第2話
俺は絶望した。将来設計が一気に崩れてお先真っ暗。どうしよう。しかも能力は不明。つまり無能と言われたようなものだ。
サラはまだ泣き止まない。俺の背中にしがみついて泣き続けている。
「次の人どうぞ。君達早く行きたまえ」
「はい。ごめんなさい」
「サラ。もう行くよ」
「……うん」
俺達は聖堂を後にした。サラはまだ泣いている。どうやったら泣き止むのか考えてみたが、全く思い浮かばない。
「ねえ、アルトくん全く魔法が使えなかったらどうするの?」
「どうしようかな。冒険者か剣士にでもなるさ」
「冒険者や剣士だって魔法は必要だよ。自分を強化したり。強化魔法が使える人達がなる職業だよ。アルトくんには無理だよ」
サラは意外と現実的だった。全く反論が出来ない。
「それに、私は冒険者にはならないよ。宮廷魔術師になる契約があるんだ。だからね、私達は将来別々の道を行くことになる」
「宮廷魔術師になる契約だって? 何でさ。まだ子供じゃないか。こんな子供の頃から未来を決めてしまっていいのか?」
泣き止んだサラはまるで別人のようだった。あの可愛いサラは何処に行ったんだ。戻って来てくれ。俺は必死に願った。
「私の両親には借金がある。それを返済する為に契約したの。アルトくんも宮廷魔術師になる筈だった」
「嘘だろ? さっきは結婚して一緒にドラゴン退治をするんじゃなかったのか?」
「駆け落ちしようと思ってた。だから私は急いでいたの。でもね、今は未来が見えないんだ」
近くにいるサラが遠く見える。物凄く距離を感じる。サラは可愛かったが、地球、いや、日本の本を読んで博識だ。これが本性とでも言うのだろうか。
天才のサラは同年代の俺達とはやはり違うのか。今までは俺に合わせてくれていたのか?
「サラ。俺達は幼なじみで親友じゃないか」
「親友ですって? 違うわ。婚約者だったのよ」
「だったって何で過去形なんだ?」
「そんなの決まってるよ。アルトがさっき親友と言ったから。婚約者だと言ってくれていたら未来は変わっていた。私はあなたが例え魔法を使えなくたって、何処までも世界の果てでもついて行っていた」
「サラ……お前はそこまで本気で考えていたのか。子供の可愛い夢だと思っていた」
「見解の相違ね。残念だわ。さようなら私の初恋」
「サラ……サラ!」
「引き止めないんだ。後ろから抱きしめないんだ。今度こそ本当にさようなら」
「サラ!」
俺はその場に立ち尽くした。今にして思う。サラは両親がいない俺を心配して、寂しくないように毎日遊びに来てくれていたんだ。
俺の心は今にしてようやく寂しさを覚えた。この世の中にひとりぼっち。心底孤独を感じた。
俺に魔法が使えたら。己の運命を呪った。何でもいい。魔法が使えたら。サラは戻ってくれるだろうか。
「大変だ! ドラゴンが出たぞ! サラが相手してるが、天才の魔法でも上空のドラゴンを捉えられない!」
「嘘だろ? サラ!」
俺は騒がし声がする場所に向かって走った。稲妻魔法を使えれば壮絶なデビュー戦となっていただろうに。
サラはひとりで奮闘していた。火炎魔法の火の弾を物凄く勢いで飛ばしているが、全て回避されてしまう。風魔法で竜巻を作り、その中にドラゴンを捉えて、大量の火の弾を撃ちまくる。今度は数発的中するが、それでもドラゴンは飛び続ける。
竜巻を逃れてドラゴンは傷だらけだ。危機を感じたのか、サラに向かって突撃してきた。物凄い速さだ。このままではサラがドラゴンに食べられてしまう。
「何でもいい! 魔法使えろー!」
俺はドラゴンに向かって魔力をぶつけた。するとドラゴンがズドンと地面に激突して張り付けられたように動かなくなった。
「サラがドラゴンを撃ち落としたぞ!」
「皆で突撃だ! 地上にいればドラゴンはただの大きなトカゲに過ぎない!」
「私じゃない。一体誰が!?」
後ろを振り向いたサラと目が合った。サラは不思議な目をした。そして、その後、昔のサラのように可愛らしい顔になった。この顔が俺は好きだったんだなと改めて思った。当たり前じゃなかったんだ。
「アルトくん魔法が使えたんだね」
「魔法ってどんな魔法なんだ?」
「自分でもわからなかったんだ。危ない所を助けてくれてありがとう。重力を操る魔法でね」
「重力を操る。それって凄いのか?」
「凄く珍しいよ。でもね、敵を倒す事は出来ない。さっきみたいに叩き落として動きを止めたりする程度」
「でも、これで俺達は一緒に暮らせるのか?」
「うん。一緒に暮らせる」
「おかえりアルトくん」
「出て行ったのはサラだけどな」
「えへへ仲良し夫婦でも喧嘩はするものだよ」
「夫婦喧嘩ごっこ楽しかったねアルトくん」
