幼くして重力魔法を覚えたんだが、俺って最強なのかな?

ルンルン太郎

第1話

 今日は待ちに待った魔力検査の日だ。今まで長かった。

 魔力検査をしなくては、自分がどんな魔法の特性があるかわからない。それが解らなければ魔法を使う事は出来ない。一部の天才を除いては。

 その天才とは俺の幼なじみのひとりである、サラである。サラは生まれながらに水魔法を使って水を飲んだという伝説がある。

 その次は火の魔法を使って、哺乳瓶を温めようとしたらしい。ぬるかったのだろう。

 その次は暑い夏で風が無かった。それなら風を吹かせばいいじゃないと思ったのだろう。彼女は風を吹かせて見せた。

 とまあ、サラの伝説を言えばキリがない。


「アルトくん遊ぼー」


 噂をすればサラがやって来たようだ。毎日飽きもせずやって来ては、日がくれるまで遊んでいる。まだ12歳の僕らには沢山の時間があった。

 他の幼なじみ達とは何故かサラは遊ばない。俺だけとしか遊ばない。


「アルトくーん……えーん寂しいよー」


 1分出るのが遅れただけでサラは泣き出した。天才の癖にサラは泣き虫だ。


「サラおはよう。ほら泣くなよ」


「アルトくん! 寂しかった! ぎゅー!」


 サラは俺の顔を見ると泣き顔から一瞬で笑顔になり、全力で抱きついてきた。


「アルトくん。何か固いの当たってるよ」


「は、離せよ。もうサラは寂しがりだな」


「えへへ。昨日は寂しくてアルトくんの事考えながら寝ちゃった」


「昨日も一緒に遊んだでしょ」


「もう12時間も会えてなかったよ」


「たったの12時間でしょ」


 どうやら時間の感覚で俺とサラは大きな感覚の相違があるらしい。


「ね、アルトくん大きくなったら結婚しようね。そしたらいつも一緒」


「またその話かい。もう100回は聞いたよ」


 子供の頃によくある話だ。俺は一切信用していないけど。どうせ、大人になったら無かった事にされる話さ。例え本当に結婚出来たとして、天才の嫁を持ったら大変そうだ。嫁は王宮に住む宮廷魔術師。方や夫は危険な冒険者のパーティーメンバーしかも、うだつの上がらないDランク冒険者。

 そんな事になったら笑えない。いや、その可能性は十分ある。その可能性が決定されるのが今日の魔力検査なのである。正確には魔力素質検査。俺達凡人はこの日に運命がほぼ決まる。


「ねえ、アルトくん。今日はさ、お父さんの秘密のお本読んだんだけどさ、赤ちゃん作る練習しようか?」


「なにそれ魔法で作るの?」


「アルトくんまだ知らないんだ。いいよ。私が教えてあげる。寝んねする部屋に行こう」


「いや、今日は遊べないんだ。だって今日は魔力検査の日だから」


「あ、そっか! えへへ忘れてた。だからおしゃれしてたんだね。行こうか。アルトくん」


「うん。行こう。稲妻魔法を使いたいな」


「それ私も使えないやつ。カッコいい。稲妻魔法を覚えるといいね」


 こうして、俺は家に戸締まりをして出掛けた。両親はどうしたかって?

 俺の両親は夫婦でドラゴンハンターだったが、邪悪な竜との戦いで命を落とした。1匹ではなく、兄弟で2匹いたのだ。

 多額の財産があったが、村が日照りで飢饉になったりした時に村の皆の食料を入手するのに使ったりした。そんな事が度々あり、かなり減ってしまった。


「やーい! 親無しアルトー! 今日も女と遊んでるのか? 恥ずかしい奴!」


「うるさい! 黙れ! ギーム! アルトくんの悪口言うな! 燃やすよ!」


 サラは鬼のような形相で手に炎を出している。


「やめろよ! サラ。俺はいいんだ」


「よくないでしょ。アルトくんは村の恩人だし」


「いいんだ。サラの魔法を使ったら相手は死んでしまうよ?」


「大丈夫だよ。頭が焦げて体が黒くなるだけだよ」


「それ漫画ってやつだろ? 現実とは違うの。そう言えば、まだ地球語勉強してるのか?」


「うん。正確には日本語ね。漫画は日本のが面白いんだ。アルト君も昔、一緒に漫画読んだよね」


「ああ。簡単なやつしか読めなかったけどな。裸の出る漫画は恥ずかしくて読むのを止めたな」


「あの漫画面白いのに。読んでたらお父さんとお母さんに怒られたからこっそり読んでるんだ」


「あのさ、サラの家は村長なのに貧乏なのって、漫画の買いすぎなんじゃないか? 地球からの輸入品は高いだろう」


「正確には日本ね。漫画は楽しいよ。高いけど。パンより本を選んだ人もいるんだよ」


「俺は本よりパンだな」


「そしてパンより私だね」


「いや、ステーキで」


「アルトくんの意地悪」


 こんな感じで話ながら歩いていると目的地の聖堂に到着した。既に沢山の子供が来ている。まあ、俺も子供だが。9歳からひとりで暮らしているので少し大人びている。

 胸が高鳴る。レア度の高い稲妻魔法が遂に使えるのか。もう俺の中では決定された未来だった。何故なら父が稲妻魔法を使えたからだ。その魔法でドラゴンを地面に叩き落として、母さんがドラゴンの翼を切り落とす。そう。俺は稲妻魔法の適正がある可能性が高い。


「次はアカツキアルト」


 俺の番がやって来た。今日から俺の伝説も始まるのか。サラだけでなく。俺も遂に魔法デビューだ。この日の為に毎日魔力を高めるという瞑想だけは欠かさずやって来た。初日からバンバン魔法を使える筈だ。


「アルトくん、稲妻魔法を使えたらアルトくんのお父さんとお母さんみたいに結婚して、毎日一緒にドラゴン退治をしようね」


「ああ、任せとけ!」


「えへへ嬉しい」


 正直サラは同年代の子供と比べて相当可愛い。大人になったら相当な美人になるだろう。その未来を想像して心が踊った。


「何だこりゃ! 見たことない魔力の色だぞ。司祭様ー」


「私もわかりませんな。とりあえず、古い文献にも残っていないので、とりあえず不明で」


 なんだって? 俺の未来に暗雲が立ち込めて来た。サラは俺の背中に抱きついて大きな声でわんわんと泣いている。俺も泣きたくなってきた。

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