第3話

 何だと言うんだ。突然少女が異次元空間から現れた。漆黒の髪と漆黒の瞳を持った不思議な少女だ。服装は白の服とスカートがひと繋ぎになったもの。これは日本の漫画で見た服装だ。


「あなた達は? ここは一体どこなの?」


 黒い髪の少女は日本語を話した。やはりそうだ。地球人だ。異世界に転移して来たんだ。ラノベや漫画のように。


「ここはザブル村。ギルベルト共和国の首都アルマの近くだよ」


「そうなんだ。外国なの?」


「違うよ。君から見たらここは異世界だ」


「異世界って何?」


「あなたね、日本人なのに異世界転移も知らないの?」


 俺と日本人の少女が話していると、黙って見ていたサラが後ろから話に加わった。

 何故だろう言葉にトゲがあるのを感じた。憧れの日本人の筈なのに。


「わからない。私なにもわからない。お家に帰りたい」


「あなたはもう帰れないよ。一生ここで生きていくしかないの。覚悟を決めなさい」


「そんなの嫌だよ」


 黒い髪の少女は大粒の涙をその大きな瞳からポロポロと流した。


「まあまあ、このままじゃなんだから村長の家で話そう。村長なら日本語も話せるし、きっと面倒見てくれる筈だよ」


「それはどうかな。家にはお金がないよ。きっと断られる。でも、家しかないよね。行こうアルトくん」


 俺達はサラの家に向かった。黒い髪の少女は俺達の後を泣きながらついてくる。


「サラ。黒い髪の女の子の肩を抱いて背中を押してあげて。ひとりでは心細い筈だよ」


「アルトくんがそう言うなら」


 サラは黒い髪の少女を支えるようにして歩く。これで少しは安心してくれたかな。


「君、名前はなんて言うの?」


「時東可憐」


「トキトウカレンちゃんか。カレンでいい?」


「カレンちゃんがいい」


「ならカレンちゃん。もうすぐ着くからね」


「うん。あなたの名前はアルトちゃん?」


「そうだよアルトだよ」


「そうなんだ。よろしくねアルトちゃん」


 俺達が話しているとサラがカレンを睨んだ。凄い形相だ。まるで別人のようだ。


「カレンちゃん。わかってるよね?」


「サラちゃんもアルトくんの事が好きなの?」


「そうよ。正解。わかってるじゃない」


「わかった」


 そこで会話が終わった。そして村長の家に到着した。


「お父さんただいま。地球の日本からこの世界に転移して来た女の子を連れて来たよ。名前はカレンちゃん。この家で面倒を見てあげて。日本語がわかるのは私達家族とアルトくんしかいないもの。ここしか選択肢はない」


「おかえり娘よ。だが、断る」


「何でよ」


「我が家には金がない。最新の漫画も50冊買ったしな」


「嘘でしょ? あのお金には手をつけないって言ったよね?」


「だって読みたかったんだもん」


「ああ、もういい。私の食事を半分あげるからいいわよね?」


「それはダメだ。発育に影響する。胸が小さくてもいいのか?」


「それは嫌」


「ならその日本人は見捨てるんだな。どうせ、そこのお人好しのバカが面倒見るだろう。困ってる人を放っておけないエセ正義野郎がな」


「く、それでもあんた村長かよ! もういい。俺が彼女の面倒を見る!」


「ほら、俺の言った通りになったろ? これで一件落着。さあ、漫画読もう。続きが気になる」


「あんたの影響で漫画が嫌いになったんだ。何故皆に読ませてあげない? 小銭を取るならまだいい。何故、金を出しても読ませない?」


「だって俺の大切なコレクションなんだもん」


「頼むから小銭を払った人には貸してやってくれ」


「素晴らしい考えだ。だが、断る」


「く、一瞬でも期待した俺がバカだった。行くよ。カレンちゃん」


「うん」


 俺はカレンの手を引いて村長の家を後にした。サラが後を追いかけてくる。


「アルトくんごめんね。あの父親だからさ。私がいないと家計は火の車なんだ。本当にごめんね。カレンちゃんちょっといいかしら。ふたりで大切な話があるの。すぐに終わるから」


 サラがカレンを木の影に連れて言って何かを話している。ここからではよく聞こえない。

 何だろう。言い争っているようにも聞こえる気がする。

 そしてサラが火を出して話が終わった。一体なんなんだ。


「サラなにしてる!」


「ごめんね。今話が終わったの。私とカレンちゃんは仲良し。親友よね。親友は決して裏切らないものよね」


「うん」


「カレンちゃん可愛い」


 サラはカレンを抱きしめた。そして漆黒の美しい髪を撫でて耳を出して息を吹きかけた。そのまま何かを囁いたように見えた。


「きゃ! わかってる。約束は守る。だから私はアルトちゃんの家に住む」


「そうよ。親友の約束は絶対だからね。破ったらどうなるかわかってるよね」


「わかってる。サラはあの村長の娘。それで十分」


 何だろう。カレンは俺に何かを知らせようと必死に見てくる。何を伝えようとしているのだろうか。


「アルトくん。私はいずれあの家を捨てる。その時は一緒に住もうね。約束したものね。結婚の約束」


「ん、ああ。天才のサラの成長を見守っていたい。そして俺もいつか追いつく」


「じゃあね、大好きだよ。アルトくん」


「俺も好きだよ。サラ」


 俺達が別れるとカレンはずっとサラの後ろ姿を見ていた。睨みつけているようにも見えた。


「カレンちゃん俺達の家に帰ろうか」


「俺達の?」


「そうだよ。何か変だった?」


「ううん。いいの」


「今日の夕食何がいい?」


「すき焼き」


「ごめん。それは首都アルマに行かないと無理だな。明日一緒に行こう」


「うん。楽しみ」


「でも、サラも一緒に連れて行かないと怒るだろうな」


「それは嫌」


「え、今なんて?」


「なんでもない。サラも一緒嬉しい」


 なんだろう凄く棒読みだ。とりあえず、明日の予定は決まった。首都アルマに出掛けよう。ついでに父さんと母さんが仲良しだったギルドの皆にも会いに行こう。

 重力魔法を覚えたと言ったら皆驚くかな。微妙な能力だけど、珍しいのは確かだ。相手の動きを封じる能力。攻撃力はともかく、サポートとしては一級品だ。

 

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