「楽しくねーよ! 初めての孤独を感じて打ちのめされたわ!」
「まあまあ、私のありがたさがわかって良かったね」
「ああ、本当に大切だ。今まで俺をひとり寂しくしないようにしてくれてありがとう」
「今頃わかったの? 私が寂しい訳じゃなかったんだからね?」
「そうだったんだ」
「違うの! 今のはツンデレってやつをやってみたの。寂しかったのは本当だよ。ずっと一緒にいたいもん」
「うん。俺達はずっと一緒だ」
俺とサラは正面から抱き合った。そして、そのままキスをしようとした。
「お前ら何やってるんだ。まだ子供なのに!」
俺達は大人達に引き剥がされてしまった。ドラゴンは無事に倒されたようだ。それから、ドラゴンの肉でパーティーとなった。ドラゴン肉を食べていると、サラの父親がやって来た。
「アルト。お前の重力を操る魔法は確かに珍しい。だが、凄くはない。主役になれない能力。つまり手助けしか出来ない。そんなお前には大きな稼ぎは見込めない。つまり、サラを嫁にやる事は出来ない」
「でも、サポートも立派な仕事です。今日だってドラゴンを重力で叩き落として、見事に動きも封じました」
「生意気言うな。天才と珍しいは違うんだよ。俺達は大金を稼ぐ奴しか興味がいや、あれだ。娘の将来を心配してだな」
何だろう。サラの父親は最悪だ。こうなれば重力魔法の素晴らしさを知らしめて改心させてやる。
重力魔法を攻撃に使う手段もある筈だ。今は全く思いつかないが。とりあえず、日本の漫画で読んだみたいに重力を自分に掛けて修行する事にする。
この日から俺の逆襲が始まった。いつか絶対村長を見返してやる。娘を貰って下さいと頭を下げさせてやる。
「アルトくん。お父さんと喧嘩したけど説得して、ドラゴンを叩き落とした功績で沢山お肉貰って来たよ。毎日沢山食べてね」
「ああ、サラありがとう。これから体を鍛えようと思っていた所だから助かるよ」
「腐敗防止の魔法も掛けておいたからね。いつまでも新鮮だよ」
「サラは凄いな」
「えへへ凄いでしょ」
俺はサラの頭を撫でた柔らかくてサラサラの艶のある髪が心地いい。
「じゃあ、そろそろ帰るね。また明日遊ぼーね」
「うん。また明日。待ってる」
俺は笑顔で手を振るサラを見送って、自分に重力魔法を使った。想像以上に体が重い。それにドラゴンの肉も持っている。
俺は家にたどり着くまで2時間も掛かった。普段なら10分の道のりなのに。
汗だくの体を風呂で綺麗にして歯を磨いて寝た。全身が重くて布団に吸い込まれるようだった。
「アルトくーん遊ぼう」
翌朝サラの声で目が覚めた。相当疲れていたのか寝坊したようだ。
「待ってて今行くから」
「はーい」
ドアを開けると笑顔のサラが突然キスをしてきた。胸がドキドキする。
「昨日できなかったから」
「うん。そうだね。キスって気持ちいいんだね」
「そうだね。もっと気持ちいい事もあるけどね。今度教えてあげるね。今日はね、鬼ごっこしよ」
「いいね。自分に重力魔法を使って修行するのに丁度いい」
「頑張って!」
その前に俺の腹が盛大に鳴った。腹が減った。
「ごめん。その前に朝食食べるよ。家に入って待ってて」
「うん。わかった。でも暇だから私が朝食を作るよ。新婚夫婦ごっこ」
「サラありがとう」
朝食を食べ終えると重力に慣れる修行を開始した。サラは俺が手を触れられるギリギリの所で立ち止まって、触れようとすると素早く後ろに飛んで逃れた。
「いつもアルトくんに鬼ごっこで勝てないから凄く楽しい。やーいやーい! ここまでおいで!」
かなりの重力が掛かってる俺はサラに全く追いつけず、もて遊ばれている。サラはそのまま上機嫌で逃げ続けた。
絶対ドSだ。俺の反応を見て楽しんでいる。俺が息を切らしていると顔を近づけて来た。
「ほらほらこんな近くにいるよ」
「とりゃー!」
「残念。捕まりません。えへへ楽しい。圧倒的勝利」
こんな感じで昼まで遊んで昼食。サラが毎日持ってくる弁当をふたりで食べていた。その時、サラの顔が可愛いから美人に変化した。真面目な顔だ。
「重力魔法を自分に使うのはいい発想だね。これを続けて行けば、いい戦士になれる。相手の動きも止められるし、冒険者や戦士になれるようになったね。強化魔法と似た使い方が出来る」
「そうだね」
「これで駆け落ち出来るねアルトくん」
「うん」
あんな父親だ。駆け落ちする罪悪感は減った。そんな時だった。黒い大きな穴が空いたのは。その中から少女が出てきた。漆黒の髪を持った少女が。これが漫画で読んだ異世界転移というやつだろうか。
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