第8話

駆け落ちの相談は終わった。流れも決まった。だが、俺は気になる点がある。この計画による死者の数が多すぎるのだ。

サラならば目標を達成出来るかも知れない。だが、無数の屍の上に立つことになる。気がついた時には魔女となり、人類の敵となっているかも知れない。いや、たぶん絶対そうなる。

俺は出来るだけ死者を出さない方法を考えなくてはならない。何故なら良い人間も殺してしまう事になるから。家族も恋人もいるだろう。断じて不幸な人を増やすような事もしたくない。そして、何より、サラに数々の呪いや怨念を受けてほしくない。


「はぁはぁ……待ってよアルトくん。走るの速すぎ」


「アルトちゃん私達は重力2倍なのに重力5倍のアルトちゃんの方が速いのは何で?」


「ごめん。ごめん考え事をしていたんだ。それじゃ、重力10倍にするよ」


重力10倍は流石に辛い。だが、いい感じの負荷だ。数分走るとすぐに慣れた。俺の体重が元々低いのもあるだろう。背丈はそれなりでも、まだガリガリの子供だ。

漫画のキャラとは違ってこの世界の成人男性の平均身長は150センチ程度。貴族は毎日いい物を沢山食べて育っている為、180センチがごろごろといる。俺の身長は最近測ってないが158センチ。サラの父親は153センチ。サラの母親は143センチ。サラは148センチ程度だ。カレンは145センチ程度だろうか。サラよりも少し低い。


「やあ、君達。凄い魔力量だね」


走っていると、馬車が俺達を追い抜きざまに窓が開いて金髪が綺麗な男が俺達に話しかけて来た。


「それほどでも」


「いや、謙遜はいいよ。重力魔法を使い続けて走るなんて化物以外の何物でもないよ。通常の属性の10倍魔力を消費するのに」


「10倍ですか。道理で消耗が激しい筈だ。毎日5時間はトレーニングしたいのに3時間で魔力切れです」


「重力魔法を掛け続けて3時間も!? 推定魔力量は60万くらいかな」


「魔力量は毎日使い切って限界値を上げてるのですが、60万って多い方なんですか?」


「多いなんてもんじゃない。魔法騎士学校のエリートでも6万がせいぜいだよ」


「ほう。話は変わりますが、時魔法の魔力消費量は通常の何倍ですか」


「時魔法は存在するなら、文献によれば100倍だね。75年前に日本という異世界から来た勇者が時魔法の使い手だったとか。名前は確かトキトウムラサメだったかな」


「時東村雨!? それ私のおじいちゃん!」


「何だって!? それは凄い。君は勇者の血縁だったのか。我が王家も多大なお世話になったものさ。いや、この国を建てたのも勇者ムラサメだと言っていい。彼が王になるのを嫌がったので私の父が代わりに王になっただけなのだから」


「え、と言う事は王子様ですか!?」


サラが驚いて大きな声で質問した。謎の超絶イケメンの男は笑顔で答えた。


「申し遅れたね。私はこの国の王の次男のダリウス。以後お見知り置きを。強き者と勇者の血族よ」


「俺はアルトです」


「その妻になる予定のサラです」


「その前に奪い取る予定のカレンです」


「あはは、君達は面白い関係だね。気に入ったよ。これからは君達の友人として近くでその恋愛の行方を見守っていいかい?」


「も、もちろんですとも」


「カレンちゃん約束はどうしたのかな? でも、勝つのは私よ」


「つい本音が。油断させて寝とる予定が台無し。私が勝つもん」


「え、カレンちゃん意外と抜け目なくて腹黒い感じなの?」


「私子供だからサラちゃんが何を言ってるかわからなーい」


「絶対嘘だね! 焦がすわよ!」


「燃やさないんだ?」


「だってサラちゃんは親友だもの」


「親友というのは本気だったのね。意外と可愛いじゃない」


「私の言葉は常に本気よ!」


「あはは。君達は本当に面白い。観察し甲斐があるよ。これから毎日退屈せずに済みそうだ」


こうして、俺達は国王の息子ダリウスと友達になってしまった。だが、この出会いは使える。彼が俺達の駆け落ち計画に参加してくれたのなら、彼に従う兵がこちらの味方となる。クーデターという形になれば、死者の数は10分の1以下となり、サラは魔女にはならず、英雄にだってなれるかも知れない。

クーデターの大義は奴隷の解放。理由としては十分だろう。長男のクソダミヤと物凄く仲が悪いと言うし。このままでは王になる事は出来ない。様々な女性を孕ませていて、性格も最悪と噂されるクソダミヤが生きている限り。

クソダミヤが後を継ぐのが嫌で俺もサラの壮大過ぎる計画に乗ったのもある。クソダミヤの死後、300人を超える息子や娘達の血みどろの争いが起こるだろう。クソダミヤはこの国を腐らせるのは明らかだった。

誠実で礼儀正しく穏やかで優しいダリウス様が後を継いでくれたのなら、この国は素晴らしい国になる事だろう。


「さあ、学校に着いたよ。朝から修行お疲れ様。授業中に寝ちゃいけないよ」


「はい!」


「寝るかも」


「私も」


こうして俺達は魔法騎士学校編入の日を迎えた。まあ、試験に受かるかわからなかったが、3人共に軽々と合格した。魔力量が規定の6000の100倍以上だったのだ。俺が62万。サラが68万。

予想外だったのが、魔力不足だと思っていたカレンの魔力量が、俺達より3倍以上も多かった事だ。その量は何と180万。化物どころか女神だと言っていいレベルだ。幼い頃から毎日瞑想して高めた魔力量をあっさり超されていた。流石は勇者の血族。カレンちゃんは勇者なのかも知れない。

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