな」


騎士学科の連中は大興奮している。こんな事でいいのだろうか。皆から集めた授業料を1部の優れた者に与えるなんて。

まあ、やる気が出るならいいか。今度、重力魔法で魔法学科の皆の筋肉トレーニングに付き合おう。そうでもしないと日頃から鍛えている騎士学科の生徒達には敵わないだろうから。

その指導をする為にも今日はぶっちぎりで勝たなくては。俺は久しぶりに重力魔法を解除した。

寝ている時間以外は重力魔法を使ったままにしていたので。総魔力量も相当上がっているのかも知れない。毎日が修行ではなく、常に修行しているのだ。

この状態に持ってくるまで苦労したな。ようやく1日中魔力を使い続けても魔力切れを起こさないようになれた。これからが俺の攻撃のターンだ。

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