第4話

 朝起きて、俺とカレンは首都アルマに向かう事にした。今はサラが来るのを待っている。

 昨日の夜は激しかった。腰が痛い。カレンも全身をびくびくさせて失神ししてしまった。


「昨日はよく寝れた?」


「ううん。ひとりじゃ寂しくてなんだか寝れなかった」


「じゃさ、今日から一緒に寝ようか」


「いいの? うん! うん!」


 何故かカレンは大いに喜んだ。サラみたいに寂しがりなんだな。という俺も重力魔法の使い方を色々考えて中々眠れなかった。疲れていたのに。

 何故疲れていたかと言うと、昨日の夕食後、重力魔法で修行していたのだ。カレンも一緒にやりたいと言うので、重力のフィールドを展開した。3メートルの空間の重力が重くなった。その修行でカレンは力尽きて全身を痙攣させて倒れたのだ。

 俺はその後でも父が残した剣で素振りを続けた。カレンは少し離れた場所に座りながら俺を応援していた。


「ねえ、アルトちゃん。カレンね、昨日の夜に寝れなかったから重力魔法を攻撃に使う方法考えたんだ」


「何それ、聞きたい。凄く聞きたい」


 カレンは得意気な顔をした。これは期待出来そうだ。俺が必死に考えても答えが見つからなかったのに。


「うんとね、大きな岩を軽くして悪い人に投げてね、そして解除してズドーンぐしゃー!って潰すの」


「それは凄い。重力を軽くする発想は無かった」


「えへへ。アルトちゃんの役に立てて良かった」


「うん。凄いよカレンちゃん」


 俺はカレンを抱きしめてぐるぐると回転した。修行の成果が全く重くない。


「きゃー目が回るー! でも楽しー」


 カレンは大喜びだ。所詮は子供だな。俺も子供だけど。


「何を騒いでるのかな? 楽しそうだね。カレンちゃん昨日の約束を忘れたのかな? そうなのかな?」


 おっとサラが来たようだ。カレンから花が咲いたような笑顔が消えた。


「サラおはよう。凄いんだ。カレンちゃんが重力魔法を攻撃に使う方法を思い付いたんだ。それと重力フィールドも覚えた。昨日ふたりで修行する為に」


「ふーん、そうなんだ。重力フィールドは使えそうね。無数の矢を叩き落としたり、複数の兵士を行動不能にしたり」


「流石天才のサラ。俺に思い付かない応用方法を瞬時に考えるなんて」


「なら私にもやってよ。その抱きしめてグルグル回るやつ」


「うん。いいよ。おいでサラ」


 俺はサラを抱きしめてグルグルと回った。サラはとても喜んでる。


「人力のメリーゴーランド楽しい。きゃーきゃーもっと早く回って」


 サラも天才だけどやはり子供か。無邪気に遊んでいる。凄くいい笑顔だ。


「そろそろ行こうか。首都アルマに」


「え? アルマに行くの? 丁度いいわ。私も用事があったんだ」


 こうして、俺とサラとカレンはアルマに向かって歩き出した。


「アルトくん歩くの遅くない?」


「ん、修行の為に自分に重力魔法を掛け続けて歩いてるからね」


「私も修行する」


 カレンも修行に参加したので、サラだけが遠くに行ってしまった。


「仕方ないわね。私もその修行すればいいんでしょ? 嫌だな辛いのは。私は大魔法使いになるの。筋力なんて必要ないのに」


 重力の範囲を広くして俺達はゆっくりと歩いて行く。町の広場にやってきた時、何かが高速で飛んできた。避けられない。するとその何かは地面にゴトンと叩きつけられた。それは大きな石だった。

 重力フィールドを展開していて助かった。的中していたら大怪我だ。


「誰よ。石を投げたの! 何するのよ! 危ないわね! 燃やすわよ!」


 突然の投石にサラが激怒した。その相手は俺をいつもバカにしてくるギームだった。


「親無しアルト俺様の土魔法を食らえ! ストーンバレット!」


 覚えたての魔法を俺に使ってきた。無数の石が高速で飛んでくる。だが、その石は全て重力フィールドが防いだ。当たる直前で全て地面に叩きつけられた。


「クソ! 何で当たらないんだ! 魔力が尽きた。もう撃てない。今日は勘弁してやるよ。覚えてろ。親無しアルト! 女と遊ぶ恥ずかしい奴め!」


 ギームは逃げるように去って行った。魔法を覚えて奴の凶悪さが増したな。俺の重力フィールドが無かったら全員大怪我だ。


「何なのあいつ死ねばいいのに。今度燃やそうかな。証拠が残らないように骨まで」


 サラはこめかみに青筋を立てて完全にぶち切れている。カレンは悲しそうな顔をしている。


「アルトちゃんお父さんとお母さんいないの?」


「うん。そうなんだ。だから家も部屋が余って広いんだ。気兼ねなく住んでいいよ」


「これからは私が家族になるね」


「良かったね。アルトくん可愛い妹が出来て」


「妹じゃないもん!」


「ならお姉ちゃんね」


「お姉ちゃんでもないよ!」


「なら何なのよ」


「お母さん!」


「カレンちゃん? 昨日の約束もう忘れちゃったのかな? 親友の私を裏切るのかな? どうなるかわかってるのかな?」


「じゃ、妹……にする」


「わかってるならいいの」


 何だろう。サラから殺気が出ていたような。ギームに対する殺気が残っていたようだ。こうして俺達は村を出て、修行しながらアルマの町を目指して歩き続けた。

 サラとカレンは相当疲れているようだ。俺は重力に慣れてきて足が軽くなったというのに。


「ふたりは重力フィールド解除するね。お疲れ様。よく頑張ったね」


「いえ、カレンちゃんがやめるまで私はやめない」


「私もサラちゃんがやめるまで絶対やめない」


「おいおい張り合うなよ。ふたりとも倒れるぞ。重力フィールド解除!」


 重力を解除するとサラとカレンは地面にへばりついて腰を下ろした。


「アルトちゃんは凄いね。何で疲れないの?」


「ん、昨日の修行でもう慣れた」


「アルトくんは身体能力に恵まれてるのかもね。確かに昨日より腕の筋肉が発達している。これは将来騎士団に入るべきね。そうすれば私の入る宮廷魔術師と身分は同等。重力フィールドで戦争の時に軍の勝利に貢献できる。アルトくんそうなったら結婚しようね!

ね! ね! ね! ね? アルトくん?」


 俺はサラの言葉に答えなかった。サラは顔を近づけて何度も答えを迫ってくる。凄い迫力だ。


「俺は身分には興味ないよ。俺は冒険者になる。お父さんやお母さんのようにドラゴンを倒して回るんだ。父さんと母さんが入っていたギルドの皆ともそう約束をしてる」


「冒険者なんかが、宮廷魔術師と釣り合うと思ってるの? 国家権力だよ。将来は国の中枢に行けるんだよ。冒険者よりも騎士だよ。今から騎士見習いになりなよアルトくん。君はそうなるべき」


「いくら天才の意見でもそれは聞けないな」


「何よ! このわからず屋!」


 俺達の言い争っている姿を見てカレンはおろおろしている。周囲には巨大な魔力がぶつかり合ってバチバチと小さな稲妻が出ている。


「おいおい。なんて魔力だよ。それでも子供か? 大人になる前にプチっと潰しておくか」


 そこに魔族がやって来た。俺達の魔力の激突が呼び寄せてしまったのだ。圧倒的な戦力差を感じた。


「何よあんた。燃やすわよ」


 サラは全く臆する事なく凄む。魔族が怖くないと言うのか?


「やってみろよ。チビッ子」


「ふん。余裕こいてられるのも今の内よ! 炎と風の合成魔法。炎竜巻。地獄の炎で燃え尽きろ!」


 竜巻に強烈な火炎が合わさって物凄い火力だ。ここが平原でなく森林だったら大火災だ。


「おいおい、こりゃマジで驚いた。俺でなければ今ので燃え尽きてたな。骨も残らず」


「何故今ので生きている!? 私の最大の魔法で! こうなれば慣れていないけど光魔法を使うわ!」


 光の速度の光の矢が魔族を襲う。光魔法は全ての魔法の中でも最速だ。それが寸前で回避される。魔族は相当速い。このまま攻撃を続けていてはサラの魔力が尽きてしまう。


「サラ援護する! 食らえ! 重力魔法グラビトン!」


「ぐぐ……体が重い!? 避けきれない!」


 光の矢が動きが止まった魔族に命中した。体を貫通し、かなりのダメージを与えたようだ。魔族は口から血を吐いた。


「殺してやる。お前達は危険だ。その果実が実りきる前にすり潰す!」


 魔族は膨大な魔力を溜めた。空気がビリビリと震えている。


「させるか!」


 サラは無数の光の剣を飛ばした。だが、それは魔族の強力な魔力のオーラによって弾かれた。

 魔力を溜めて詠唱を続けている間は無敵なのか。俺達に打つ手は無かった。魔法なら重力を上げた状態でも口と手さえ動けば使える。


「ふたりとも逃げてー!」


 カレンの大声が聞こえた時、俺達は天から降ってきた大きな魔力の弾で消滅させられた。威力があり過ぎて痛みはあまり無かった。俺とサラは死んだ。

 その筈だった。何故か魔族が魔力を溜める場面に戻った。1分ほど前だ。


「アルトちゃん! 近くにある大きな岩を魔族に投げて! そうすれば奴の両手がふさがる! 今度は死なずに済む!」


「わかった! その手があったか!」


 俺は大きな岩の重さを軽くしようとした。重くするのの反対だ。難しい事じゃない。よし。上手く行った。俺は軽々と大岩を持ち上げた。それを魔族に向かって全力で投げつけた。


「貴様は化物か!」


 魔族の上空で軽量の効果を解除し、重力を10倍にした。物凄い速度で大岩が落下して魔族を踏み潰した。


「ぐおお!」


 魔族は生きていた。両手で大岩を受け止めた。両手両足の血管は力の入れすぎで破裂し、それでも手足を震わせて猛烈な重力に耐えている。


「重力100倍だ!」


「ま、待て! この俺がこのギャムル様がこんなガキに! ギームめ! とんでもない奴らに出会わせやがって! 復活したらギームの魂を食らってやるぞ!」


「お前を召喚したのはギームなのか?」


「ああ、そうだ。俺は命令されただけだ。奴の家系とは長い付き合いだったんだ」


「そうか。わかった。潰れろ」


 俺が重力を100倍にした瞬間魔族は大岩に潰された。地面には大量の紫の血液が流れて大きな水溜まりのようになった。


「勝ったぞ」


「うん。勝てた。1回死んだ気がしたけど」


「サラもか。実は俺もだ」


 一体あの瞬間は何だったのだろうか。確かに俺とサラは一回死んでいた。だが、今は生きている。

 楽しい筈のアルマの旅が大変な事になった。俺達はそのままアルマに向かって歩く。気を失って倒れてしまったカレンを宿屋で休ませる為に。




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